昨日の友は今日の敵
「敵襲だ!敵襲!奴らを公園内に入れるな!!」
「全軍ピースプレイヤー装着!!フォーメーションを取れ!!」
公園入口に配備されていた第二機甲隊員は一斉にピースプレイヤーを纏うと、防御重視のペザンテが最前線に並んだ。
「あれは……」
「ええ!自分達が外のトルーパーを駆除していた時と同じフォーメーションです!!」
「だったら、次に来るのは!」
「ゲメッセンの狙撃とフリオーソのミサイルでしょうね!!」
「てぇーッ!!」
バシュウン!バシュウン!バシュウン!!
前方からは弾丸、頭上からはミサイルの雨が振り注ぐ!それに対し……。
「弾幕を張れ!ミサイルを迎撃しろ!!狙撃は……なんとかなる!なるようになる!各々全力で対処しろ!!」
「「「おう!!」」」
エクトルの指示は無茶苦茶だったが、それが最適解なのは、皆理解していた。だから何の文句も言わずに素直に従い、それぞれの銃火器を空へと向ける!
「こちらも……てぇーッ!!」
バババババババババババッ!ドゴオォォォン!!
ただひたすらにばらまかれた弾丸はミサイルに命中、見事に撃ち落とし、空に爆煙の雲を作り出した。
一方、なんとかしろというあまりにあんまりな指示しかされてない狙撃の方は……。
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!
「はっ!!」
「ふん!」
「な!?」
「これを避けられるのか!?」
ツムゾルムとパラディジェントはその機動力と反射神経を存分に発揮し、華麗に回避した。
キンキンキンキンキンキンキンキン!!
「くっ!?」
「無茶をするな!タモツ君!君もトピ君と一緒にわたしの影に!」
「大丈夫です……当たりどころさえ悪くなければ!!」
一方、ダブル甲とタモツボーデンは分厚い装甲と盾を利用し、正面から狙撃に耐えてみせた。
しかし、ただ防御力にものを言わせているわけではなく、急所をしっかりガードしつつ、うまいこと銃弾を弾くために、角度をつけて攻撃を受けるよう僅かに身体を動かしている。それはまさに妙技であった。
(BP・ボーデンでこれだけ耐えられるとは……嬉しい誤算だな。タモツ君の方は、わたしが守る必要はない。わたしが守るべきなのは……)
「ボリスさん!狙撃に集中します!防御は任せましたよ!!」
ダブル甲の後方でゲメッセンがライフルを構え、スコープを覗き込んだ。狙うはペザンテの隙間、そこから同じ構えでこちらを狙う同型機!
「こんなこと……したくなかったのに!!」
バシュウン!バシュウン!バシュウン!!
「――がっ!?」「ぐあっ!?」「うあっ!?」
放たれた弾丸は敵ゲメッセンのライフルや、それを扱う手、肩を貫き、狙撃行為を一切できないようにした。
「くっ……!」
(仲間を撃つストレスは感じているようだが、自分が撃たれることへの恐怖や、精度には問題ない。トピ君も優秀だ……悲しいほどに。その負担を少しでも減らしてやろうじゃないか)
「エクトル!!」
「おう!!」
相棒の声に呼応し、パラディジェントが間隙を縫って突撃!一気に防波堤となっているペザンテの懐に潜り込んだ!
「この国を守るために肩を並べて戦った昨日の友を傷つけたくないが……何も知らない無垢な子供の血を欲するというなら、今日の貴様らは敵だ!!」
ガギィン!!
「「「ぐわあぁぁっ!!?」」」
パラディジェントが豪快に槍を振り抜くと、何体ものペザンテがまとめて吹き飛んだ!さらに……。
「カモン!パラディジャベリン!!」
ガギィ!ガギィ!ガギィン!!
「「「――がっ!?」」」
空中を舞う四本の槍が、後ろに控えていたゲメッセンやフリオーソ、エグアーレを蹂躙する!
「聖槍暴れ独楽!!」
ガギャギャギャャャャン!!
