小夜の館②
ヴィルヘルムの説明によるとこの狐と少女を愛らしく掛け合わせたこの亜人間、『獣憑き』と呼ばれているらしい。発見されるところは主に人里離れた場所で、10歳くらいの少女の姿で発見される。彼ら『獣憑き』がどこから来るのか知る者はおらず、わかっているのは人語をある程度理解し人間に好意的な個体が多いこと、病気や怪我で息を引き取る個体以外はある程度長生きすると突然その姿を消し二度と戻って来なくこと。それが『獣憑き』と呼ばれる生き物たちの人間が知る全てであった。
「本来人間の雑用係を導師の家に配置する予定だったようですが、男性と導師を同居させるわけにもいかず、それを雑用係の代わりに置くことにしたのです。」
長々しいヴィルヘルムの説明を聞きつつ、この『獣憑き』と呼ばれる愛玩用に生まれたとしか思えないような愛らしい獣少女を背後から抱きかかえ、猫にするように喉を指で撫でていた。出会った瞬間から小夜の余りある寵愛に躊躇していた『獣憑き』であったが、喉を愛撫されるのが気に入ったのか喉を鳴らしながら後頭部を小夜の胸に擦り付け始めた。
出会ったばかりの二人があまりに意気投合しているのを見て、明らかにいらいらし始めたヴィルヘルム。自分の導師の寵愛を他人が受けているのがたまらなく不快であるようだ。
「君、名前は?」
「それは話すことができません。ある程度人語を理解する獣です。」
嫉妬がヴィルヘルムの口を悪くし始めた。すると小夜が悲しそうに下を向きながら呟いた。
「そんな言い方をするな。言葉を話せなかろうが、私にとっては人間と変わりない。」
「しかし、導師。」
「頼むよ。君を嫌いになりたくない。」
「了解です。大変失礼いたしました。彼女にはまだ名前が無いようです。」
慌てて背筋を伸ばしいつもの丁寧な口調に戻ったヴィルヘルム、彼もまた小夜の寵愛が欲しいのが見え見えであった。いつもの冷静さと優しさを取り戻したヴィルヘルムをほっとしながら眺める小夜、そして『獣憑き』と呼ばれた少女に告げた。
「では私が名付けよう。君は今日からエルフェリンだ。」
青い髪の毛から狐の耳をのぞかせる少女は、エルフェリンと呼称され自分の名前と理解したかのように嬉しそうに頭を上下させ、そのもふもふしたしっぽを揺らし始めた。




