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No Name's Trust  作者: 大道福丸
禁忌の魔石と不死殺しの炎
70/100

見える景色

「今度こそきっちり片付けるぞ……ヌディゴ」

 短剣を引き抜くとナベシマは再び黒い機械鎧に身を包んだ。

「出たな特級!お前を倒すために色々と考えてきたんや!まずはプラン……」

 対してケントベッローザは背負っていた長方形の箱を開け……。

「させるか」

「――えっ!?」

 ヌディゴは一瞬で距離を詰め、メイスで殴りかかって来た!


バギャン!!ガシャン!!


「くっ!?しもた!?」

 咄嗟にベッローザは箱で防御してしまう!大きくひしゃげたそれは手から強制的に放され、石畳に転がった。

「もう一発」


ドゴオォォォォン!!


「当たるかちゅうねん!!」

 追撃の一撃!……は、あっさりと回避。メイスは床を粉砕し、ベッローザはそれを眺めながら後退した。

「ちょこまかと。まぁいい……お前の出鼻は挫けたんだからな……!」

 チラリとひしゃげた箱から覗く銃を見て、黒いマスクの下でナベシマは嫌らしい笑みを浮かべた。

「あの様子じゃ中身も無事じゃない。何やらオレを倒すために武器を用意してきたみたいだったが、無駄に終わったみたいだな」

「手に入れるのに苦労したのに……何してくれてんねん!!」

「お前は弱いし、その癖変な拘りを持ってる妙な奴だが、頭はそこそこ回る。一回ボロクソにやられた相手にはきっちり対策を練ってくる……だろ?」

「くっ!?」

「別にヌディゴのパワーなら正面から打ち破れると思うが、実行する前に潰せるもんは潰すさ。お前ごときに下らない時間をかけたくないんだよ」

「それはワイも同じや……お前なんかとは、とっとと倒してやるわ!!」

 真っ赤なベッローザが光に包まれる。その光が収まると、ケントのパーソナルカラーである黄色と黒で彩られた見たこともないピースプレイヤーが姿を現した。

「ケントスペシャル3!!『ガナビッドーザー』!!」

「……うちの団員達のマシンを奪って、混ぜたのか?」

「奪ったのは、お前らの方やろ!盗賊が!ワイは主人から引き離された可哀想そうなこいつらに恨みを晴らさせるために、ちょっと拝借して、バラバラに分解して、くっつけただけや!!」

「ものは言い様だな」

「お前と道徳や倫理観について話し合う気はない!ワイはお前に……リベンジしに来たんや!!」

 ガナビッドーザーはハンマーのようなものを召喚!それを斜め下に構えながら、ヌディゴに突っ込んだ!

「これが……プランBや!!」

 下から振り上げる!ハンマーはヌディゴの脇腹に……。


ガァン!!


 命中……命中したのだが……。

「何かしたか?」

 ヌディゴには効かず!漆黒の装甲を砕くどころか、かすり傷一つつけることはできなかった。

 しかし、それはケントの想定通り……。

「プランBの本番は……こっからや!!」

 長い柄にはスイッチがついていた。それに指をかけると……躊躇なく押した!


ボォン!!


「――なっ!?」

 ヌディゴに衝撃が!正確にはヌディゴを通り抜け、装着者であるナベシマに衝撃が走ったのだ!

「杭打ち機の要領でハンマーの接地面を撃ち出したんや!かの拳聖が使ったっていう“骸装通し”みたいに、装甲を通り抜けて中身にダメージを与えられると思ってな!」

 そう言いながら、ガナビッドーザーはゴルフのスイングのようにハンマーを振りかぶった!もう一度、ぶち込むために!しかし……。

「おかわりいきまっせ!!」

「必要ない!!」


ガシィン!!


「――な!?」

 ヌディゴにいとも容易くハンマーの柄を掴まれてしまった。

「確かに装甲を貫く攻撃には驚いたが、所詮はただの玩具……拳聖の妙技には程遠い!」

「くそっ!?」

「ましてや完全適合したオレはヌディゴを装着しているのではなく、融合している!内部にいるオレの耐久力も上がっているんだよ!!」


ブゥン!!


「うおっ!!」

 ヌディゴは力任せにハンマーごとガナビッドーザーを投げ飛ばす!壁に向かって叩きつけるように!

