毒石の行方
魂のない脱け殻になったスティンマクイーンの死骸はボロボロと崩れ落ちていった。
その無惨な姿を見ていると、罪悪感が掻き立てられ、トモルの心に泥のようにまとわりつき、重くのしかかる。
「ごめんよ。あなたは、あなた達はただ精一杯生きたかっただけなのに……でも、そのただの生きるという行為がぼく達人間には見過ごせなかったんですよ。これは生存競争、誰が正しいわけでも、悪いわけでもない。だからせめて……あなた達の安らかに眠れることを祈ります」
ドラグゼオは地面に降り立つと、胸に手を当て、黙祷を捧げた。
「……さてと」
死者への弔いを終えると、桃色の竜は緑色の眼で改めて女王の死骸を下から上へと隅々まで観察した。
(ドラグゼオ葬炎弾でコアストーンも破壊できていればいいんだけど。こういう時、アピオンがいればすぐにわかるのに。でも、こんな危険な場所に連れて来るわけにはいかないし……地道に確認していくしかないよね……めんどくさ)
視線が頭まで移動すると、再び下に。女王の足下に目的のものが転がってないか、つぶさに調べる。
(死体の周りには落ちてないな。なら、まだ中に……いや、その前に軽く周りを見ておくか)
竜は頭部を今度は右に左に動かす。すると……。
「ん?」
妖しく光る何かを視界の端に捉えた。同時にドラグゼオはそちらに爪先を向けて、歩き始める。
(あれがコアストーンだとすると……結構遠くまで吹っ飛んだな。ただのガラス片とかの可能性もまだあるけ――)
バァン!!
「――!!?」
突然の発砲音!目の前で弾ける地面!桃色の竜は反射的に歩みを止め、防御態勢を取った!
そんな彼の目の前に人影が一つ降り立つ。そして、それは妖しく光る何かを……拾い上げた。
「あ!?」
「……間違いない。ミエドスティンマのコアストーンだ……!」
興奮を抑え切れずに僅かに震える声……その声にトモルは聞き覚えがあった。
「フルメヴァーラ……さん?」
「ドラグゼオ……よくクイーンを倒してくれたな」
人影の正体はHIDAKA製の指揮官用のピースプレイヤー、エレヴァート。この戦場でそれを愛用しているのはあの無表情な第二機甲隊の隊長しかいない。
「何でフルメヴァーラさんがここに?」
「作戦の成否を確認しに来たんだ。指揮を任された身として、当然のことだろ?」
「言ってる理屈はわからなくもないですけど……真っ先にコアストーンを確保したのは何故ですか?」
「これは危険なものだからだよ」
「それはぼくも知っています。だからぼくも一刻も早く確保しようと……それを発砲して邪魔しましたよね?」
「この任務成功の立役者である君をこれ以上危険に晒したくなかったからだ。爆弾みたいなものだから、触らせることさえしたくなかった」
「ぼくなら大丈夫です……大丈夫ですから、良かったらそのコアストーン、見せてくれませんか?」
ドラグゼオは手のひらを差し出した。口調こそ優しいが、その実、絶対的な命令だと言わんばかりの有無を言わせぬ圧力を醸し出しながら……。
その要求に対し、エレヴァートは……。
「……悪いが、それはできない」
拒絶し、懐に毒石を仕舞い込んでしまった。
「見せることさえ拒絶するんですか?」
「そもそも見て楽しいものでもないだろうに」
「それを決めるのは、ぼくです」
「君は傭兵、目的は金だろ?前金はたんまり払ったし、成功報酬もすぐに振り込む。君の活躍に敬意を表して、色をつけてやる。それでいいだろ」
「報酬はきっちりもらいますが、それはそれとして、コアストーンを見せてください。クイーンを倒したぼくにはその権利があると思いますが」
「できない」
「何故そこまで頑なに……それをどうするつもりなんです?」
「安心して欲しい。このコアストーンは正しいことに使う」
「…………」
フルメヴァーラのその言葉を聞いたドラグゼオは無言でガンドラグの銃口を彼に向けた。
「……何の真似だ?」
「あなた、さっきそのコアストーンを爆弾みたいなものって言いましたよね?」
「確かに言ったな」
「ぼくもそれなりに長いこと傭兵なんてやってますが……爆弾を手にしながら、正しいことをするなんて嘯く奴は、大抵危険思想に取りつかれたテロリストなんですよ」
「……わたしがテロリストか。言い得て妙だな」
笑っているのかエレヴァートの肩が上下した。
「やはり何か企んでいるようですね」
「君には関係ない。これから起きることはこのビブリズの問題だ」
「……話をする気は更々ないですか」
「救国の恩人である君にこんな態度を取るのは非常に申し訳ないが」
「……ケントさんはどうしたんですか?そもそもこの場にあの人がいないのがおかしい。あの人はあなたのことを警戒していた。ここに来ると言ったら、自分もと言うはずでしょ?」
「あぁ、付いて来ると言っていたよ」
「なら、何でここにいない!?」
「わたしがいくら断っても、いつまでも食い下がるもんだから……部下に任せて来た」
「!!?」
「多分……他の君のお仲間も同じ状況じゃないかな」
南口付近――。
「このぉ!!」
ガギィン!!
