炎の竜と聖騎士
突然、トモル達の前に姿を現したモノトーンに彩られたピースプレイヤーはどこか騎士を思わせるデザインをしていた。
高貴さの中に力強さを感じさせる堂々とした立ち姿。普通の人ならばその感覚はあくまで外身の印象によるものだと勘違いするが、はったりではなく数々の修羅場をくぐり抜けて来た一流の戦士と相棒の妖精はその本質が中身にあることを察知する。
(強いな、この人。下手したら……)
(ジョゼットのおっさん並みだな。プレッシャーの質が大型オリジンズクラスだ)
(マシンはウィーデンのブランジェントの改造機っぽいな。でもあそこまで徹底的に弄られているなら、別物だと考えた方がいいか)
「分析は終わったか?」
心を見透かしたようなモノトーンの聖騎士の発言。けれど、トモルもアピオンも眉一つ動かさない。
なぜなら、その程度のこと、こいつならできるという確信があったから……。
「見た目から得られる情報はあまりなさそうですね。あなたもそれがわかっているから、黙って観察させていたんでしょ?」
「まぁな。だが、仮に君達がこいつのデータを持っていたところであまり変わらんよ。情報一つ知られたくらいで攻略されるような脆弱なマシンに仕上げたつもりはない」
「愛機を自慢しに来たんですか?ならば、存分に堪能したんで、お帰りになってもらいたいのですが」
「今さっき言ったろ。戦いに来たんだよ、俺は君と。口八丁手八丁で返そうとしても無駄だよ」
「ですか……」
「というわけで、君も自慢してくれないか。君の愛機、噂の桃色の竜を」
「では、リクエストにお応えして……」
トモル・ラブザが首にかけた十字架をギュッと握り締める。そして……。
「熱く行こう、ドラグゼオ」
静かにその真名を呟くと、彼の家の家紋を彷彿とさせる桃色の炎竜が顕現し、その身から発せられる威圧感で地下駐車場の空気を一気に重くした。
「これがドラグゼオ……!話には聞いていたが、実際目の当たりにすると、これは……!!」
ブラックとピンクの装甲と炎を模した角飾り、エメラルドを彷彿とさせる二つの緑色の眼を持った竜の姿を目にすると、白い鎧の中に包まれた身体が自然と強ばり、額から頬へ汗が一筋伝った。
「ぼくやドラグゼオのことを知っているみたいですけど、腕試しの相手にちょうどいいとか思っているなら、勘違いも甚だしい」
「竜の一族は基本ドSだからな!特に桃色の竜のサディステイックさときたら……考えただけで背筋が凍るぜ!」
アピオンは相手との距離と自らの小さい身体を考えてか、大げさに動き、震えるふりをした。
「なんかソース皆無の酷い偏見が含まれていたような気もしますが、アピオンの言う通り……やるからには徹底的にやらせてもらいますよ」
「覚悟の上だ……!」
そう言いながら聖騎士はおもむろに構えを取ろうとした。その時!
「じゃあ、遠慮なく」
「!!?」
瞬間、一気に桃色の竜が眼前まで迫る!しかも弓を引くように、拳を大きく振りかぶって!
(速い!!)
「ていっ!!」
唸りを上げる竜のナックル!しかし……。
「だが想定の範囲内!!」
パンッ!!
聖騎士は向かって来る腕をタイミング良く横からはたき、軌道を変更!第一撃を見事に防いだ!
あくまで第一撃を……。
「フッ!」
「な!!?」
ドラグゼオははたかれた勢いを利用して回転!矢継ぎ早に後ろ回し蹴りを放つ!
ガッ!ガッ!!
「――ぐっ!!?」
「!!?」
蹴りを腹部に受けた白のマシンは大人二人分ほど吹っ飛んだ。だが……。
「あそこから蹴りに繋げるとはな……」
「はあっ!?ぴんぴんしてるじゃねぇの!?」
だが、ダメージをもらった様子はなく、アピオンは驚きを隠せない。
(気持ちはわかるよ、アピオン。あのタイミングで後ろに跳躍して、衝撃を逃がすとは思いもしなかった。いや、本当に想像していなかったのは……)
「あれ?ドラグゼオの脚が……」
蹴りを入れた桃色の竜の脚が汚れていた。まるで何かに擦られたように……。
(まさか避けるだけには飽き足らずカウンターを入れてくるとはね。なんとかギリギリで脚を引っ込めたけど、もう少し遅ければ……)
別に過小評価していたわけではない。その上で自分の想定を上回る実力をたったワンアクションで示した突然の来訪者にトモルは改めて気を引き締め直した。
一方、相手の聖騎士の方も……。
(あのタイミングで俺のカウンターを察知し、ダメージを最小限に抑えるとは……さすがにあの男と真っ向からやり合えただけはある。俺は手を出してはいけない男に手を出してしまったのかもな……)
白き聖騎士の方も本来与えられたはずの被害を受けずに済ました桃色の竜に対して、強い危機感を抱く。自分のやっていることは、とても恐ろしく、そして愚かなことなんじゃないかと……。
(これは様子見してる場合じゃないか。ギアを上げるとしよう)
手加減は不要と判断したドラグゼオは半身になり、身体から余計な力を抜き、拳の握りも緩め、前方の右腕を振り子のように揺らし始めた……バーの樹海の時のように。
(あの構えは……)
「動揺の一つも見せないんですね」
「ん?鉄板ギャグか何かなのかそれは?」
「白々しい。知っているんでしょ、ぼくがこれから何をしようとしているのか?」
「どうだろうな」
「まぁ、何でもいいですけど。あなたの自慢のマシンと同様にぼくも知っているからといってどうにかできるようなやわな技を作ったつもりはない!」
脱力したドラグゼオの右腕は重力から解放されたように柔軟かつ軽やかにしなり、唸りを上げた!
