呪われし大地⑫
ヴィルヘルムは兵舎での治療を終えて、飼い主の元に戻るのが当然と考える飼い犬のように小夜のいる蒸留所へと向かい始めた。その美しい瞳を朝日に輝かせながら、軽やかなステップで小夜の元に馳せ参じた。
小夜たちが消毒用高濃度アルコールの蒸留を終えたのは昼過ぎだったが、そのころ療養院では先ほどの弓兵の容態が悪化し始めていた。
「こんにちは。みなさん、ご機嫌いかがですか。」
その巨体に負けぬ大声で、療養院にずかずかと上がり込んできたのはおなじみの『爆炎術師』ゲオルグだった。もちろん彼には悪意など欠片も無かった。しかしゲオルグの来訪が安定していた弓兵の容態を急変させた。先ほどまですやすやと寝息を立てていた弓兵がかっと目を開き、その後踵と頭を頂点にして弓反りになった。驚きのあまり声を失う、ゲオルグとヴェルナー。しばらく奇妙な態勢を取り続けた弓兵は緊張の糸が切れたかのようにベッドに崩れ落ちた。顔面は汗にまみれ、体中がおこりのようにぶるぶると震えている。どうすることもできずに固唾を飲んで見守るゲオルグとヴェルナー。しばらくしてそのおこりのような全身のけいれんは収まり、先ほどと同じように寝息を立て始めた。それを見てほっとした二人だったが、療養院の外が何やらにぎやかになり、
「プロイゼ帝国ばんざーい。」
と大声が療養院の中まで響いた。すると弓兵はさきほどの状態を繰り返すように弓反りの態勢をとり、その弓反りはさきほどよりも重症に見えた。そしてしばらくするとまたベッドの上に崩れ落ち、ぶるぶると全身をけいれんさせていた。ゲオルグとヴェルナーは気づいた、この弓兵を弓反り姿勢にさせるものを。二人はその原因を作らないように、足音も立てずに互いに近づき、ささやくのような声で相談を始めた。そう、彼らが考えた増悪の原因は音だった。一部始終を見ていたエルフェリン、彼女に迷いはなかった。すぐさま小夜を探しに走った。エルフェリンは状況を理解しているような彼女なりの忍び足で療養院を後にした。