「――ぐあっ!!?」
「ぐっ!?」「がっ!?」
ガナビッドーザーはハンマーでペザンテを吹き飛ばし、さらに背後に控えていたエグアーレに叩きつけた!しかし……。
「やはり強いな……!」
「連携しろ!単騎では勝ち目はないぞ!!」
その後ろからまた別のペザンテとエグアーレがぞろぞろと……。ガナビッドーザーは完全に第二機甲隊に囲まれていた。
「虫の次は、人間にモテモテか。ワイってホンマに色男……くそが!!」
東口付近――。
「何のつもりだ……リスキ副隊長……!」
パラディジェントもまたリスキペザンテ率いる部隊に包囲されていた。
「ごめんなさい。あなたには感謝している。できることならこのまま大人しく退いてくれないかしら」
西口付近――。
「ぐあっ!?」
タモツボーデンはシュネッラーに足蹴にされ、床を転がった。
「急に一体……」
「てめえがドラグゼオのところに行こうとするからだろ。下らねぇこと考えなきゃ、仲良しこよしで終われたのによ~」
「部隊全員……承知の上ですか……!」
「正確には突入部隊全員と待機部隊の半分ほどだ。無駄に人数を増やして、ユリマキに気付かれたら、おしまいだからな」
「あなたの目的はそのコアストーンを使ってテロ……いや、軍事クーデターですか?」
「わたしはただビブリズをあるべき姿に戻したいだけだ。わたしが愛したかつての姿にね。そのためにこの国に巣食う毒虫どもをこの石の力で排除する」
「毒をもって毒を制するってわけですか」
「その通りだ。もう一度言わせてもらう。君には感謝している。そしてここから先は我らビブリズ国民の問題。だからその銃を下ろして、退いてくれ」
「………」
「………」
ドラグゼオとエレヴァート、その仮面の奥に潜むトモルとフルメヴァーラの視線が交差する。お互いを品定めするように、牽制するように……。
そして数秒の沈黙の末、トモル・ラブザは自分が何をすべきかの答えを導き出す。
「わかりました」
「わかってくれたか」
「はい。とりあえず……そのコアストーンを確保してから、考えます!!」
ボォン!!
火を噴くガンドラグ!桃色の炎の弾丸が発射された!この攻撃を防ぐ術はエレヴァートにはない!
エレヴァートには……。
「消し飛ばせ……風連凰」
ボオウッ!!
「!!?」
眩い光と共に巻き起こる突風!その風がフルメヴァーラの言葉通り、炎の弾丸を跡形もなく消し飛ばした!
「ドラグゼオの炎が……!?っていうかそのマシンは……!?」
驚愕するトモルの視界は捉えた、新たな機械鎧を装着したフルメヴァーラの姿を。
「君を傷つけたくなかったが、わかってもらえないなら、仕方ない。我が友、エイノ・ラトヴァレフトから受け継いだこの風連凰の力でステージから強制的にご退場願おうか」




