感冒⑦
小夜の急な呼び出しを受けヴィルヘルムが取るものも取り敢えず小夜の館に駆け付けた。この時ばかりは迅速なヴィルヘルムに感謝する小夜、そして小夜の役に立てそうで嬉しそうなヴィルヘルム。二人は眠ってしまったエルフェリンの横で経口摂取に代わる栄養の代替輸送路、胃瘻造設の準備を始めた。一階で小夜が湯を沸かし始めた時、その『診断術』にてエルフェリンの胃瘻をどこに作成するか探していたヴィルヘルムが訝しむように言った。
「導師、エルフェリンの胃袋なんですが、なんと言うか・・・・・・。」
珍しく自信なさげに言い淀むヴィルヘルム、その不安を嗅ぎ取った小夜が二階へ駆け上がる。ヴィルヘルムの説明によると、エルフェリンの胃はその体表近くには無く、薄い膜で包まれた筒のような臓器が胃の上に乗っているとのことであった。それを聞いた小夜の頭にある診断名と暗澹たる不安が浮かび上がった。
≪よりによってキライジチ症候群・・・・・・。≫
本来人間の胃は体表から最も近いところに存在する臓器である。しかし先天的な異常で胃の上に腸管が乗ってしまうキライジチ症候群、胃瘻造設を困難にさせる先天奇形であった。あるいは『獣憑き』と呼ばれる種族のエルフェリン等はこういう臓器の並び方をしているのかはわからない。ただいつものように体表と胃に瘻孔を作ろうとするとその間に腸管が挟まれてしまい、体表面と胃を繋ぐ瘻孔を形成すれば挟まれた腸管に孔が開いてしまう。そうなれば腸から内容物が漏れ出し腹腔全体に炎症が波及する、腹膜炎と言った重篤な合併症を併発する恐れもある。このような内臓の位置では胃瘻造設は難しい。
≪エルフェリン・・・・・・。≫
明らかに衰弱しているエルフェリンを見て、うっかり小夜は涙を零しそうになる。
≪今は、今は泣かない。泣くべきじゃない、処置が終わるまで私はプロだ。≫
小夜は自分を鼓舞しながらも絶望的とも言える現状と戦う覚悟を決めた。




