呪われし大地⑬
「盛り上がっているところすまない、兵士諸君。」
兵士たちよりも大きい『爆炎術師』ゲオルグの図体は、こういった説得に大きくものを言った。兵士たちはその迫力と療養院の中にいる音に過敏になっている弓兵を思う気持ちに負け、すぐにその場を解散した。これでしばらくはこの辺りは静かになるだろう。そうこうしている間に小夜とヴィルヘルムがエルフェリンに連れられ、療養院へ戻ってきた。道案内をするエルフェリンの様子に、連れられた二人も緊急事態を理解していた。到着を待ってヴェルナーが敢えて療養院へは入らず、療養院の外で説明を始めた。弓兵の病歴、そしてここに来てからの状態を。そして奇妙な弓反り姿勢のことを。
≪後弓反張!!≫
小夜は病歴とその奇妙な弓反り姿勢を聞いてすぐに理解した。
≪その兵士は破傷風菌に感染したんだ。≫
感染経路となる外傷を負った後しばらくしてから、初期症状として寝汗や体の緊張が現れる。その後その顔貌は歪み、牙関緊急と呼ばれる開口障害が出現する。そして音や光等の外部からの刺激に敏感になり、さきほどゲオルグとヴェルナーを仰天させた弓反り姿勢、後弓反張をくりかえす。
≪どうしよう、この世界には治療法が存在しない。≫
これだけ典型的な症状が揃えばもはや診断名は破傷風で疑いの余地はない。問題はその治療だ。小夜の知る医学では破傷風菌の出す毒素を中和する薬剤を投与し、細菌感染自体を治療する抗生剤を投与し、けいれん発作に対し抗けいれん薬を投与する。しかしそんなものこの世界にはどれ一つとして存在しない。
≪無いものを当てにしても仕方ない。≫
破傷風の看護において重要なのは音や光の刺激がない静かな環境に病人を置き、最も重症な時期をやり過ごすことだ。強い音や光は破傷風のけいれん発作を誘発するからだ。しかし未だ最前線基地である城塞都市オストプロシアにそんな場所など有りはしない。いまだ療養院の外で思案を続ける小夜であったが、ふとヴィルヘルムにその視線を向けて言った。
「以前痛みを消す施術を行ってたよね。あれの応用で、一時的に視力と聴力を麻痺させることできる?」
ヴィルヘルムはしばし考えに耽り、そして美しいその口角を上げてにこりと頷いた。