「野郎!」

 けれど、黄色のマシンは器用に空中で体勢を立て直し、勢いを殺し、壁に優しく着地すると、そのまま地面に降り立った。

「ふん、大道芸人にでも転職した方がいいんじゃないか?向いてないことを続けるよりも、多少嫌でも向いていることをやって称賛を受けた方がいいだろ?」

「ワイとは考えが違うな。好きなことやった方がええに決まっとるやろ。向いてる向いてないの視点でいうなら、全部AIに任せとけばええって話になる。奴らがたどり着けない領域に行くには“熱”が、“好き”が必要不可欠や」

「ふん、現実から目を背けているようにしか見えんな」

「かもな。けど、こんな正解があるかもわからん世界を生きて行くには、自分の感性を信じるしかないやろ。少なくともワイはこの生き方を曲げるつもりはない」

「そうか……そこまで言うなら、オレがこの手で力ずくでわからせてやろう、お前の過ちを……!」

 あの時のように、ヌディゴは腕から二門の砲を展開した。そして狙いを定めると、エネルギーを充填していく。

「この間も言ったが、ヌディゴは射撃戦も得意なんだよ……って、痛いほど知っているか」

「あぁ、だからこんなもん用意させてもらいました!」

 ガナビッドーザーも腕から砲口を展開!そこから……。


ビジャアッ!!


「何!?」

 粘性のある液体を発射した!それがヌディゴの二門の銃にかかり、砲口を包むと……。


ガチィン!!


 一瞬で石のように固まった!

「これは……キュラビットの!?」

「せや!人命救助の時に瓦礫を固定するためのもんをワイが戦闘用に改良したもんや!これでエネルギーの出口を塞がれたら……」

「しまっ!?」

「ボン」


ボオォォォォン!!


「ぐわあぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 行き場を失ったエネルギーは暴発!今まで傷一つつけられなかったヌディゴの腕の装甲が弾け飛んだ!

「く、くそ!?オレの腕が……!?」

 当然、中身のナベシマのダメージも甚大。ぶらりとだらしなく腕を下げ、二の腕をメイスを持った手で抑える。

「これがプランC。ワイの攻撃でダメージ与えられんなら、ヌディゴ自身に自滅してもらう」

「セコい手を……!」

「そのセコい手に引っかかったのは誰や?」

「貴様……!!」

 屈辱にまみれるナベシマ。そんな彼の心の底から湧き上がる怒りや憎しみ、負の感情がヌディゴに伝わり、異様なオーラを放ち出す。

「うっ!?この嫌な感じは……!」

「特級ピースプレイヤーは感情を力に変える……お前はオレの怒りを呼び起こしたんだ!お前の言う“熱”って奴をな」

「余計なことをしたって言うんか!?」

「それ以外にどう聞こえるんだ!!」

「!!?」

 刹那、ほんの瞬きの間にヌディゴはガナビッドーザーの懐に入り込んだ。

「速っ!!?」

「これがお前のいう“熱”だ!!」


ドゴオォォン!!


「――がはっ!?」

 蹴撃一閃!お返しにと脇腹に炸裂したヌディゴの蹴り!ガナビッドーザーは今回は為す術なく、壁に叩きつけられた!

「ぐうぅ……!!」

「まだ死ぬなよ!!」

「――ッ!?」

 容赦ない追撃!メイスで……突く!


ドゴオォォォォン!!


「ちっ!」

 しかし、今回は回避成功!代わりにメイスを喰らった壁がケントの代わりに粉砕され、外とのトンネルを開通した!

「危ないやないかい!!」

「それが嫌なら、こんな仕事につくな!!」

 直ぐ様ヌディゴは後ろに回ったガナビッドーザーの方にターン!片手とは思えないスピードで、重厚なメイスを振り回す!


ブゥン!ブゥン!ブゥン!


「当たるか!!」

 けれどもガナビッドーザーはそれをかろうじて避け……。


ガリッ!!


「くっ!?」

 いや、避けられず!メイスは黄色と黒の装甲を抉り取り、破片が辺りに散らばった!

「当たったな」

「一回かすらせたぐらいで勝ち誇るなや!!」

「これだから才能のない奴は……一回当てられれば!タイミングさえ分かれば!オレレベルなら、どうにでもなるんだよ!!」


ガギィ!ボギィ!!


