【1話】
その日は蒸し暑かった。(まじで今日絶好のプール日和じゃん)そんなことを思いながら学校へ自転車を漕いでいた。すると
「おっすー。またボーッとしてるやん」
後ろから声が聞こえた。だ。桜子とは中学校から同じでお互い家族ぐるみの付き合いだ。桜子は茶髪のショートヘアーでいかにも「スポーツできます!」って感じの女の子だ。その通りで、桜子はバレー部で次期キャプテンと言われるぐらい、スポーツができる。私にとってはとても大切な友達だ。
キキーーッッ ドンッッ
(あれ...何かに...ぶつかった...?)私は地面に倒れていた。
「だ...誰か!救急車!救急車呼んでくれへん!?」
少し遠くから桜子の声が聞こえる。だいぶ...慌ててる...みたい...な
「奏!?奏大丈夫か?しっかりせえよ!」
あー...なんか...桜子に...申し...訳ないな...ホントに......ってか桜子って...誰だっけ?
「頼む!誰か!救急車呼......」
「こんなのあり得な......」
(誰かの声が聞こえる...)寝ていた私は目を覚ました。けれどそこは見たこともない場所だった。周りには見たこともないような、大きな機械がたくさん並んでいた。(何...これ...)ふと、横を見るとそこには女の人がうずくまって泣いていた。
「あの...大丈夫ですか?」
私が声をかけると、その女性は驚いた顔でこちらを見た。数秒間固まった後、もっと泣き出して私に抱きついてきた。すると女性は
「良かった...よかった...ホントに......」
と言った。(えぇ...誰この人)私は状況が飲み込めず、困惑した。抱きついたまま号泣している女性を説得し、離れてもらい一度話を聞くことにした。
「すみません状況がよく分からなくて...。ここはどこで私は誰で、貴女は誰ですか」
と私が聞くと、その女性は自分を落ち着かせながらゆっくりと話始めた。
「そうだよね、覚えてないよね...。ここは奏の学校近くの病院の中よ。奏っていうのがあなたの名前、亜月奏。それと...私が誰か...よね。私は...」
その女性は涙をぐっとこらえて、説明し始めた。
「私は...あなたの...お母さん...よ」
何度も詰まりながら何度も泣きそうになりながらも、その女性は教えてくれた。なのに私は、
「お母...さん...?」
そんな言葉しか頭に浮かばなかった。どうして記憶がないのか、どうして病院にいるのか、どうして...お母さんが分からなかったのか...。私はいろんなことで頭がいっぱいになった。そんなとき
「あんまり深く考えないで、落ち着いて奏。お母さんはいつも味方だからね」
泣きそうな優しい笑顔で、お母さんだと言うその女性は笑った。