火消しの風
桃色の装甲、背中から生えた翼、鳥と竜というモチーフこそ違うが、風連凰とハネドラグを装備したドラグゼオはどこか似ていた。
だが、トモルが気になったのはそこではなかった。
「……我が友って……そのマシンの前の持ち主……確かビブリズ第一機甲隊隊長の……」
「エイノ・ラトヴァレフト」
「そう、そのラトヴァレフトさんとは仲が悪かったんじゃないんですか?」
「君ほどの人間なら理解しているはずだろ。ベタベタと馴れ合うことだけが信頼ではない。信頼しているからこそ、正面からぶつかり合うこともあると」
「フルメヴァーラさん……」
そう言いながら、風連凰は僅かに顔を伏せた。とても寂しげに……。
その仕草を見て、トモルは彼らの友情が口だけではないことと、そんな大切な友の形見を纏ったフルメヴァーラが止まる気がないことを確信する。
「……何をする気かわかりませんが、友の名を出すということは、どうやら本気みたいですね」
「あぁ、わたしはとっくに覚悟を決めている。この国のために血にまみれる覚悟をな」
「その覚悟は無駄になる!させてみせる!ぼくはこの国の人間じゃないけど、この国に住まう無垢の民を傷つけようと言うなら、あなたを見過ごすわけにはいかない!」
決別の宣言と共に、風連凰の正中線上をなぞるように、引き金を引きながらガンドラグを動かした!
「縦一文字葬炎弾!!」
ボボボボボボボボボボボボボッ!!
きれいに縦一列に並んだ炎は、桃色の鳳凰を焼き尽くそうと飛来するが、当の風連凰は一歩もその場を動こうとしない……ひとえに必要ないから。
「防風輪」
風連凰の前方で盾のように風が渦巻く!そこに桃色の炎が命中すると……。
ボオウッ!!
「――な!?」
一瞬にして、炎はかき消されてしまった!
(さっきも今もドラグゼオの炎が風なんかに……!!)
「自分の炎が風なんかに吹き飛ばされるのが、ショックか?」
「くっ!!?」
「安心したまえ。風連凰が巻き起こす風はただの風じゃない……あらゆる炎を消すことができる特殊なものだ」
「あらゆる炎を消すだって!!?」
「にわかには信じられないか?」
「いえ……目の前で二度も証明されたら、信じないわけにはいかないでしょうが……!!」
必死に平静を装うが、その声色からトモルの動揺は明らかだった。
フルメヴァーラには、その姿がかつての上司の姿と重なって見えた。
「同じだ……ユリマキが風連凰の能力を聞いた時のリアクションと全く同じだよ、今の君は」
「ユリマキ将軍と……あっ!?」
瞬間、トモルの脳裏にビブリズに来たばかりの記憶、トピとの会話が鮮烈にフラッシュバックした。
「第一機甲隊隊長エイノ・ラトヴァレフトの愛機が桃色だったんですよ。『風連凰』っていう立派な桃色の羽を持った美しいピースプレイヤー」
「炎を使う特級もあるんですよ!軍の最高責任者であるユリマキ将軍の愛機の『ピュルレーテス』!」
「でも、その二体のピースプレイヤーに適合したせいで二人の中が更に悪化することになっちゃったんですけど……」
(あれはこのことを言っていたのか……というか、あの日襲って来た遠隔操作型のピースプレイヤーの最後の言葉も……)
「忠告だ……」
「――――には、気をつけろ――――あれにはドラグゼオの炎は――ガピッ!!」
(ようやく謎が解けた……けど、今さらだね……!!)
どうしようもない苛立ちを握り潰すように、ドラグゼオは拳に力を込めるが、むしろ余計に虚しさを感じ、心をざわつかせるだけだった。
「元々意見がぶつかり合っていたユリマキとラトヴァレフトだったが、風連凰の存在が両者に修復できない亀裂を入れた。いや、悪い老い方をし、権力への執着とそれに伴う猜疑心に支配されたユリマキが勝手にあいつのことを恐れていただけか。誰よりも真面目で優しいあいつは、風連凰の力でどうこうしようなんて微塵も考えていなかったのに……!」
風連凰もまた拳を握りしめた。すると周囲に風が巻き起こり、埃やスティンマクイーンの破片が中庭に舞い散った。
「もしかしてラトヴァレフトさんはユリマキに……」
「……少しおしゃべりが過ぎたようだ。これ以上はこの任務の功労者といえど、立ち入るべきではない……!!」
ブオォォォォォォォォォッ!!
