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No Name's Trust  作者: 大道福丸
禁忌の魔石と不死殺しの炎
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獣になりたい少女③

「カジュル!!」

 カジュルルは懲りずにまたツルを伸ばした。それは鞭のようにしなり、少女に襲いかかるが……。

「もうそれは飽き飽きですよ!!」


ザンッ!ザンッ!!


 やはりモネードの鉈によって切り捨てられてしまう。



「なんか動きが良くなって来たんじゃない、モネちゃん」

「あの攻撃は散々見てきたからね、慣れたんでしょ」

「つーか、冷静に考えると、そもそも普通の人間なのによく避けられるよな」

「一見、どこにでもいる普通の女の子にしか見えないけどモネードさんは普通ではないよ。変身こそできないけど、反射神経なんかは明らかに人間離れしている」

「つまり変身まであと一歩のところまで来てるってことか?」

「ぼくは専門家じゃないからわからないけど……何かのきっかけで化けるタイプだよ、あれは」



(このツルの鞭にも大分慣れた。一本しかないけどオレジュさんの舌の方がよっぽど避けづらいよ。となれば、そろそろ涙を流すために攻勢に出ますか……!!)

 モネードはこちらを見据えるカジュルルの目を見つめ返した。

(ドリンの伝承では、涙を流させるためには目の周辺に強い衝撃を与えなくてはならない。今のうちのパワーでそれができるか……徒手空拳では足りない、やるなら鉈で峰打ちだよね……)

 モネードは改めて鉈を握り直す。その行為と呼応するように……。

「カジュル!!」

「!!?」

 カジュルルが全身からツルの代わりに葉っぱを生やした。

「葉っぱ……伝承通りなら、あれは前兆……」

「カジュウッ!!」

「葉っぱのカッター!!」


シュッ!シュッ!シュッ!!


 射出された葉っぱは手裏剣のように高速で回転!空気を引き裂きながら、モネードに襲いかかる!しかし……。

「これも……想定内!!」

 モネードは体操選手のように地面を跳ね回った!彼女の移動した後をマーキングするように虚しく葉っぱのカッターは地面に突き刺さる。

(これもバナジュさんやリンジュさんに石や木を投げて訓練してもらっていたから、対応できる!これなら……!)

「ツルが回り込んでる!!」

「!!?」


シュッ!!


「――ッ!?」

 間一髪、またもトモルの助言のおかげでモネードは獣の狡猾な罠から逃げ出すことができた。

(首……絞められてたな、気づかなかったら。ヤバいな、ツルと葉っぱの連携は……想定してない……!!)

 モネードの額に今までとは違う種類の汗が滲んだ。



「まずいね……モネードさんがカジュルルの動きに慣れたように、カジュルルもモネードさんの動きに慣れて対応し始めている……」

「まずいどころじゃねぇだろ、それ!多分あいつ、鉈ぶん回すしか戦術ないぞ!!」

「一方のカジュルルはターヴィさん同様シンプルながら色々と応用が利く。引き出し勝負になったらモネードさんの勝ち目はないから、隙を見て短期決戦に持ち込むべきだったんだ」

「そういうのは先に言ってやれよ!!」

「余計なプレッシャーになったり、いつものフォームを崩しそうだから言えなかったんだよ!!そして今まさに、アドバイスしなかったことを凄い後悔してるよ!!」

「くそ!!じゃあ、もう準備するしかねぇか……!」

「あぁ、残念だけど……彼女の挑戦は終わりかもしれない……!」

 トモルが十字架を強く握ると、それは熱を帯びた……今すぐにでも飛び出すため、アイドリングをしているかのように。



(……トモルさんが深刻な顔をしている……まさかうちじゃ無理だって判断したの!?)

 こちらを見守るコーチの表情の機微に気づいたモネードは激しく動揺した!

 内から漏れ出る少女の僅かな変化をカジュルルもまた……見逃さない!

