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邂逅①

 療養院にやってきたヴィルヘルムと呼ばれる二人目の『治療術師』、すらりと背が高く暗い室内でも輝くような白い肌、古い血液がこびりついた黒いローブに隠されているが小麦のように輝く金髪と対を成すように空の青さを映したような瞳、昨日までの小夜には絵本の中から飛び出してきた王子様にしか見えなかったであろう。


≪湯本君?≫


 そう、この若き『治療術師』、この世界に来る直前にプロポーズにも近い言葉をかけてきた青年看護師湯本たけしに瓜二つであった。違いは目の色と髪の色が入れ替わっているだけ。小夜は我を忘れて見とれそうになったが今は看護師としての使命感がうち勝った。


「教えてください。どうして膿が溜まっているとわかったのですか?」


 この脳を蕩かすようなバリトンボイス、ヴィルヘルムと呼ばれた彼は声まで湯本とそっくりであった。先ほどの老年『治療術師』とは違い丁寧な問いかけに小夜を答えた。


「患部に発赤腫脹、熱感が見られます。患部に触れると触感から内部に液体貯留が疑われました。」


 若く美しい『治療術師』は感心したように頷いた。そして、


「私はヴィルヘルム・アイントホーフェン、女の方お名前をお聞かせください。」


と自己紹介をした。


「サヨ、サヨ・オウツカです。」


「サヨさん。ではさっそく患部を確認しましょう。」


 そう言いながら右下腿の腫れた負傷兵に微笑みかけ、患部に触れようとしたとき、


「だめっ。」


と小夜がうっかり叫んでしまった。びっくりして小夜に向き直る若き『治療術師』ヴィルヘルム・アイントホーフェン。つい叫んでしまった自分を恥じるように咳払いし、気を取り直しながら小夜が言った。


「まずは手洗いを、それからその不潔なローブも脱いでいただいたほうが・・・・・・。」


「私の手は汚れていますか?ローブも脱ぐべきでしょうか?」


 ヴィルヘルムは不思議そうに尋ねた。その言葉には嫌味も反論の意思も感じられず、ただ純粋な疑問のみが存在した。


「あの、ヴィルヘルムさんの手には、膿のもとになる微生物がくっついているかも知れないので。」


 不思議そうな顔をしながらもヴィルヘルムは厨房に用意された石鹸と湯冷ましで手洗いを始めた。その間に小夜は同じように清潔にした手で腫れ当たった皮膚を石鹸で洗い湯冷ましをかけた。


≪本来は消毒したうえで手袋して欲しいけどこれが現時点での最良策。≫


「なるほど、これで膿のもととやらは私の手から離れたのですね。」


 きれいになった自分の手をしげしげと見つめながら、ヴィルヘルムは再び兵士の右ふくらはぎに触れようとした。目配せで小夜の承認を確認しながら。患部に触れながらぶつぶつと祝詞を唱えるヴィルヘルム、するとはっとした顔で小夜のほうに向き直った。


「本当だ、中に液体が溜まっています。」


 彼らの『治療術』には中身を外から観察する、超音波検査やCTスキャン(超音波やレントゲンを使って体の外から体内の様子を診察する診断器具)のような『診断術』も含まれているようだ。その『診断術』に驚く小夜に対し、その術を持たずに膿瘍を指摘した小夜に対するヴィルヘルムの視線は尊敬を強く帯びていた。


「サヨさん、あなたは『治療術』の心得もなく、自らの経験と知識でこれを言い当てたのですか?」


 興奮気味に話すヴィルヘルムを諭すように小声で小夜は語り掛けた。


「ヴィルヘルムさん、治療中はあまりお話にならないほうが。我々の口の中からも膿のもとは飛び出してきますから。」


 慌てて口を抑えたヴィルヘルム、この行為で不潔になったとみなされた両手をもう一度洗いに行かされることになった。


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