さらに風が強まる!フルメヴァーラの感情を風連凰が力に変換しているのだ!
「――ッ!?本当にやる気なんですね!フルメヴァーラ!!」
ボオォォォォォォォォォォォォォッ!!
同じ特級使いとして、その純粋なエネルギーを瞬時に理解したトモルは強い悪寒と恐怖を感じながらも、全神経を研ぎ澄まし、灰色の翼のバーニアから桃色の炎を吹かした!
「別に殺しはしない……少し痛い目を見て、もらうだけだ!!」
先に動いたのは風連凰!地面を蹴り出し、桃色の翼を羽ばたかせながら、突っ込んでくる!
「炎が効かないなら……こいつでどうだ!!」
バババババババババッ!!バシュウッ!!
対するドラグゼオは後退しながら、背部キキャノンとガトリングを一斉発射した!元々この武装自体、炎が効きづらい相手を想定して搭載されたものだ!だから今こそ活躍するべきなのだが……。
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!
悲しいかなあっさりと避けられてしまった。当たらなければ意味はない……そう語るように風連凰はすいすいと弾丸の隙間をすり抜ける。
「ちっ!なら!!」
ドラグゼオは一転して反転!推力を全て前方に進むために集中させ、風連凰を迎え打つ!
「「はあぁぁぁぁぁっ!!」」
そして両者示し合わせたかのように拳を繰り出す!!
ガァン!!
「「――ッ!?」」
そして同時に命中、同時に吹き飛んだ!
(パワーは今のドラグゼオと同等か……だったら!)
桃色の竜は今度は上に移動した!鳳凰よりも自分が上だと言いたげに、頭上を取ったのだ!
(上から勢いをつければ、きっと……!!)
「羽翔扇」
一方の風連凰は巨大な扇を召喚すると、身体を捻った。
「ずいぶんと疲れているようだな。風連凰の起こす風はあらゆる炎を消すと説明してやったのに、もう忘れたのか?」
「覚えていますよ!だから炎を使わずに!!」
「今、君はどうやって空を飛んでいるんだ?」
「!!?」
瞬間、トモルは自分が最悪の選択をしていたことを理解する。
「しまっ――」
「天は鳳凰の住処!羽をつけて竜を気取る蛇の居場所ではない!」
ブオォォォォォォォォォッ!!
羽翔扇を振ると、凄まじい風が巻き起こり、周囲に一気に広がった。その風がハネドラグのバーニアから噴射される炎に触れると……。
ボオウッ……
「――た!?」
一瞬で鎮火!ドラグゼオは浮力を失った!
ドスウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
「ぐうぅ……!!」
飛行能力を奪われたドラグゼオはあえなく落下。そこに……。
「これ以上、無駄な足掻きはよせ!ドラグゼオ!!」
風連凰強襲!羽翔扇を投げ捨てて、殴りかかる!
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!
「くっ!?」
ドラグゼオはすぐに体勢を立て直し、拳を防御した……それしかできなかった。桃色の鳳凰のラッシュに桃色の竜は反撃することはできなかったのだ。
「どうしたドラグゼオ?その程度か?」
「この……!!」
「フッ……安心したまえ、わかっているさ、君の実力はね」
「今、言われても嫌味にしか聞こえないんですけど……!」
「わたしはただ事実を述べただけだよ。炎を使うドラグゼオと、炎を消せる風連凰……相性的にはこちらに分があるのは明らかだ」
「そんなこと言われなくても……!」
「しかし、その程度のアドバンテージ、まさに吹けば飛ぶ程度のものでしかない。あれだけ大量のウインガーとトルーパーを一撃で焼き尽くした君相手ではね」
「あなたは……」
「だから重々理解しているさ、万全の状態の君にはとても勝てないことくらい。ただ今の君には勝てる!突入部隊のために、超広範囲、高威力攻撃を発動させ、さらにはクイーン討伐を行い、満身創痍!体力、気力ともに限界に近い君相手ならね!!」
「くっ!?」
フルメヴァーラの言葉が正しいことは、誰でもないトモル自身が一番理解していた。身体は重く、炎を出すのにも精神を統一しなくてはならないほどの疲弊……とてもじゃないが、これ以上の戦闘継続は無理だった。
「わたし達のために力を尽くしてくれた君に暴力を振るうのは気が引けるが……これもビブリズの未来のため!全力で制圧させてもらう!!」
ガァン!!ガァン!!
