訓練場での事故②
昼下がりの訓練場では血気盛んな兵士たちが訓練に勤しんでいた。午前中の全体訓練が終わり、昼食の後は自主鍛錬の時間、腕立て伏せに励むもの、走り込むもの、そしてお互いに技を試しあう模擬戦闘が行われていた。模擬戦闘は若い兵士たちには娯楽的な要素を含んでおり、一対一の模擬戦闘が始まれば周囲には見物の人だかりが必ず出来るほどの人気であった。本来彼らの戦う相手は猪頭鬼であり、短剣を使った対人戦闘は訓練とは言い難い。しかしこの模擬戦闘は毎日のようにあちらこちらで見られた。そしてこの模擬は本物の短剣を使用するため、彼らは鎧兜を実戦同様につけて行っていた。しかしその日は気温が上がり、鎧を纏うには少々暑すぎた。
「待て、もう一本だ。」
短剣を用いた模擬戦闘にて先に一本取られた兵士は明らかに頭に血が上っていた。そしてがしゃがしゃと鎧を脱ぎ捨て、先ほど勝利した兵士を挑発し始めた。挑発を受けた兵士にも怒りが伝播したのか、相手に倣って鎧を脱ぎ捨てた。周囲は止めるどころかさらに盛り上がり、歓声は一層大きくなった。もはや訓練でも何でもない決闘と成り果てた二人の戦いに群衆は沸いた。
短剣が切り結ばれるたび、
ガキン、ガキン
と鈍い金属音と火花が飛び交う。飛び交う二人の汗にかすり傷からの赤い血が混じる。そしてその汗と血に足を滑らせた先ほどの勝者が派手に転倒する。その隙を逃さず先ほどの借りを返そうと猛る右手に持った短剣を振り上げ・・・・・・、優しき左手を倒れた戦士に差し出した。差し出された左手を見て、転倒した新たな敗者は苦笑いをし、右手の短剣を離した。そして座ったまま左手を新たな勝者に差し出し、周囲がその潔さに沸いたときにそれは起こってしまった。
今度は勝者が足を滑らせた、咄嗟に倒れまいと地面についた右腕には彼の短剣が握られており、その刃は彼の右胸に向いていた。慌てて転倒した兵士が倒れ込んでくる相手を支えたが間に合わなかった。群衆が目にしたものは、勝利しつつも敗者を気遣う気高い勇者の胸にその短剣が深く突き刺さった姿だった。




