訓練場での事故⑦
あっという間にヴィルヘルムの施術が右胸部に排気孔を作った。そこから勢いよく圧力が高まった空気が排出され、兵士の顔色に紅がさした。見ればテオドールを不安に陥れた首の膨張する青筋がその姿を消していた。
「ヴィルヘルム、右の肺には穴が空いている。塞げる?」
小夜が尋ねた。
「私は導師の優秀な弟子、指示に従えないことなど有り得ません。」
『診断術』を用いたヴィルヘルムは肺に空いた穴の位置をすでに特定していたようだ。相も変わらず小夜の知る外科医学を圧倒的に凌駕するヴィルヘルムの『治療術』。先ほど右胸部に空けた排気孔を呼吸に合わせて抑えつつ、右肺に空いた穴を塞いだ。この状況を驚きつつも感激する小夜、そして僅かな進歩ではあるが、このヴィルヘルムと小夜はもちろん、ヴェルナーとテオドール、そしてエルフェリンは強力な医療チームとしての体を成し始めていた。褒めてばかりの小夜には、そのチームを育て上げた自分の功績を実感することなど有りはしなかったのだが。
小夜に与えられた指示通り肺の穴が塞がったことを確認し、排気孔を軽く押さえながら兵士に深呼吸を促す。兵士の呼吸状態は回復していることがその表情からも見て取れた。兵士に深吸気後の息堪えを指示し、その間にさきほどヴィルヘルムが明けた排気孔を塞ぐ。これで治療は完了した。先ほどまではほぼ死にかけていた兵士があっという間に回復し、進まれるがままチーズ粥を貪った。これで施術後の回復も危ぶまれることはあるまい。治療を終えた一同はビールがなみなみと注がれたジョッキを傾け始めた。




