謁見③
「見ましたか、導師。あの領主の感激ぶり。やはりあなたは選ばれしもの、私たちを勝利へと導く救い主なのです。」
ヴィルヘルムは城塞都市オストプロシア領主の館へ向かう時よりも帰り道のほうが饒舌になっていた。小夜は別に特別なことをしたつもりも無かった。ただ、つらいという人間の感情に対し、それを受け止めて相手に返しただけ、それだけのつもりであった。相手の苦痛に対し、それを否定することなくその言葉に共感しつつ相手の仕草を真似て連帯の意思を示す『ミラーリング』と呼ばれる技法、話術のテクニックとしてではなく、自責の念に苛まれた気の毒な領主を見て思わずこの方法を選択した小夜がいた。これがはまりすぎた結果、領主は小夜を快く受け入れなんと一軒家まで用意してくれることになった。ヴェルナーとテオドールとともに療養院で寝泊まりしていた小夜にはありがたい申し出であった。
「私のところでしたらおもてなしもできましたのに。」
この決定にヴィルヘルムはちょっと残念そうだった。兵士たちは兵舎にて集団生活だが、『治療術師』や『爆炎術師』などの『術師』は一軒家があてがわれ、そこには世話役も置かれていた。ヴィルヘルムは自分の屋敷に小夜を呼び寄せたかったようだが、小夜には有難迷惑であったので正直ほっとしてた。
《導師、導師と四六時中ずっと纏わりつかれても困るしね。》
小夜はこの世界に来てからこっそり体を拭くので精いっぱい、どうやらこの世界では毎日風呂に入る習慣は無い様だが、せめて周囲の目を気にせずに水浴びぐらいしたかった。この世界に来て初めての一人を満喫できる予感に小夜はワクワクしていた。




