成長の証明
タモツボーデンはジェネラルを警戒しつつも、隣にいるシュネッラーに視線を送った。
「指示をくれってか?」
「そうですよ。あなたがこの突入部隊のトップでしょ?おれはあなたの指示に従う義務があり、あなたにはおれに指示する義務がある」
「真面目だね~」
「ふざけてないで、実際にどう対処するかを言ってください……!協力するのか、それとも……」
「隊長やリスキの奴なら、お手々繋いで仲良く一匹ずつ各個撃破とか言うんだろうが……オレは雑魚のお守りなんてごめんだ」
「気が合いますね。おれも付け焼き刃の連携なんてしたところでろくなことにならないと思っていたんですよ」
「なら、決まりだ」
「はい……!」
「目の前にいる奴をタイマンで!!」
「ぶっ潰す!!」
シュネッラーとタモツボーデンは左右に散開!それぞれの相手に猛スピードで突っ込む!
「注意された通り、この戦いでは周りの被害は考えない!!」
若葉色のマシンはライフルを召喚すると、躊躇うことなく引き金を引いた!
バン!バン!バァン!!
発射された弾丸は三発。一つは頭部、一つは胸部、一つ腹部、縦一列に配置された急所に的確に放たれた……が。
キン!キン!キィン!!
「スティン!!」
「ちっ!」
その全てを強靭な外骨格によって弾き飛ばされてしまう。
(大きさだけじゃなく、硬さも大幅アップか。セオリー通りなら、装甲の薄い関節部分を狙うんだけど……生憎、そんな器用な真似はおれにはできない。ということで、懐に潜り込んで、接近戦だ!!)
タモツボーデンは姿勢を低くし、前のめりに。さらに加速し、ジェネラルの眼前まで……。
「スティィィィィィン!!」
「!!」
それを指を咥えて待ってあげるほど、この将軍様のお行儀は良くない!腕の鎌を大きく振り上げたかと思うと……。
「ティンッ!!」
凄まじい勢いで撃ち下ろした!
ガリッ!!
若葉色の破片が空中に舞い散る。
咄嗟にバックしたが、鎌の先が僅かに胸の装甲に触れ、削られてしまった。
(危ねぇ~!!もう少し反応が遅れていたら、ばっさりと斬り裂かれていたな……これも社長に鍛えられたおかげかな)
九死に一生を得たタモツの脳内で、パストルとの修行の日々が鮮明に甦る……。
「戦いにおいて最善の展開はなんだと思う?」
「相手に反撃の余地を与えずに倒すことっすか?」
「そうだ。奇襲や暗殺、騙し討ちで相手の力を発揮させずに無力化するのが、一番好ましい」
「卑怯くさくて、おれはあんまり好きじゃないっすけど」
「だから奇襲用のマシンを目の前で装着するなんてアホな真似したのか」
「うっ!?それは言わないで欲しいっす……」
「お前の間抜けさは置いておくとして……実際はその最善とやらを行えない場合もままある。特に俺様達のようなフリーの傭兵なんかがよく依頼がされる護衛任務なんかは、逆に奇襲や騙し討ちをされることを前提にしてるみたいなもんだしな」
「確かに……」
「お前が目指す傭兵ないし戦士の理想像がどういうものかは知らんが、一つだけ間違いないのは、死んだら負けということだ。とにかくまずは自分の命を守る術を学べ。神経を研ぎ澄まし、周囲の情報を敏感にキャッチする術を、防御と回避を学ぶんだ。まずはそこからだ」
「周囲の情報はキャッチできてないかもだけど、防御と回避については、それなりに身についたつもりなのよね」
「スティィィィィィン!!」
思い通りにいかなかったことに癇癪を起こしたのかジェネラルは連続で鎌を振るった。
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!
しかし、何度やっても若葉色の体表を削るどころか、触れることさえできなかった。
「どんなもんだい!と威張りたいところだけど、一撃目を食らっちゃったからな……カッコつかないよね」
「スティン!」
ごちゃごちゃうるさいと言わんばかりに、ジェネラルは懲りずに鎌を振る。
ヒュッ!
しかし、やっぱりどうしても当たらない。
(撃ち下ろしと同時に鎌を真っ直ぐ伸ばしている。そのせいで第一撃で間合いを見誤ったんだ。むしろ攻撃の軌道的には鞭の方が近い。社長に色んな武器で攻撃されて、ボロボロにされた甲斐があったな。あれ、本当に辛かったから、報われて良かったよ)
タモツボーデンはバックステップで攻撃を回避しながら、ウンウンと感慨深そうに頷いた。
(さて……鎌は攻略した。どうやら基本的に縦にしか振れないみたいだし、距離感さえ間違わなければ、こんな大きなモーションの攻撃はまず当たらない。こちとら社長だけじゃなく、色んな人やオリジンズと戦ってきたんだ……!)