「「「ぐわあぁぁぁぁぁっ!!?」」」
まさしく独楽のように高速回転する四本の槍!その回転力が生み出す圧倒的なパワーによって、防波堤の一角は脆くも崩れ去った。
「ちっ!ここまでの戦士か!エクトル・アテニャン!!」
「手の空いてる者は援護に行け!奴を止めろ!!」
「ヘイヘイ!エクトルはんだけに気を取られて、ええんか!!」
「「「!!?」」」
頭上から聞こえる挑発的な言葉。その発生源に視線を向けると、黄色と黒のマシンが脚部に取り付けられたミサイルを発射していた。
「しまっ――」
「喰らえ!電磁ネット!!」
ボォン!バリバリバリバリバリバリ!!
「「「があぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」
ミサイルは命中する前に破裂!中から飛び出した網がペザンテ達をまとめて絡め取り、そのまま強力な電流を流した!
「効果は抜群やな。トピ様々や」
「あかん!完全に寝過ごしてもうた!!」
目を覚ましたケント達は明るい空を見て、完全に慌てふためいていた。
「誰も目覚ましをかけてなかったの!?」
「俺はボリス当たりがかけているだろうと」
「わたしもエクトルがやっているはずだって」
「大切なことは他人任せにしない!おれも含めて、心に刻みつけましょう!!」
「もう終わったことを、いつまでも言ってんなよ」
「トモルの付き添いで残るからって、余裕やな!アピオン!!」
「あいつが起きた時にあれやこれやを説明しなきゃならないからな。本当はおれっちだって付いていきたいよ」
そう言いながら、妖精は身の丈ほどあるマグカップに注がれたコーヒーに口をつけた。
「モーニングコーヒーなんて優雅やの!!ワイも腹ペコで、背中とお腹がくっつきそうやで!!何が一番あかんって、見張りを頼んだお前が居眠りしたから……!」
「終わったことです!飲み物と簡単な食事は用意してありますから、移動しながら食べましょう!!」
トピは冷蔵庫に入っていたレジ袋を引っ張り出した。
「おおきに!けど、本当にワイが必要なのは武器や!あのピンク鳥さんに対抗するためには、ツムゾルムを使うしかあらへんけど、生憎あれには武器が搭載されておらへん!第四世代かちゅうねん!!」
「いや、お前がそういう風に作ったんだろ」
「とにかく!拳銃やナイフでいい!車の方にあったりしないか?」
「武器なら……」
トピは何もない壁の方に歩き出し、そこをドン!と叩いた。
すると壁がくるりと回転し、そこに商品棚のように飾られている無数の銃や刃物が姿を現した。
「これは……」
「凄っ……」
「心配性なもので、役に立ちそうなものを手当たり次第用意して見ました……」
「一人で?」
「はい」
「こっそり見つからないように」
「はい」
「ほんまに……テロリスト適正えげつないな」
「褒め言葉なんですよね、それ」
「めちゃくちゃ褒め言葉やっちゅうねん!」
「あんがとな、トピ。お前のおかげでツムゾルムは過去一充実しとるわ!!」
黄色と黒のマシンは別の敵の頭上に移動しながら、左腕に増設された砲頭で彼らの足元に狙いをつけた。
「喰らえ!!トリモチ弾!!」
ボォン!ボォン!ベチャッ!!
