オストプロシアの早春⑤
「『爆炎術師』のゲオルグ殿はおられますか。」
昼食の時間にゲオルグが療養院にいるのはもはやオストプロシアでは常識になっているようだ。一名の要救助者を残し分隊を引き連れ戻った探索部隊の隊長がゲオルグを呼びにやって来た。
「どうしたのです?」
ちょうど療養院の皆に探索部隊の話をしていたゲオルグは偶然に戸惑いながらも探索部隊の隊長に尋ねた。
「実は隊員が一名、南側の山にて大木に足を挟まれて動けなくなっております。まずは斧で木を切ってみますが、難しければゲオルグ殿の『爆炎術』にて・・・・・・。」
「すぐ行きます。ではみなさん、失礼します。」
そういいながらゲオルグが出ていこうとしたとき、
「待ってください。」
と小夜が呼び止めた。ゲオルグと探索部隊の隊長は何事かと振り返る。
「その足を挟まれた人・・・・・・。」
何時間足を挟まれてますか、と聞こうとして言葉が出ないことに小夜はもどかしさを感じた。そう、時計のないこの世界には細かく時間を表現する言葉がないのだ。
「言い方を改めます。探索隊は朝出発したのですか?」
「はい、出発して山を探索し、地崩れに遭遇して戻って来ました。」
≪つまり八~九時ころに探索隊は出た、今が正午過ぎ。つまり行って帰って三~四時間。つまりは挟まれてからすでに二時間近くが経過しいる。そしてもう一度向かえばさらに時間を喰うことになる。≫
小夜が懸念していたのは、クラッシュシンドロームと呼ばれる疾患だった。クラッシュシンドロームとは大きな災害や戦争などで見られる疾患で、手足を長い時間挟まれていた人がその障害物をどけた直後に状態が悪化し、最悪死に至る疾患だ。この疾患は挟まれていた四肢にたまっていた細胞からの逸脱物質や過剰な電解質が、圧迫の開放によって全身に回ってしまうことにより急性腎不全や心停止を引き起こす。挟まれた兵士の状況からはクラッシュシンドロームが疑われる。小夜は思案した。クラッシュシンドロームの治療はまず大量補液、そして必要なら血液透析だがここではそんなことはできない。
「すみません、サヨさん。部下を早く助けに行きたいのです。」
隊長は苛ついているようだ。小夜にはもう迷っている暇はなかった。
「私を同行させてください。」
誰もが驚くような内容と声で小夜が叫んだ。