「……ぐはっ!?」

 宣言通りメイス直撃!腹部に渾身の力で叩き込み、ガナビッドーザーは再度壁にぶつかり、石畳に受け身も取れずに落下した。

 そんな惨めに這いつくばる黄色を見下しながら、黒はゆっくりと、まるで周りに自分の力を誇示するように堂々と近づいて行った。

「結局勝敗を決めるのは才能とマシンパワーなんだよ。それがオレにはあり、お前にはなかった」

「才能はともかく……マシンパワーはお前みたいな中身のない自信家の鼻っ柱を折るには……十分やっちゅうねん……!」

「いまだに立ち上がれずにいるのに威勢がいいな。それとも口を動かしてないと、意識がどこかに飛んでいきそうか?」

「アホか。おかげさまで身体中痛くて、目はギンギンに冴えとるわ……!」

「そうか。では、単純に最後の悪あがきか?いじらしいな」

「ちゃうわ!ワイの成り上がり人生はまだまだこれから!お前なんかワイのキャリアの一面ボスにすらなれないのに、いつまで偉そうに見下ろしてるんや!頭を下げて、許しを乞えや!」

「ここまで来ると、逆に感心さえするな。いいだろう、敗北を認められないなら、認めないまま逝くがいい……!」

 ガナビッドーザーの前で止まると、メイスを大きく振りかぶる。何でそんなことをするのか?もちろんそれはおもいっきり撃ち下ろして、不愉快なアホの脳ミソをぶち撒けるためにだ!

「さらばだ!愚かな夢想家よ!!」


ドゴオォォォォン!!


 メイスは砕き、ぶち撒けた……砦の石畳を。

「……何?消えた?奴を砕いた感触が……ない?」

「そりゃそう……やろ!!」


ドゴオォン!!


「――ぐあっ!?」

 逆に頭をどつかれるヌディゴ!いつの間にか側面に回り込んでいたガナビッドーザーにハンマーでぶん殴られた!

「ぐっ!?何……がっ!!?」

 なんとか倒れずに踏ん張ったヌディゴが、ナベシマが見たのは信じ難い光景だった。

「どうした?」

「もしかしてワイが」

「仰山増えたように見えとるんか?」

 その通りだった。ナベシマの視界一杯には黄色と黒のツートンのマシンが大量にところ狭しと蠢いていた。

「これは……」

「今、ワイめっちゃ気分がええから」

「教えてやるわ」

「これは」

「緑の処刑人(グリーン・パニッシャー)、ターヴィ・トルマネン特製の花粉の効果や」



 ナベシマに敗北を喫し、仲間と別れたケントが向かったのは、メウ共和国、ディオ教第二十支部であった。

「トモル達から聞いとったけど、緑が多くて、ええところやないの」

「そんなことを言うためにわざわざ来たわけじゃないだろ。とっとと要件を言え」

 ターヴィは怪訝な顔つきで、不躾にそう言い放った。

「そんな恐い顔すんなや、欲しいもん貰ったら、すぐに帰るさかい」

「欲しいもの?オレ達はもうアーティファクトには手を出していないぞ」

「ちゃうちゃう!ワイが欲しいのは、あんさんが分泌する花粉や」

「花粉?これか?」

 ターヴィは指の先から花を咲かし、キラキラ光る粒子を空気中に漂わせた。

「それやそれ!トモルに幻覚見せた奴!って、そんなヤバいもんばらまくなや!」

 ケントは慌てて口と鼻をふさぎ、後ろに下がった。

「自分の家であんなもん使うわけないだろうが。これは何の害もない……いや、花粉症の奴は大変なことになるか?」

「なら問題ない。ワイは花粉症じゃないことだけが誇りの男……って、誰がやねん!!」

「イカれてるのか、お前……!?」

 ターヴィはケントの一人ノリツッコミの異常さにただただドン引きした。

「すまん、ちょっと今情緒不安定やねん」

「だったらオレの所より病院に行けよ」

「いや、治し方ならわかってんねん。そいつを使って、あのアホをけちょんけちょんにしたらええだけのこと」

「誰に使うかわからんが、ピースプレイヤーには効かんぞ」

「特級は別やろ?」

「正確には完全適合して、装着者の心と深く結びついている場合はだ。それにものにもよる。特級でも効かない奴には効かんぞ」

「そん時はそん時や。ワイの考えが甘かったってことで諦めるわ」

「じゃあ、オレに文句を言うなんてことは……?」

「あらへんあらへん!そこまで厚かましくないわ」

「だったら持って行け。お前らには見逃してもらった借りがあるから、これでチャラだ」

「おおきに!……なんかトモルの報酬を横取りしたみたいで、ちょっとあれやけど……」

「こういうのは早い者勝ちだろ?トレジャーハンター的には」

「せやな。んじゃ遠慮なく、権利を使わせてもらうわ」

「改めて言っておくと、オレの花粉の効きは特級の素材や装着者自身の体質によってどれぐらい効果が出るのか変わる。さらに放出してから時間が経てば、効果は薄れるから、効かなくても文句は言うなよ」