「桃闘拳!ドラグゼオ式フリッカー!!」
ボッ!ドゴッ!ボッ!ドゴッ!ドゴッ!!
「ぐうぅ……!!」
桃色の火花を咲かせながら、ドラグゼオの拳は無軌道に動き回り、聖騎士をガードの上から一方的にタコ殴りにする。
「この!!」
それでもなんとかしようと、白騎士は手を出したりなどしてみるが……。
ボッ!ボッ!ドゴッ!!
「――がっ!?」
手首から炎を噴射し軌道を強引に変更!白き腕をすり抜け、顎をかち上げた!
(このまま一気にKOまで!)
強制的に上を向かされた聖騎士にとどめを刺そうと、ドラグゼオはさらに間合いを詰め……。
「……パラディジャベリン」
「!!?」
無防備を晒していると思われた聖騎士は大きな刃を持つ槍を召喚!先ほどのようにカウンターアタックを仕掛けた!
「舐めるな!!」
ボオッ!!ヒュッ!!
「ちっ!!」
けれども、ドラグゼオは全身の筋肉を使い急ブレーキ!さらに身体の前面、鎖骨や腰、脛から炎を噴射し、超速バック!長大な槍の射程の外にあっという間に離脱した。
「これも不発か……」
モノトーンの聖騎士は何故か少し嬉しそうな声色でそう呟くと、槍をくるくると回し、構え直した。
「それがあなたの本来のバトルスタイルですか」
「あぁ、これなら君のその厄介なパンチの射程の外から攻撃できる」
「ですね。ならぼくも」
ドラグゼオは特製の複合兵装ガンドラグを召喚し、その銃口を聖騎士の額に向けた。
「さらにその射程の外から一方的に嬲らせてもらいましょうか」
「ならば俺はその銃弾の雨を掻い潜り、槍で突き刺す」
「だったらぼくはその槍を避けて、またあなたを殴る。もう二度と立ち上がれないくらいにね」
「できるものならやってみろ」
「ではお言葉に甘えて、やらせてもらいましょうか」
二人の間を冷たい風が吹き抜ける。それに反比例するように両者の闘志は内面で熱く燃え滾っていた。
戦いの第二ラウンドはさらに苛烈でえげつないものに……。
「ストップ!ストオォォォップ!!」
地下駐車場にこのマッチメイクのために苦心した男の声が、ケント・ドキの声が響き渡った。
「なんだ?いいところなのに」
「そうですよ、邪魔しないでください」
「するわ!マジで殺し合いするつもりか!!知り合い二人を傷物にするために下手な芝居打ったんとちゃうんわ!!」
「下手な芝居をしている自覚はあったんですね」
必死なケントの形相に毒気を抜かれたのか、ドラグゼオは銃を下ろし、そのまま待機状態の十字架に戻った。
「あっさりと武装解除するんだな」
「理由が知りたいですからね。ケントさんにあんな恥ずかしい真似をさせてまでぼくと戦いたかった理由が」
「恥ずかしい真似って……これも嘘を吐いたバチなんか……」
自分で言うのはいいが、他人から指摘されると深く傷つくケントであった。
「フッ……そうだな。十分君の実力は堪能できたし、ケントに恥をかいてもらった甲斐があった」
「ええ……トモルはともかくワイを唆したあんさんが言うのは違うやろ……」
ケントは傷口に塩を塗られ、とても辛かった。
「あの猜疑心の塊のようなケントさんが力を貸すなんて、一体あなたは」
「トモル、お前ホンマに……」
「一緒に死線をくぐり抜けた仲だからな。いや、性格にはくぐり抜けられてないか……ラゴド山の一件と言えば君もわかるだろ?」
「ラゴド山……あっ!もしかして!」
「『パラディジェント』解除」
トモルが自分の存在を思い出したのを確認すると、モノトーンの聖騎士も武装を解除し、苦笑いを浮かべた姿を彼の前に晒した。
「そうだ。俺は『エクトル・アテニャン』。三種の神器の一つリーヨのマントを手に入れながら、緑の処刑人ターヴィ・トルマネンに奪われた間抜けな男さ」




