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No Name's Trust  作者: 大道福丸
国を滅ぼす毒
97/100

苦手

「どうした!どうした!その程度か!!」


バババババババババババババッ!!


「くっ!?」

 第三世代ピースプレイヤー、ガナドール・イデアルのガトリング砲による絶え間ない攻撃にタモツボーデンはただただ逃げ惑うしかなかった。

(この威力と連射力……BP・ボーデンでも、耐えられない!一度捕まったら、装甲を削り取られて、お陀仏だ!!)

 想像しただけで背筋が凍った。

 けれども、それ以上に何が恐ろしいかというと、イデアルにはこのガトリング以外にも、まだ多くの武装が搭載されていることだ。

「蜂の巣になるのが、嫌なら……焼き殺してやるよ!!」

 仮面の裏のディスプレイに映る若葉色のマシンに四角いマークが重なり、“Lock on”と表示されると、イデアルは背中に装備された箱を展開、ミサイルを露出!そして……。

「ファイア!!」


ボボボボボボボボッ!!


 一斉に発射した!ミサイルは山なりに飛び、ロックオンしたタモツボーデンを囲むようにして襲いかかる!

「撃ち落と……せたらいいな!!」


バァン!バァン!ドゴオォン!ドゴオォォォン!!


 願望を叫びながら、タモツボーデンはライフルでミサイルを狙撃!爆破!近くのミサイルにも誘爆!しかし……。

「弾幕薄いんじゃないの!!」

「くっ!?」

 全ては迎撃できず。残ったミサイルがが容赦なく降り注ぐ!


ドゴオォォォン!ドゴオォォォン!!


 爆炎が立ち昇り、大地を揺らす公園!分厚い黒煙のカーテンに遮られ、タモツボーデンの姿はイデアルには確認できない……できないのだが。

「てめえは雑魚だが、この程度で殺られるほど弱くはねぇ……だから、容赦なく追い打ちかけさせてもらうぜ!!」


バババババババババババババッ!!


 再びガトリング乱射!間断なく放たれる弾丸が、黒煙を吹き飛ばしていく!

「油断の一つくらいしてくださいよ!!」

 たまらずタモツボーデンが煙を突き破り、再び姿を現した。その装甲は熱で溶け、銃弾によって抉れ、見るも無惨な姿に様変わりしている。

「見てらんねぇな!」


バババババババババババババッ!!


「そう思うなら撃つのやめてくださいよ!!」

「はっ!てめえの自業自得だろうが!せっかくオレが見逃してやったのによ!!下らない正義感なんかに絆されて!!」

「下らなくなんてない!目の前で罪のない人命が失われようとしているのに、放っておけるわけない!!」

「傭兵の言葉とは思えないな!欲しいのは金だけだろ!他人のことなんて気にしてんじゃねぇ!!」

「軍人であるあなたはもっと国民のことを考えろよ!!何のために、その職業に就いたんだ!!」

「偉くなりたかった、金が欲しかった。そしてオレは腕っぷしが強かった。だから、一番自分の才覚を生かせる軍人という職業を選んだ!てめえもそのクチだろ!!」

「それは……」

 その通りという他なかった。

 タモツという人間はまさに今言われたことと同じ思考をし、こうして傭兵業をやっている人間なのだ。

「やっぱりな!初めて見た時から、オレと同じ匂いがてめえからはした……功名心で胸の中が一杯の同じ俗物だってな!」

「違――」

「違わねぇ!!」


ババババババババババッ!!ガリッ!ガリッ!!


「――うっ!!?」

 ほんの少し動きが鈍った結果、タモツボーデンはさらに装甲を削られてしまった。

「くそ!!よくも!!」


バァン!!


 半ば自棄になっての反撃。しかし……。


キィン!!


 悲しいかなイデアルの装甲には全く通用しなかった。

「第三世代、それはピースプレイヤーの兵器として戦闘能力が極まった世代だ!その中でもこのガナドール・イデアルは販売量産されたマシンの中でも当時、トップクラスのスペックを誇ったモンスターマシン!ちょっと丈夫なだけが取り柄のてめえのがらくたで太刀打ちできるわけねぇだろ!!」

(悔しいが、アルホネンさんの言う通りだ。撃ち合いでは勝機はまずない。第三世代の唯一の泣き所とも言える巨体故の小回りのきかなさも、ボーデンの敏捷性では……)

 考えれば考えるほど、この戦いがいかに絶望的なものかと思い知らされ、仮面の下のタモツの表情は暗く曇っていった。

(何がまたムカつくかって、よりによって相手がガナドールだとは。おれもソルプレッセが使えれば、もうちょっと戦いようがあったのに……あ)

 瞬間、タモツは思い出した……もう一つの愛機のことに。

(社長はわかるようになるまで、ソルプレッセの改造機を使うなって言っていた。今の今まで“わかるようになる”って意味がわからなかったけど……このことなんじゃないか!?ボーデンでは、どうしようもない相手がいるということをきちんと論理的に理解できるようになること!それが社長の言っていた条件!そうに違いない!!)