再びタモツの脳裏である日のパストルとの会話が思い出された……。
「お前に一番足りないものは何かわかるか?」
「経験」
「グッド。わかってるじゃないか」
「わかりますよ。もうずっと社長と組手、時々仕事で小型のオリジンズと追いかけっこ。その繰り返ししかしてないっすから」
「だが、そのおかげでお前も大分基礎が身についた。というわけで今日からは、応用編だ」
そう言って、パストルは目の前のテーブルに無数の名刺をばらまいた。
「これは……?」
「陸代にある格闘技の道場、ジム、P.P.バトル部のある高校、大学、実業団……お前と手合わせしてくれる約束を取り付けられたところの名刺だ」
「え?これ全部と戦えって言うんすか!?」
「そう言ってんだよ。それ以外にどう聞こえる」
「でも、この数は……」
「むしろこれでも絞った方だぞ。仕事に支障をきたしたら、たまったもんじゃないからな」
「手加減してこれとか……一流の戦士への道はなんと険しいことか……」
「だが、やれば確実に近づく。それは保障する」
「そこまで言うならやりますけど……」
「その際、一つ注意点というか、やって欲しいことがある。組手の前、相手の雰囲気を見て、自分より格上か同等か格下かを毎回ジャッジしろ」
「え?会った人をいきなり品定めしろってことっすか?」
「前にも言ったが、死んだら負けだ。それを避けるためには相手の力量を正確に測ることが何より大事なんだよ。今の自分やBP・ボーデンでは勝てないと判断したら、逃げること。それをできるようになるための訓練だ、これは」
「へ~」
タモツの冷たい眼差しが、パストルに突き刺さった。
「……何か言いたげだな」
「社長、おれの目の前でトモル君の力量を見誤って、こてんぱんにやられてますからね。ぶっちゃけ説得力ないっすよ」
「うっ!?痛いところを突いてくるな……」
「おれが手も足も出なかった相手を、手も足も出させずに完封する……あんな強烈な光景、忘れたくても忘れられませんよ」
「言い訳をさせてもらうと、奴が実力を隠すのがとびきり上手かったんだ。あとピースプレイヤーに関しては、間違いなくこちらに分があった。森の中でストロングポイントである敏捷性を存分に発揮できるベッローザ・ブルーと、ちょっと変わった装備を持っているだけの、トゥレイター502……同じ力量の人間が装着し、戦っていたら、まずベッローザが勝つだろ」
「だからあの時、トモル君に喧嘩を売ったのは、判断としてはそこまで間違ったものではなかったと?」
「そういうことにしておいてくれ。とにかく!俺と同じ轍を踏みたくないなら、相手の力を肌で感じられるようになれ!勝てない相手なら逃げろ!勝てる相手なら勝て!同等の相手なら……状況次第だな」
(あの時から色んな戦い方、色んな強さの相手と戦いまくった!まだ正確に敵の力を測るのは無理だけど、多分こいつは……)
「スティィィィィィン!!」
「工夫次第でどうにかなる!!」
回避一辺倒だったタモツボーデンの重心が再び前に!
スティンマジェネラルはその変化を見逃さずに両腕を振り上げた!
「今だ!!」
「スティン!!」
ヒュッ!ヒュッ!!
前に行くと見せかけて、やっぱり後ろ……タモツボーデンの動きはフェイントであった。まんまと引っかかったジェネラルは何もない空間に鎌を撃ち下ろす。
そして、ここからがタモツにとっては本番だ!
「はっ!!」
ガシッ!ガシッ!!
「――スティ!!?」
前に行くと見せかけて、やっぱり後ろに行って回避……からの前進!タモツボーデンは撃ち下ろされた腕を上から押さえつけると、その間に身体を潜り込ませた。
「ティン!?スティン!?」
「無駄だよ。上から下に振り下ろすことに特化したものは、総じて逆の方向への力……下から上に振り上げる力は弱かったりするもんだ」
「スティン!?」
「まぁ、この予想が大外れな可能性も十分あるから、博打だったんだけどね。でも、上手くいった!」
タモツボーデンはジェネラルの腕を使い、まるで体操の平行棒のように両足を上げた。そして……。
「これで……蹴り放題だ!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!
「スティィィィィィン!!?」
ストンピング!ストンピング!ストンピング!平行方向にひたすら踏みつける!
みるみるうちにジェネラルの外骨格は稲妻のようなひびが入っていき、ポロポロと破片がこぼれる!
「そろそろいいか……仕上げといこう!」
若葉色のマシンはこれまた体操選手のようにくるりと空中を回転しながら、距離を取る。その手にはいつの間にかまたライフルが握られていた。
「この状態なら……効くでしょ!!」
バン!バン!バァン!!
「――ステッ!!?」
発射された弾丸はまた三発。一つは頭部、一つは胸部、一つ腹部、縦一列に配置された急所に的確に放たれたそれは……今度こそ見事に虫の身体を貫いた。
「スティ……」
どろどろと体液を垂れ流すスティンマジェネラル、その複眼から光が消え、受け身も取らずに地面に倒れる。
つまりタモツボーデンの勝利である。
「ふぅ~……よっしゃ!!」
渾身のガッツポーズを披露するタモツボーデン。
それを冷めた眼差しで見つめる者が一人……。
「喜ぶのはまだ早いだろ」
声のした方を向くと、シュネッラーが拳銃をくるくると回していて、その傍らにはバラバラになったスティンマジェネラルが……。
「……関節狙えるタイプだったんすね」
「何を言ってる?怪我がないなら、次に行くぞ。オレの勘だとあと二、三匹はいる」
「そんなにっすか……」
「だからハリーアップだ」
「ういっす。頑張ります」
シュネッラーに急かされ、タモツボーデンは倉庫を後にした。その背筋はピンと真っ直ぐ伸びていて、入る時よりも自信に満ち溢れているように見えた。




