呪われし大地①
城塞都市オストプロシアがいよいよ盛夏を迎えたころ、城塞都市オストプロシアにはある変化が見受けられるようになっていた。常に空き部屋に溢れ、新しい主人を得てもすぐに帰らぬ人となり次の主人を探していた兵舎の個室、その空き部屋が明らかに減り始めたのである。東の最前線基地となり果ててからはその人口は軍属で埋められていた城塞都市オストプロシア、その人口統計を左右するもの、それは戦場での死亡数に他ならなかった。だから兵舎の個室、その主は次々と入れ替わるのがこの兵舎での習いであった。しかしある時を境にその当然と思われていたその常識が変わり始めた。兵舎の個室を我が家としていた若い兵士たち、彼らが死ななくなったのだ。正確には死ににくくなったと言うべきであろう。
兵士たちは常に勇敢に戦い続けていた。しかし彼らも人間、死の恐怖は当然持っていた。戦場に置いて不幸にも死を迎えた兵士にはさらなる不幸が待ち受けていた。猪頭鬼は彼ら敗残兵をその生死に関わらず、平等に扱った。猪頭鬼たちは人間がパンを齧るが如く、敗残兵たちを文字通り食い散らかした。その光景はどんな勇敢な兵士たちにも少なからず恐怖を与えた、一定以上の負傷を負い、戦場に取り残されれば自分たちもああなってしまうのだと。しかしその恐怖を打ち消したものは、そう、小夜の考えた後送システムであった。倒れた兵士はその生死に関わらず猪頭鬼たちの牙が届かないところまで搬送される。これは兵士たちに大きな安心を与えていた。重傷を負っても仲間が安全な所へ運んでくれる、万が一命を落としてもその身を猪頭鬼の糧とされない。そんな安心が兵士たちを今まで以上に勇敢に戦わせた。
さらに彼らの勝率を上げた要素は、負傷兵が言葉通り前線からいなくなることにも起因していた。最前線にて負傷して動けなくなった仲間を気遣わない兵士はいない、その気遣いが猪頭鬼たちに隙を与えることになる。戦場で敵から目を逸らせば、その代償は自分の命を以て支払うのが戦場である。そして死んだ兵士たちは木柵のそばで倒れる。先ほどまで隣で奮闘していた友の亡骸を踏みつけてなお戦えるほど彼らは冷淡ではない。結果、死んだ兵士が倒れている場所を補うことができず、それが木柵を破られる原因になっていた。
重傷を負った前線の兵士を安全な後方に搬送する術ができた今、前線の兵士たちはこれまで以上に勇猛果敢に戦い、倒れた仲間がいない最前線で兵士たちは思う存分その槍を振るうことができるようになった。そして倒れたものは後送され必要があれば療養院に運ばれ、適切な処置を受け回復して原隊に復帰する。結果遠征と呼ばれる城外戦で死者が減り、その結果として戦果が上がり、最終的に兵舎の個室が埋まるような事態になっていた。この世界の人類はついに猪頭鬼への反攻を始めた。