 タモツの中では、もうそうとしか思えなくなっていた。

 また仮にそうでなくとも、この窮地を脱するには、能力が未知数のソルプレッセ改に頼るしかないのも事実。

 だから、タモツ・ナガミネは自分の命運を装着したこともないピースプレイヤーに懸けることにした!

「そうと決まれば早速……『デサフィアンテ』起動!!」

「何!?」

 若葉色のマシンが光に包まれたかと思ったら、入れ代わるように深緑と黒で彩られた見たこともないピースプレイヤーが姿を現した。

 基本的には細身なのだが、ボーデンほどではないが大切な部分の装甲は気持ち盛られていて、左手には小型の盾が装備されている。そしてどこかガナドール(勝者)の面影があるこのマシンこそが、タモツの真なる愛機デサフィアンテ(挑戦者)なのである。

(あれはガナドールの“リベルター”……いや、ソルプレッセの改造機か?だとしたらあの姿は……)

 デサフィアンテの正体を即座に見破ったアルホネンは……嗤った。

(オレの推測が正しければ、イデアルの敵ではない。この戦いの戦況は依然変わり無し!)

(えーと、こいつの武装は……)

 アルホネンの心など露知らず、タモツは回避運動を続けながらも、仮面の裏のディスプレイの表示を見て、のんきにデサフィアンテの武器を探していた。

(逃走用の煙幕と……武器はこれ一つ!?……いや……社長、やっぱりトモル君にやられたことを気にしてたんだな)

 一瞬だけ、あまりにもわかりやす過ぎる社長の顔を思い浮かべて口角を上げるが、直ぐに気持ちを切り替え、再び戦場に集中する。

「やるぞ!デサフィアンテ!来い!イザワスペシャル!」

 デサフィアンテの手に召喚されたのは、一見何の変哲もない銃であった。むしろ見た目よりも気になるのは……。

「もっと他の名前なかったのかな……まぁ!文句を言うにも生きて帰らないと!そのためには!!」


バン!バン!バァン!!


「くっ!?」

 デサフィアンテが発砲!凄まじい反動のせいで、二発は明後日の方向に。しかしかろうじて一発だけはイデアルへと真っ直ぐ向かった……が。


ガギィン!!


 装甲を削り取ることはできたが、貫くことはかなわなかった。

「ほう……当たりどころが悪かったら、ヤバかったかもな」

「くうぅ……!こんな反動があるなら、事前に言っておいて欲しかったな。でも……悪くない!!」


バン!バン!バァン!!


 イザワスペシャルがまた火を噴いた!今度は三発ともイデアルへと向かっていく!しかし……。

「ふん」

 イデアルはバーニアを吹かして、横にスライド、それであっさり全弾回避されてしまった。

「もう食らわねえよ」

「当たらなかったのは残念だけど……避けたね!」

「オレを動かしただけでそんなに嬉しいか!?」

「もちろん!武器の性能だったとしても……おれを脅威だって判断したってことでしょ!!」

「――ッ!!?」

 タモツの言葉に悪気はない。自分の中に芽生えた感情を素直に吐露しただけだ。

 だが、その純粋さがタチが悪い。時としてそれは悪意にまみれた言葉よりも人の気持ちを逆立てる。

「脅威だと!調子に乗るな!お前みたいな雑魚、このオレが“敵”として認識するわけねぇだろうが!!」


ババババババババババッ!バシュウン!!


 怒りに身を任せてガトリングとキャノン砲を乱射!しかし……。

「デサフィアンテなら!!」

 緑と黒に彩られたマシンは銃撃を食らうどころか、その間を縫い、イデアルとの距離を詰めていく!

 そして瞬く間に眼前までたどり着いた!

(速い!?オレとしたことが、ここまで接近されるとは、なんたる不覚!さすがに舐め過ぎたか!奴は何をしてくる!?銃撃か!?それとも打撃か!?)

「イザワスペシャル!ビームソード展開!!」

「!!?」

 主人の命令に従い、一見何の変哲もない銃は銃身の下の筒状のパーツから光の刃を生成した!

「斬撃か!!」

「でりゃあッ!!」


ザンッ!!


「――ッ!?」

 下から上に振り上げられたビームソードはイデアルの右腕のガトリング砲を斬り落とした!

