猪頭鬼
戦乱が続くこの世界、秩序を求めるものと混沌を望むものとで戦いは終わりが無いものに思えた。秩序に統べられた生活を求める人間たちと、人間よりも一回り大きなその体を利用して収奪と凌辱をその生業とする猪頭鬼と呼ばれる亜人間たち。猪頭鬼の名の通り、牙をはやした猪のような頭部と毛皮に覆われた強靭な巨体、その風貌は人間からすればまさに悪夢の産物、それが猪頭鬼であった。猪頭鬼たちは生産を知らない、狩人が獣を狩るが如く、人間の集落を襲い、文字通り人々を食い殺し、略奪の限りを尽くした。そして人間たちが猪頭鬼を恐れるもう一つの理由、それは彼らの集落には雌がいないこと。猪頭鬼集落のすべてが逞しい雄のみで構成されていた。彼ら猪頭鬼にはわかっていないことも多い、ただ分かってしまったことでより恐怖を増すこととなった事実、彼ら猪頭鬼は他人種の女を殺さずに浚うこと。そして生殖能力があると判断されれば、その女たちは猪頭鬼たちの繁殖という仕事を与えられる。女たちは多胎を強いられ、毎年のように猪頭鬼の出産を余儀なくされる。そしてその命が尽きるか、生殖能力が尽きた時、彼女たちは用無しとなり猪頭鬼たちに人間の男性と同じ扱いを受ける。そんな不条理な世界でも人間たちは必死で生きていた。