「――がっ!?」
ガードを強烈なアッパーで弾き、無防備になった腹に前蹴り!ドラグゼオは勢い良く吹き飛び、壁に叩きつけられた。
「ぐ、ぐうぅ……!!」
「君には心の底から感謝している。だから……もう眠れ!!」
追撃のために足に力を込めた風連凰!その時!
バシュウン!!
「………」
突然の狙撃!しかし、桃色の鳳凰は優雅に翼を羽ばたかせ、後退。易々と回避した。
「今の狙撃は……」
「我が隊のゲメッセンのものだな。お前だろ、トピ・ユロスタロ隊員」
「隊長……」
どこからともなく長大なライフルを携えたピースプレイヤーがドラグゼオを守るように、彼の前に降り立った。
さらにもう一人……若葉色のマシンも。
「おれもいるっすよ!!」
「トピさん、タモツさん……」
「話は後です!今は撤退することを考えてください!」
「トモル君、お疲れのところ悪いけど、おれ達を連れて飛んでくれないか……それしか、ここから逃げる方法はない」
「いきなり来て、無茶を言ってくれますね……」
「その通りだ。これ以上の抵抗は無意味だ。悪いようにはせんから、投降しろ」
「ああ言ってますけど。っていうか、飛んでも炎を消されて、墜落させられるのは、どうするつもりですか……?」
「それは……」
「一流の戦士に任せます!!」
「!!」
風連凰に迫る二つの影!
一体は白と黒に彩られた聖騎士、パラディジェント!
もう一体はまるで異なるものをつぎはぎしたような黄色と黒のスペシャルマシン、ツムゾルムだ!
そのツムゾルムは翼を展開し、全速力で風連凰の背中にタックルを敢行する!
(もろた!!)
「あまりビブリズ第二機甲隊隊長を……舐めるな!!」
ブオォォォォォォォォォッ!!
「うあっ!!?」
しかし、感づいていた桃色の鳳凰は振り向き様に猛烈な風を発生させ、ツムゾルムを吹き飛ばした!
空中を回転する仲間……に、一切目もくれずパラディジェントは風連凰の側面から、捻り込むように槍を突き出した!
「破邪穿攻槍!!」
ガシッ!!シュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
「!!?」
しかし、簡単に柄を掴まれてしまう。その破壊力を物語るように風連凰の指の隙間から立ち上る白い煙が、余計に力の差を引き立てているようだった。
「わたしと風連凰以外だったら、今ので決まっていたな」
「あぁ、残念だよ……」
「さらに残念な知らせがある。ドラグゼオを除くと、貴様が最も危険な存在……だから容赦をするつもりはない!!」
風連凰はそう高らかに宣言すると、貫手を繰り出し……。
「ガンモード!!」
「!?」
バババババババババババッ!!
「――ぐっ!?」
至近距離から不意に連射を受け、風連凰は槍から手を離し、後退させられてしまった。
「ちいっ!?隠し武器か!?」
「別に隠していたつもりはない。ただ貴様の前で使う機会がなかっただけだ」
「ふん!どっちでもいいわ!!もう二度と同じ手は喰らわんぞ!!」
「こっちも使う気はない!というか……今、貴様と戦う気自体ないんだよ!なぁ!ケント!!」
「おうよ!!」
パラディジェントが槍を高々と掲げると、そこにツムゾルムが飛来し、柄を掴む!そして……。
「ツムゾルム!全開フライトや!!」
そのまま聖騎士を持ち上げて、凄まじい勢いで飛んで行ってしまった。
さらにその先には桃色の明かりが、ゲメッセンとタモツボーデンをぶら下げたドラグゼオの背中から噴射される炎が見えた。
「ちっ!いつの間に!逃がす……」
風連凰は翼を広げ、追跡に移ろうとした……が、やめた。
「ミエドスティンマを駆除できたのは、君達のおかげ。そして、そのコアストーン、国さえ滅ぼす毒石を手に入れられたのも……」
風連凰は懐から妖しく光る魔石を取り出し、じっと見つめる。
「その感謝として、今日のところは見逃してやろう。だが、もし今度わたしの前に立ち塞がるなら……!」
決意を固め、石を握りしめると、風連凰はドラグゼオ達から背を向け、闇の中に消えて行った……。