「カジュ!!」


ボゴッ!シュル!!


「――ッ!?しまった!?」

 地面を突き破り、ツルの突然の強襲!鉈に巻きつかれてしまった!

「カジュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

「ぐっ!?」

 そのままカジュルルをツルを持ち上げ、モネードを投げようと……。

「鉈が奪われたら勝ち目は……って言ってる場合じゃないですよね!」


パッ!


「カジュ!?」

「くっ!!」

 モネードは武器と勝利に固執していては、より事態は悪化すると判断し、あっさりと手を離し、地面に舞い戻ると、全力で距離を取った。

「カジュ……!!」


ブゥン!カランカラン……


 計画が崩れた獣だったが、それで取り乱すほど単細胞ではない。冷静にこれからの布石として、鉈を背後に投げ捨てる。

(誘ってますね……うちが鉈を取りに行こうとした瞬間を狙っている……!)

 モネードはジリジリと回り込むように横に移動したが、決して前には行かなかった、行けなかった。

(鉈を取り戻さないと戦えない……だけど取りに行ったら、奴の罠が……うちはどうすればいいんですか!?)

 絶体絶命のピンチに彼女の頭を過ったのは……。

(うちは……うちはただ故郷で今まで通り暮らしたかっただけなのに……)

 幼き日からの記憶、ドリン族の集落で積み重ねた穏やかで楽しい日々だった。

(ただそれだけなのに、うちが獣人形態になれないから……)

 情けなさで思わず目が潤み、カジュルルの姿をボヤけさせた。

(最後の希望を求めて、こうしてカジュルルに会いに来てみれば、不意を突かれてこの様……挙げ句涙目になって……これならおばば様やジエールさんの言う通り、大人しく……)


「「いいよ」」


「!!!」

 刹那、昨晩二人にかけられた予想だにしなかった意外な言葉が甦る!

(あの二人はうちを止めなかった……あの慎重で優しい二人が……!トモルさんがお守りについてくれたからっていってそんなことを言うだろうか?いや、言わない!うちに見込みがなかったら、決して了承しない!)

 涙が引っ込み、代わりに胸の奥が熱くなっていく!

(オレジュさん達もそうだ!うちのことを信じてくれたから!できると思ってくれていたから、力を貸してくれたんだ!そしてトモルさんも……昨日会ったばかりだけど、勝機がないのに送り出すような人じゃない!!)

 熱が身体中に広がっていく……。

 そしてそれに伴い、爪が!牙が伸び!全身から毛が、頭の上から耳が生え!さっきまで涙目だった瞳が人のものから獣のものに変わった!

「うちは……みんなが信じてくれたうちを信じる!!」

 しなやかな身体に斑点のある毛並み、鋭い爪と牙に、闇夜でもギラリと光る眼光……それはまさに古代にいたチーターのようだった!

「「キターッ!!」」

 トモルとアピオンが歓喜の声と両腕を上げる……それがスタートの合図だ!

「はっ!!」

「カジュ!?」

 モネード獣人態は一瞬でトップスピードに到達し、カジュルルの横をあっさりと通過、鉈を取り戻した。

「もう爪や牙があるから必要ないかもだけど、苦労して作ったから愛着があるんですよね、モネードの鉈」

「カジュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


シュルルル!!シュッ!シュッ!シュッ!


 そんなこと知ったことかとカジュルルは全身からツルを伸ばし、葉っぱを飛ばした!しかし……。

「今のうちには……止まって見える!!」

 それらを全てモネードはいとも容易く回避!

 言葉通り彼女にはカジュルルの攻撃は止まって見えた……それだけのスピード差が両者にはできてしまったのだ!

「あなたには感謝しています、カジュルル。だから……一撃で終わらせる!!」

「カジュ!?」

 再び一瞬で加速したモネードはカジュルルの顎の下に潜り込む!そして……。

「でやあぁぁっ!!」


ドゴオォォォン!!


