邂逅②
若き天才『治療術師』ヴィルヘルムはこれ以上小夜に指摘されないように、細心の注意を払いながら再度患部に触れた。ヴィルヘルムが先ほどとは違う祝詞を唱えると、彼の右手が淡い光を帯び始めた。そして小夜とヴェルナーとテオドールが見つめる中、負傷兵が呟いた。
「ああ、痛みが引いてきました。」
どうやらヴィルヘルムが『鎮痛』の施術を行ったようだ。明らかに苦痛の表情が消えた負傷兵の手をテオドールに握ってもらう小夜、彼女はまだ手を清潔に保つ必要があったのだ。
「少し押される感じがあるかも知れません。」
患部から顔をそむけて、ヴィルヘルムが負傷兵に語り掛けた。もちろん、その前に小夜からアイコンタクトによる承認を得た後で。新たな祝詞を可能な限りの小声で唱えるヴィルヘルム、すると今度は右手の人差し指が青い光を帯びてきた。そして患部の腫れた部分を指さすと、不思議な光景が描き出された。負傷兵の腫れた右のふくらはぎ、それを指さすヴィルヘルムの指をふくらはぎの肉が避けるようにトンネルが作られ始めた。ヴィルヘルムの施術で穴を開けているようだが、まったく出血がないし組織が傷害されている様子もない。それは元からあるピアスホールがどんどん深くなっていくように見えた。そしてヴィルヘルムが頷いたとき、勢いよくヴィルヘルムが空けたトンネルから膿が噴き出してきた。驚きの表情で膿瘍の存在を言い当てた小夜を見つめるヴィルヘルム、そんなヴィルヘルムの施術の見事さに驚く小夜。お互いに呆気に取られていたが、先に我に返った小夜は準備させておいた湯冷ましを創部にそっと注ぎ始めた。流れ出てくる水ははじめのうちは膿に汚れていたが、徐々にきれいな水になっていく。創部の洗浄がなされた証拠である。
「ヴィルヘルムさん、この開けてくださった穴少しこのままにしてもよろしいですか?膿が出なくなったことを確認してから閉じて欲しいんです。」
もちろん、と言おうとしてヴィルヘルムは口を塞ぎかけ、すんでのところでその手を止め、にこやかな表情で小夜にOKの返事をした。その後小夜は煮沸消毒(沸騰したお湯の中に治療器具、布などを入れて煮ることで消毒する方法)した陶器のストロー、元々はビールの不純物を濾過するために使っていたもの、これをドレーン(創部などから排液を促す導管)代わりに留置し、ヴェルナーに煮沸させておいたガーゼで創部を覆い、包帯を巻き直した。それを見つめるヴィルヘルムのまなざしはすでに憧憬と尊敬の視線そのものであった。




