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燃える水差し⑤

 新しい知識欲に満たされ悦に入るヴィルヘルムを邪魔するかのように、息を切らしたゲオルグが帰ってきた。手には細長い陶器の水差しを持って。


「帰ったのではなかったのですか、ゲオルグ殿?」


 ヴィルヘルムから投げかけられた嫌味をその厚顔(こうがん)で弾き返し、小夜たちを療養院の外へ連れ出した。そしてその勢いでゲオルグは小夜に詰め寄った。


「これにアルコールを入れて頂けますか?」


 ゲオルグが差し出したその水差しは水滴状の注ぎ口から下に向かって少しくびれ、その下はカブのように膨らんでいた。一見すると花瓶のような、水の量をたくさん入れることよりも、曲線美に主眼を置いたような、なんにしても戦場たる城塞都市オストプロシアには似つかわしくない逸品だった。


「昔この辺は陶器の名産地だったんです。職人が大勢いて、その技を競っていたようです。しかし猪頭鬼(オーク)の軍勢が目前に押し寄せ、職人を含めた民間人は取るものも取らず逃げました。だから彼らの残した陶器もたくさん残っているんです。」


 ゲオルグがオストプロシアの歴史を交えて説明してくれた。彼が持ってきた水差しはどうやらその職人たちが残していったものらしい。


≪でもそんなものにアルコール詰めて、ランプにするにはちょっと長すぎて不安定じゃないかな?≫


 小夜はそんな疑問を持ちながらも、アルコールをランプに注いだ。半分くらいでゲオルグに止められ、小夜はアルコールを注ぐ手を止めた。するとゲオルグは持参してきたぼろきれで水差しの表面に付着したアルコールを拭き取った。そしてそのぼろきれを細い水差しの注ぎ口に詰め込み、水差しを右手で持ったまま言った。


「これに火をつけてください。」


 小夜は仰天した。燃えるほどの高濃度アルコールを水差しに注ぎ、それにアルコールをしみ込ませた布で栓をする。そしてその栓になっている布に火をつけるということは・・・・・・。


≪火炎瓶!!≫


 ゲオルグはアルコールの可燃性を見て、武器への転用を思いついたようであった。言われた通り種火で水差しの注ぎ口に詰められた布に火をつけるヴェルナー、彼の腰は相当に引けていた。ゲオルグが右手にしている水差しはその注ぎ口から淡い青と橙の混じった美しい炎を覗かせていた。火が付いたことを確認したゲオルグは療養院前の石畳にそれを放り投げた。水差しが石畳に砕けた時、


ボワッ


 水差しを砕いた石畳は淡く美しい炎に包まれていた。


≪人を喰らい蹂躙(じゅうりん)する、猪頭鬼(オーク)たち。彼らを焼き払うにはちょうどいいカクテルかもね。≫


 小夜は美しく揺れる炎を見て胸が熱くなっているのを感じた。自分が涙をひた隠し看取った兵士たち、助けてあげられなかった兵士たち、その原因を作った猪頭鬼(オーク)を知らずに憎んでいた自分に気づいた小夜だった。


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