海に繋がる川⑨
「本当に痛みが消えました。ありがとうございます。もう二度と魚は生で食べません。」
ヴィルヘルムがアニサキスを摘出した後、真っ青な顔をしていた兵士は文字通り全回復し何度も頭を下げた。付き添いの同僚も頭を下げながら療養院を後にした。この話が広まればもう魚を生食しようという物好きは現れないだろう。
≪無事治療が終わってよかった。≫
そう思いながらも小夜は改めてヴィルヘルムの持つ力に感心していた。器具一つ使わず胃の中を覗き、薬に頼ることなく痛みなしで胃に繋がる瘻孔を血の一滴も流さずに形成し、直視下で胃壁に食い込んだアニサキスを文字通りつまみ出す。感心しきりでヴィルヘルムを見つめていると、ヴィルヘルムが誇らしげに語りだした。
「さすが私の導師、病気の原因を話を聞いただけでぴたりとお当てになる。そして私を適切な治療へと導いてくださる。素晴らしい・・・・・・。」
話の途中で誰かが療養院に入ってきた。
≪なんだ、エルフェリンか。≫
入ってきたエルフェリンはどうにも元気がなかった。顔を青くしながらお腹を押さえて、なにやら吐き気を催しえずいているようだ。
「エルフェリン、まさかあなたも魚を生で食べたの?」
慌ててエルフェリンを左側臥位にする小夜、そして言われるまでもなくエルフェリンの胃袋を『診察』するヴィルヘルム。そしてヴィルヘルムは小夜に呆れたように告げた。
「胃袋がパンパンです。食べ物の一部が胃袋から漏れ出そうです。」
エルフェリンの診断は、焼き魚の食べ過ぎだった。




