戦闘外傷救護講習⑤
「次は止血についてお話します。」
小夜の説明は続く。この世界でも出血が続けば全身から血液が失われ、結果死に至ることは知られていた。しかしこの世界で知られている止血方法は創部を直接圧迫する、圧迫止血に限られていた。そこで小夜は止血帯による止血を兵士たちに教えた。これは創部よりも上流の動脈を止血帯で締め上げる方法で、手で押さえ続ける圧迫止血よりも負傷者の後送が楽になるうえ、外傷によっては圧迫止血よりも救命の可能性が高まることが期待できるという画期的な止血法である。すると熱心に来ていた兵士の手が挙がる。小夜は笑顔で質問を受け付けた。
「あんまり締め付けて血が通わなくなると、そこから先が腐って取れてしまうと聞いたことがあります。途中で緩めたりしなくても良いのですか?」
締め付けによる血流障害、つまりは阻血による壊死のことをこの兵士が知っていたことに驚きながらも小夜は笑顔のまま答えた。
「手足が無くなっても命は無くならなりません。でも血が無くなると命が失われてしまいます。」
小夜が生きていた現代社会でも阻血による壊死を恐れて止血を緩和することはほぼなく、止血帯を外すのは外科的な創部の止血が完了した後になる。結果手足を失うことになっても義手や義足がそれを補い、失われなかった生命を謳歌できる。未だ不安そうな顔をする質問者の兵士に小夜は続けた。
「生きて療養院に辿り着いてくれば、手足の一本や二本、療養院自慢の『治療術師』が必ず補ってくれます。」
何しろ黒焦げになった目玉を再生する『治療術師』だ。失われた手足を補うなど造作もないことだろう。メモを取るのに夢中で自分のことを話されているのになかなか気づかなかった麗しき天才『治療術師』ヴィルヘルム、彼へ兵士たちの期待に溢れた視線が集まっていることにようやく気付き、
「お任せください。皆さんは導師の指示を忠実に守ってください。必ず助けます。」
と仰々しく胸を張って見せた。小夜の前では小夜のご機嫌を取ろうと三枚目要素が濃いヴィルヘルムであるが、こうして堂々としているときはまるで美しく彫り上げられた伝説の英雄を象った彫像のように輝いている。そのギャップを小夜はほほえましく思う中、講演会場は割れんばかりの拍手に包まれた。