「もう一本!」

「だから!調子に乗るなって言ってんだろ!!」


ブゥン!!


「――な!?」

 イデアルは機敏な動きでビームソードを回避しながら、デサフィアンテの側面に回り込み、ガトリングを失った右手で腰の後ろにマウントされていたハンマーを手に取ると……。

「オラアッ!!」

 それで殴りつけた!


ガアァァァァァァン!!


「――ぐっ!?」

 デサフィアンテは左腕の盾で防ぐが、その凄まじいパワーを受け流し切れず吹き飛ばされる。

「くそ!?成果はガトリング一本だけか!でも、次こそは……!」

「次なんてねぇよ!!」


バババババババババッ!バシュウン!!


「ちいっ!!」

 再度ガトリングのキャノンの乱射!しかも今度はイデアル本体も機敏に動きながら、デサフィアンテと一定の間合いを維持し続ける。

「今のが最初で最後のチャンスだった!もうてめえの動きは見切った!」

「たった一度でそんなこと……って、言いたいところだけど、あなたほどの人が言うなら、残念ながら事実なんでしょうね……」

「思っていたより速かった。瞬発力に関してはソルプレッセと遜色ない。だが!トップスピードは全く及んでいない!その取ってつけたような装甲のせいだ!その装甲もボーデンほど徹底したものではないから、イデアルならどうにでもなる!オレの予想した通り、そのマシンは元の機体の長所を殺した半端もん!粗悪なカスタムだ!!」

 徹底的にデサフィアンテを扱き下ろすアルホネン。それに対し、タモツは……。

「……でしょうね」

「……あ?」

 素直にその言葉を受け入れる。あまりにあっさりと肯定するもんだから、アルホネンの方が心を乱されたくらいだ。

「てめえ……自分の愛機をここまで言われて悔しくないのか!?」

「悔しいは悔しいっすよ。でも、評価としてはアルホネンさんの言ったことは妥当っすから。おれもこいつを初めて装着しましたけど、どんなマシンかはずっと前から予想していました。きっとおれに似た半端なマシンだってね……」

 タモツの胸の奥でパストルとの日々が鮮やかに再生された……。



「タモツ、お前の長所はなんだと思う?」

「おれの?強いて上げるなら……」

「そうだ、お前の長所は経験不足なところとちょっと頭がアレなところを除いて、全ての能力がそれなりの基準に達していることだ」

「いや、おれの答え……は、まぁおいといて、ちょっと気になるところもありましたけど、それってはおれが万能なオールラウンダーってことですか!?」

「あくまでそれなりの基準って言ってるだろ。良く言っても器用貧乏、悪く言うと全てが中途半端な奴ってことだ」

「今のおれって、そんな感じっすか……」

「これからのお前もだ。修行を見続けた感じだと、どんなに頑張っても、お前は超一流と呼ばれるほどの突出した能力を身につけることはない」

「そんなこと言われたら、頑張る気力が……」

「それも失ったら、いよいよ超一流には敵わないな」

「えーと、その口振りだと中途半端なおれでもそいつらに勝てる方法があるんすか?」

「ここだ」

 パストルはこめかみをトントンとノックした。

「とにかく頭を使うしかないな」

「でも、おれの頭はアレだって……」

「こっちは経験を積んで、鍛えればどうにかなる。地頭はそこまで悪いと感じないし、俺と違って大学も出てるしな」

「一応褒めてくれているんでしょうけど……その程度の頭でどうにかなるとは……」

「難しく考え過ぎだ。極限状態である戦闘中において、意外とシンプルな方法が活路を開いたりするもんだ。お前は半端な男だ。だから敵の情報、感情、置かれている環境、全てを精査して、そのシンプルな方法って奴を導き出せるようになれ。どんなにピンチでも考えることをやめんなよ」



(確かにデサフィアンテはソルプレッセより遅くて、ボーデンよりも脆い半端なマシンかもしれない。だけど逆に言えば、ソルプレッセよりは硬いし、ボーデンよりも速い、短所を克服したマシンだ!穴が無くて汎用性の高い……器用貧乏なおれにぴったり!)

