感冒⑪
奇策とも言うべき、小夜の考案した腹腔内水分投与は無事に終了した。思う存分泣いた後、小夜は眠り続けるエルフェリンに目をやった。エルフェリンの状態に大きな変化が無いところを見れば、少なくとも施術直後に起こり得る合併症は回避できたようだ。問題は感染症、エルフェリンの腹腔内に感染を起こしうる微生物の侵入が無いことを祈るのみだった。施術が無事終了したころには夜もすっかり更けており、テオドールとヴィルヘルムは持ち込んだ毛布に身を包み、小夜の館で一夜を明かすことを許された。もちろん一階で。小夜は二階のベッドで眠るエルフェリンの横で毛布にくるまりながら彼女の状態観察を続けることにした。
≪エルフェリン、死なないで。≫
この世界における小夜の孤独を癒してくれたかけがえのない存在。小夜が悲しみに暮れるといつもふわふわのしっぽを小夜に巻き付けてくるエルフェリン。言葉を話せない彼女でも小夜の心情を慮り、小夜を慰めようとしてくれたエルフェリン。夜には身を寄せ合って姉妹のように眠ったが、エルフェリンはトイレトレーニングが為されておらず、ときどきベッドをびしょびしょにしてしまうエルフェリン。朝を迎えしょぼんとして小夜を見つめるエルフェリン、そのシーツを洗い始めるとすぐに快活に笑うエルフェリン。
そのすべてが愛おしく、小夜の心情を支え続けてくれていた。
「エルフェリン、死なないで。」
小夜は涙ながらに呟いた。