「ぐっ!?」
「う、動けん!?」
発射された粘着力の強い物質は敵機と地面を張り付け、その場に固定した。
「お前らもトピに感謝せえよ。命を奪わんでええような武器を用意しといてくれた、優しいテロリスト様にな」
「トモル君に隠れてましたけど……やっぱりすごいな、あの二人……」
銃弾を受けたり、撃ったりしながらもタモツは次々と敵を無力化して行くパラディジェントとツムゾルムの姿を見て、強い感動と尊敬を覚えた。
「確かにあの二人は凄いな」
「あ!ボリスさんも凄いっす!マジリスペクトっす!!」
機嫌を損ねたかと思い慌ててフォローするタモツであったが、ボリスはそんなことは全く気にしていない。彼が気にしているのはもっと別のこと……。
「……ボリスさん?」
「君の言った通り、あの二人が獅子奮迅の活躍を見せても、敵の数が減っているようには見えない」
「いや、まぁ第二機甲隊のほとんどが参戦しているだから当然なんじゃ……」
「ここにそこまで戦力を集中しているということは、フルメヴァーラの周辺にはほとんど隊員が残ってないってことだ」
「あ!」
「自信の現れか、何か合理的な理由があるのかどうかはわからんが、敵の首魁の警備が手薄なのは、少数部隊である我らには好都合!タモツ君!」
「は、はい!」
「ここはわたしとトピ君に任せて、君は公園の中に突入しろ!!」
「ええっ!?」
「だから敵陣を突破して、幹部達を討って来い!隙を見て、ミエドスティンマのコアストーンを破壊して来い!頭さえ潰せば、この暴挙の要を壊せば、全て終わる!!」
「理屈はわかりますけど、それだったらおれより、ボリスさんが行った方がいいんじゃないですか!?」
「君にこれだけの人数を引き付けられる力はない!」
「うっ!?」
「それにわたしには彼から託されたミッションもあるし、何より幹部達って言ったろ?きっとこの先には、昨日君と共に研究所に突入した彼がいるはずだ」
「あ」
タモツの脳裏に初対面の印象は最悪だったが、死線を一緒に乗り越えたことで、信じ始めていた男の顔が過った。
「アルホネンさん……」
「奴と一緒に戦った君だからこそできること、わかることがあるはずだ」
「一緒に戦ったおれだからできること……」
「そうだ!自信を持て!わたしよりも君こそが適任なんだ!だから……行け!タモツ・ナガミネ!!」
「はい!!あの人と話をつけて来ます!!」
覚悟を決めた若葉色のマシンはガードを固めながら、敵の数の少ない場所に突撃して行った。
「……すまないな、トピ君。君も付き合わせてしまって」
「いえ、ボリスさんの判断は正しいと思います。ですから……」
「あぁ!このまま一人でも多くの敵を速やかに無力化して行くぞ!!」
「はい!!」
(タモっちゃん?何しとんねん?)
(彼が単騎突撃だと……?ボリスは何をやっているんだ?)
タモツボーデンが公園内に突入しようと試みている姿を確認したケントとエクトルの思考回路はフル稼働し、その理由と自分達がどうすべきかを弾き出す。
(……そうか……いくらなんでも多過ぎやろと思っとったが、この人数、第二機甲隊のメンツがここにほとんど集まっとるんやな。だから、ボリスさんは……)
(手薄になっている公園内、フルメヴァーラの下にタモツくんを送り込むことが最善手……そして俺達にも!)
(これはメッセージや!ワイらにも行けってな!)
(ここで消耗しては勝ち目はないと判断したか。ボリス、お前がそう思うなら、俺も!)
(ワイも!!)
((行くしかない!!))
ガギィィィィィィン!!
「こ、こいつ!?さらに勢いが!?」
「どけ!!邪魔だ!!道を開けろ!!」
パラディジェントは強引に敵を蹴散らし、突破!
「張り切っとるの、エクトルさん。ワイも……!」
「くっ!?来るぞ!!」
「って、これ以上は弾が勿体ないか」
「……へ?」
対照的にツムゾルムは悠々と敵の頭の上を飛んで行った。
「この舐めやがって!!」
ガン無視された屈辱を一刻でも早く返すべく、敵ゲネッセンはライフルをツムゾルムに向ける……が。
バシュウン!!
「――な!?」
ライフルは逆に狙撃され、破壊されてしまった……トピのゲメッセンによって。
「裏切り者、トピ・ユロスタロ……!!」
「自分は裏切ったつもりはありません。全てはこの国のため!自分は今も昔もビブリズの軍人です!」
「貴様!!」
「ふざけるなぁぁぁぁぁっ!!」
(そうだ!自分を憎め!自分を……殺しに来い!!)
トピはやるせない気持ちから目を逸らしながら、再びライフルの引き金に手をかけた。