「――カジュ!!?」

 おもいっきり蹴り上げる!

 超スピードを生み出す脚から放たれたキックの威力はそれは凄まじく、カジュルルの巨大な頭が跳ね上がった!

「カジュ……カジュ!!?」

 そして上を強制的に向かされた神聖なる獣の目に絶望的な景色を捉える。

 下から自分を蹴った獣人がすでに頭上に移動していて、鉈を振り上げていたのだ!

「はあぁぁぁぁッ!!」


ドゴオォォォン!!


「――カジュ!?」

 鉈が、正確には鉈の背がカジュルルの目頭付近に炸裂!

 そして攻撃の反動を利用し、モネードはカジュルルから離れたところに着地した。

「……ごめんなさい。一撃って言ったけど……二撃でしたね」

「カジュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


ドバアァァァァァァッ!!


 そりゃないぜと言わんばかりに、カジュルルは後ろの二本足で立ち、どこからその量が出るのかと聞きたくなるほどに大量の涙を目から天に向かって吹き出すと、雫となって雨のように降り注いだ!

「トモルさん!!涙を!!」

「わかって……ます!!」

 トモルはドラグゼオを装着!炎を使い、飛行すると、戦闘前に渡された瓶の蓋を開けた。

「ぼくからも謝ります。本当にごめんなさい。涙を回収したらすぐにいなくなりますから、もう少しだけ我慢してください」

 瓶で降り注ぐ雫を受け止め、涙を貯めていく。

 そんな桃色の竜の姿をモネードは見上げていた……今までとは違う目で。

(単純にピースプレイヤーを装着したからなのか、うちが変身できるようになって、感覚が研ぎ澄まされたからなのか……トモルさんの姿が全然別物に見える。正直女の人みたいな顔していて頼り無さそうなんて内心思ってたけど……とんでもない!この人は別格!うちの何段も先にいる人だ……!!)

 トモルの力を正確に測れるようになったモネードは、自分と彼の間にある大きな隔たりを痛感し、思わず生唾を飲み込んだ。

「モネードさん」

「………」

「モネードさん!!」

「は、はい!?」

 完全に自分の世界に入っていたモネードだったが、頭上からドラグゼオに呼びかけられ、現実に帰還した。

「な、なんでしょうか!?トモルさん!?」

「いや、もう涙は十分貯まったから……」

 蓋を閉めた瓶を揺らすと、八割ほど貯まった涙がタプンと音を立てた。

「では……」

「撤退です!全力でここから離れましょう!」

「は、はい!!」

 モネードは地面を疾走し、その横をドラグゼオは桃色の軌跡を描きながら飛行し、カジュルルから猛スピードで離れていった。

「あ、あの!?」

「何?」

「アピオンさんは!?」

「もうとっくに逃げたよ。彼ならちょっとくらい離れてもぼく達の気配を感じて合流できるから、心配しないでいいよ」

「あ、あと!」

「あと?まだ何かあるのかい?」

「あの……カジュルルの涙をゲットできて良かったですね」

 モネードはそう言って微笑みかける。

 文字通りの意味でここに来る時と顔が変わった彼女だったが、笑顔は変わらず、見た人を元気にする溌剌としたものだった。

「おかげさまでね。その姿……カッコいいよ」

 トモルもまたマスクの下で笑顔で返す。

 はじめは面倒ごとを押し付けられたと思っていたが、今は彼女の成長をこの目で見られたことが心の底から嬉しかったのである。

「ありがとうございます!これであとはトモルさんが飲んで、本当に効果があるか試すだけですね」

「もしもの時のためにトラウゴットさんと合流してからね」

「じゃあ!」

「全速力で帰宅しよう!帰るまでが成人の儀だよ!!」

「はい!!」

 全力で逃げる二人の背後には今も降り注ぐカジュルルの涙で虹がかかっていた。


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