ヴィルヘルム・アイントホーフェン②
城塞都市オストプロシアに新参『治療術師』として赴任したヴィルヘルム、彼は希望に燃えていた。すでに城塞都市オストプロシアには数名の『治療術師』が赴任していたが、彼らの噂は芳しくなかった。それは兵士の損耗率に裏付けられており、それが若き美しき青年治療術師、ヴィルヘルムを鼓舞していた。
ヴィルヘルムの赴任地である城塞都市オストプロシア、そこには絶望しかなかった。未だ劣勢の人間がとった戦法、まずは『幻術師』や『爆炎術師』による先制攻撃を猪頭鬼の集落に仕掛け、出てきた猪頭鬼を迎え討つ。遠征と呼ばれる城外戦にて、城塞都市オストプロシアに戻れるのは兵士の半分のみ。負傷兵の多くは逃げることもままならず、猪頭鬼の牙に切り裂かれた。なかには城塞都市オストプロシア目前まで迫る追手の猪頭鬼を追い返すための飛び道具、弓矢や投石、そして『爆炎術』、不幸にも兵士の中には味方の攻撃に倒れる者もいた。それでも城塞都市オストプロシアに立て籠もる籠城戦を選択せず、無謀な襲撃を繰り返すのは少しずつでも相手の戦力を削ぐためであった。城塞都市オストプロシアに猪頭鬼の防ぎきれない大群が押し寄せないようにするため、城外での消耗戦を強いられていた。
ヴィルヘルムは赴任直後から奔走した。彼ら『治療術師』はその損耗を避けるため、城外に出ることが禁じられていた。だから彼は壁内で負傷兵たちを今か今かと待ち侘びていた。遠征から帰ってきた兵士たちは誰もが疲れ切っていたが、それでもどうにか負傷した仲間を見捨てず連れて帰ってきた。『療養院』と呼ばれる治療所に集められた負傷兵たち、ヴィルヘルムは帝都にいた時と同じようにその傷を塞ぎ、千切れた手足を繋いだ。しかし傷が塞がり、手足を繋いでもなぜか兵士たちは次々と死んでいく。帝都では上手くいっていたはずの治療がここでは奏功しない。癒したはずの傷口には必ず悪臭を伴う膿が湧き出し、丁寧につないだ手足はその断端部から猛烈に腫れた。そしてみな高熱にうなされ、食事も摂れなくなり薄暗い『療養院』のベッドで死んでいくのをただ見守ることしかできなかった。
『療養院』に入った兵士たちの生還率は低く、その建物の前を通る人々は手を合わせ彼らの冥福を祈り、傷病兵たちは『療養院』に入るのを忌避するほど、そこには死が蔓延していた。そんな『療養院』で若き天才治療術師ヴィルヘルムは苦悩の日々を送っていた。治療のそして人生の導師と崇める小夜に出会うまでは。