「改めて言わんでもええわ。効かんかったら……ワイは文句どころか冗談も言えんようになっとるはずやからな……!」



「あぁは言ったが」

「いつまでも効果が出なくて」

「心の中では文句言いまくりやったわ」

 ケントは自分の勝手さに呆れたようにマスクの下で苦笑いを浮かべた。

「特級に効果のある花粉、そんなものいつの間に……!?」

「それは……最初からや」

「最初……はっ!!?」

 ナベシマは最初の攻防で破壊した長方形の箱のことを思い出し、視線を向けると……。

「やはり……!!」

 思った通り箱に入った亀裂からキラキラと粒子が舞っていた。もちろんそれこそがターヴィの花粉である。

「プランBだのCだの言ってたが、あれは嘘」

「全部お前さんの注意をあの箱から逸らすためのでまかせや」

「ワイの狙いは最初からこの幻覚地獄にお前をはめること」

「箱を破壊されたのではなく、させたのか……!!」

「せや。ちなみに隙間から覗いとる銃はただのモデルガンや、一番安いランクの」

「く、くそがぁぁぁぁっ!!」

 怒りに我を忘れたヌディゴはまたメイスを振り回し、視界一面にいるガナビッドーザーに襲いかかった……が。


ブゥン!ブゥン!ブゥン!ブゥン!!


 メイスに触れると、黄色のマシンはぼやけ、そして遂には蜃気楼となって消えていった。

「ぐうぅ……!!」

「無駄や無駄」

「お前の攻撃がもうワイを当たることはない」

「逆にワイの攻撃は……」

「当て放題や!!」


ドゴオォォッ!!


「――がっ!?」

 傍らにいたガナビッドーザーの一人にハンマーを腹に叩き込まれ、ヌディゴの身体は直角に曲がり、装甲が砕かれ、酸素を強制的に排出、そして激痛が身体中に広がっていく!

「がはっ!?くそ!?」

 それでも悶絶しながらの反撃。メイスで攻撃してきたガナビッドーザーを薙ぎ払うが……。


ブゥン!!


「そこにはもうおらへんよ」

「ぐうぅ……!!」

 やはり黄色のマシンは霧となって消えて行ってしまった。

「くそ……!また……それにヌディゴの装甲が……パワーまで上がっているのか!?」

「逆や逆」

「花粉によって、お前の心が乱れ」

「完全適合が解けかかっとんのや」

「そんな……バカな……」

「現実から目を背けんなや」

「実際にこうしてワイの攻撃にびくともしなかった自慢のヌディゴは」

「ボロボロになっとるんやろが」

「まぁ、花粉食らっても、あんさんの精神がもうちょいタフなら」

「もうちょい持ったかもしれんがな」

「自分じゃ気づいていないかもしれんが」

「お前はもう負けを認めてるんや、内心では」

「そんなこと……あるわけないだろ!!」


ブゥン!ブゥン!ブゥン!!


 形振り構わずの破れかぶれ!ヌディゴはメイスをぐるぐると振り回した……いや、むしろメイスにヌディゴが振り回されている。

「もう限界やな」

「意識が混濁してきとるやろ?」

「違う!オレはまだ!こんなセコい手に負けてなど……!!恥ずかしくないのかお前は!こんな卑怯な方法で勝って!!」

「スポーツやないんやから、実戦に卑怯もくそもあらへんやろ」

「つーか今回のこの方法は予想できたたやろ、ワイをよく知るあんたなら」

「きちんと対策打つタイプって自分で指摘してたやないか」

「ぐうぅ……!!」

「そもそも特級使っているのに、この手の精神攻撃を警戒してないとかありえへん」

「この結果はあんたの落ち度や」

「うるさい!オレが負けるはずないんだ!お前なんかに才能の欠片もないお前なんかに……!」

「確かにワイは才能なんて一ミリもないかもしれん」

「天才どもが見ている景色を、これからも見ることはないやろ」

「そうだ!お前はオレ達の見ている世界を見れないんだ!お前ら凡人は地面を這いつくばっていればいい!」

「言われなくてもそのつもりや」

「コケて、転がって、這いつくばっての繰り返し」

「でもな」

「それを繰り返した凡人にしか見えない景色もあるんやで」

「ふざけるなあぁぁぁぁぁっ!!」

「ふざけてないわぁいッ!!」


ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴオォォォォン!!


「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 上から下から右から左から、四方八方からのハンマー!ヌディゴの漆黒の装甲は砕け、ベコベコにへこまされ、そして中身のナベシマの心と身体もボコボコに……。

 つまりガナビッドーザーの、ケントの勝利である。

「そもそもお前、偉そうに講釈垂れとるけど、ワイよりちょっとマシで、たまたま特級と適合しただけで別に天才でも何でもないやろ!……って、もう聞こえてへんか。寝落ちとか……最後まで腹立つやっちゃな」


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