 タモツはアルホネンにこけにされたことによって、デサフィアンテこそが自分にとっては最高のマシンだと確信する。

 そして、その自信が彼の脳ミソをクールダウンさせ、思考スピードの上昇を手助けした。

(敵の力量は……まぁ凄いよね。おれよりも遥かに上だ。こういう相手に勝つには、不意を突くしかないが……)

 回避運動の合間に周囲を見渡す。きれいに舗装された芝生が剥げ、公園は痛ましい姿を晒していた。

(環境的に利用できるものはないか……となると、勝機はこのデサフィアンテの情報を相手が完全には把握してないこと。特性こそ一瞬で看破されたが、武器が一つしかないとは思ってない。むしろこんな妙なカスタム、何かしら隠し玉を持ってるんじゃないかと訝しんでいるはず)

 タモツの推測は的中していた。一方的に攻めているように見えるイデアルだが、実のところデサフィアンテを警戒し、攻めあぐねている状態であった。

(でも、アルホネンさんならそのうち武器についても気付く。一刻も早くあの人が警戒している間に勝負を決めないと。そのためにおれはどうすれば……)

 瞬間、タモツの中にある人のある言葉がフラッシュバックした。


「彼と一緒に戦った君だからこそできること、わかることがあるはずだ!」


(そうだ!ボリスさんの言った通り、おれは昨日あの人と一緒に戦った!あの時のあの反応……あれを利用できれば……!いや、できる!はからずもおれはすでにタネを撒いている……!パラディジェントやドラグゼオのこともあるし……いける!)

 タモツは覚悟を決めた。徐々にスピードを落として行き、遂には完全に動きを止めた。

「ようやく諦めたか!!手間かけさせやがって!!」


ババババババババババッ!バシュウン!!


 イデアルはその異様な行動に躊躇はしなかった。迷う素振りも見せずガトリングとキャノンを発射する。

「さすがっすね。罠とか思わないんすか……意外とアホなんすね」


ブシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「!!?」

 デサフィアンテの腰の横から真っ黒い煙が噴出され、周囲を覆い、イデアルのカメラから彼を隠した。

「煙幕だと!?まさか逃げるのか!?いや……ただの悪あがきだ。咄嗟の事態に混乱、さらにオレをアホ呼ばわりして挑発し、熱くなったところを……」

「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 煙幕を突き破り、深緑のマシンが飛び出して来た!手には光の刃を発生させた銃を携えて、イデアルに真っ直ぐ突っ込んで来る!

「はっ!やっぱり悪あがきだったか!それにしても、さすがにもうちょい頭いいと思ってたぜ!姿を隠したのに、わざわざ目の前から登場してくれるなんて――」

「あんたの不意を突くのは、おれの役目じゃない!!」


ゴォン!!


「――な!!?」

 横から物音が聞こえた。刹那、イデアルは、アルホネンは反射的にそちらに注意を向ける。

(今の音、まさかピンクドラゴンか!?それともあの白騎士のように、あいつも遠隔操作兵器を――)

「――なあっ!!?」

 イデアルのカメラが捉えたのは、芝生に転がるデサフィアンテの盾であった。

(何であんなところに!?いや、それよりも……!!)

「おれの勝ちだ、アルホネンさん」

「!!?」

 デサフィアンテは注意が逸れた一瞬で、イデアルの懐まで潜り込んでいた。

「このぉ!!」

「遅い!!」


ザンッ!ザンッ!ザザザンッ!!


「――ぐっ!?」

 ビームソードが振り下ろされたハンマー、ガトリング、そしてイデアル本体を斬り刻んだ!さらに……。

「はあっ!!」


バァン!バァン!ドゴオォ!ドゴオォォォン!!


 後ろに跳躍しながら、キャノンを銃撃で破壊!

 全ての武装を破壊され、本体にも甚大なダメージ……イデアルが戦闘続行不可能なのは、誰が見ても明らかだった。

「……煙幕から出て来る時に盾を投げていたのか……?」

「はい。ドラグゼオやパラディジェントのような武装を使ったのだと勘違いしてくれることを祈りながら」

「そもそもオレが気づかない可能性もあったろ。反応しなかったら、そのまま迎撃されて終わりだったぞ」

「それはないっすよ。昨日、アルホネンさん、自分で警戒心が高いって言ってたじゃないっすか。それにこの戦いが始まる前に横からおれに撃たれたのにめっちゃ怒ってたし……プライドにかけて意地でも反応するだろうと」

「なるほどな……」

 説明に納得がいくと、余計に悔しさが増したのかイデアルは思わず天を仰いだ。

「……最後、何で武器を狙った?頭か胸を撃っていれば、オレを殺せていただろうに」

「あなたに裁きを与えるとしたら、この国の人間であるべきだと思います」

「また下らない倫理観を持ち出しやがって……」

「誰かさんのように、妙な正義感に絆された人間、おれはそれ以上でもそれ以下でもない。そして……こうして生きているあなたと話していると、それでいいのかなって思ったりなんかしてたりして!」

 そう言って、デサフィアンテの仮面の下で微笑みかけているタモツの顔がアルホネンにはくっきり見えた。

「……ったく、初めて見た時から思ってたよ……てめえはオレの苦手なタイプだってな……」


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