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No Name's Trust  作者: 大道福丸
禁忌の魔石と不死殺しの炎
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聖なる涙を飲んでみた

 トモル達一行は計画通りカジュルルの涙を持って、ドリン族の集落、おばば様の屋敷に戻って来た。

「おばば様!ジエールさん!どうですか!」

 モネードはくるくると回ったり、ポーズをつけたりして自らの新たな姿を見せつけたのだが……。

「「はいはい、おめでとうおめでとう」」

「リアクション薄っ!!?」

 恩師達の反応はいまいちだった。

「なんかもっと、ついに……!!みたいな感極まった風な感じにならないですか!?」

「ならないねぇ」

「ついにってより、ようやくだ。むしろカジュルルと戦わないといけないまで、だらだらと……ケツに火がつかないと本気出さねぇのか?」

「うぐっ!?それはまぁ確かに……ここまで変身できなかったのがあれなんですけど……」

「そういうジエールも追放されるっていう前日ギリギリに、なんとかかんとか変身できたケツに火がつかないと本気出せないタイプだったんだけどねぇ」

「え?」

「おばば様!!」

 瞬間、強面の銀色の顔が困り果て、そして赤みを帯びた。

「これからの心構えとか色々と言わなきゃいけないのに、オレの威厳が……」

「でも事実は事実だからね。それに……」

 おばば様が顎をしゃくり上げて、ジエールの視線を再びモネードに向けさせる。彼女の目はキラキラと憧れの人を見るように輝いていた。

「ジエールさんがうち以上の落ちこぼれだったなんて……」

「別に人より歩みが遅かっただけで落ちこぼれってわけじゃ……今はこうして、自分で言うのもなんだが立派にやっているわけだし」

「そうです!それがいいんです!!だったらうちも!!やってやるぞ!!」

 尊敬の眼差しから、闘志の炎漲る瞳に。モネードはやる気に満ちていた!

「やれやれ……まっ、しょぼくれてるよりはマシか」

「ここもしばらく安泰じゃな」

「「「ははははは!」」」

 獣人達の笑いの絶えないドリンの集落。

 新たな戦士が加わったことにより、この光景はこれからも続くであろう……。

「あの~、そろそろ飲んでいいですか?」

 業を煮やしたトモルが意を決して獣人達の団欒に割って入った。

「皆さんにもしもの時に備えて、待てと言われたので待っているのですが……」

「そうだったそうだった!悪いな!」

「つい嬉しくなっちゃって」

「気持ちはわからなくもないですけどね」

「お祝いパーティーの一つくらい付き合ってやりたいところだが、生憎おれっち達は急いでるんでな」

「不死の怪物とやらが生まれる前に敵を撃滅したいんだろ?わかっているよ」

「何かあった時のために医者にも準備してもらっております。だから何も心配いりません」

「お前達が出かけている間に紹介してもらったが、信用できる人だったぞ」

「そうですか……それなら安心して飲めますね……!」

 トモルは目の前にある瓶の蓋を開け、口元に近づけた。

「では……カジュルルの涙!」

「一気に飲んじゃって!!」

「はい!!」


ごくごく……


 アピオンの言葉通り、トモルは一息に瓶の中にあった涙を飲み干した。

「ぷはっ!!これで!」

「不戦の矢が!」

「解除されるはず!!」


……………


「こ、これで!!」

「不戦の矢が!」

「解除されるはず!!」


……………


「こ、これで……」

「いや、もういいって」

「何も起きないな」

「ですね……」

「何か身体に変化とかは?」

 トモルは自らの身体にペタペタと触れ、確認する。

「……ないね」

「では、気持ち悪くなったり、気分の方はどうだ?」

「それも……ないです」

 トモルは戸惑いながらも首を横に振った。

「うむ……どうしたものか。カジュルルの涙が効果ないとしたら、一体我らは……」

「今から他の方法を探すってもエレシュキガルの復活まで間に合わないぜ?」

「だね。八方ふさがりか……」

 トモル達の周りの空気が重く淀んだ。その時……。

「トモルさん!胸!胸!!」

「胸?」

「胸が光ってます!!」

「「「!!?」」」

 モネードの指の先、トモルの胸がボワッと優しい光を放っている。

「これは何が……!?」

「何がも何もないだろ!」

「メルヤミお嬢様曰く……デトックスだ!!」

 光の中からズズズと尖ったものが、矢が競り出てきた!そして……。


ぼとり……


 そのまま全貌を現し、床に落ち……。


バキィン!!


 粉々に砕け散った!

「………これでいいんですよね?」

「「さぁ?」」

 トラウゴットとアピオンはお手上げだとジェスチャーする。

「ですよね。わかりませんよね」

「オルコに聞くか、殷則に直接に会うしかねぇな」

「まぁ、今は無事取り出せたことを喜ぼう。内心ワタシはお前が光り出した時、爆発して、首だけウレウディオスボックスに詰めて帰ることを覚悟したぞ」

「よくあの一瞬でそんな嫌な想像できますね……」

 トモルはどん引きした、ただただどん引きした。

「とにかくここでやることは終わったってことだ」

「じゃあ、まずは」

 二人と一匹は姿勢を正し、おばば様の方を向き直し……。

「力を貸していただき……」

「「「ありがとうございました」」」

 両手を床について、深々と頭を下げ、感謝を示した。

「いえいえ、もし不死の化け物など生まれれば、いずれはワシらも被害を被るかもしれん。むしろそんな厄介な相手を倒してくれるなんて、こっちが礼を言わなければいけないくらいじゃ」

「まだ倒せるかどうかわからないですけどね」

「いいや、そなた達なら勝てる……予知などせずともそれはわかる」

「だな」

「間違いないです」

「おばば様、ジエールさん、モネードさん……」

 優しく微笑みかけるおばば様、力強く頷くジエール、拳を握って熱い眼差しを送ってくるモネード……彼らの自分に対する信頼がひしひしと伝わり、トモルの胸は熱くなった。

「皆さんにそう言ってもらえれば、百人力です!必ず殷則を倒して、エレシュキガルを取り戻して見せます!」

「それでこそオレに勝った男だ」

「では、名残惜しいが、早くここを発とう。事態は一刻も争う」

「はい!でも、その前に寄ってもらいところがあるんですけど」

「ん?寄り道するのか?この状況で?」

「この状況だからです。来る時に話したドラグゼオの新装備を取りにいきたいんです」

「カレー作りも得意な職人に頼んでいるというあれか」

「ちょうどそろそろ完成するはずです」

「けれど、そうしている間に戦いが始まってしまったら元も子もないぞ」

 トラウゴットは難色を示した……が。

「大丈夫ですよ」

 トモルはそれを笑顔で否定した。

「今回もなるようになったんだから、次も……必ず間に合いますよ!」


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