表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
No Name's Trust  作者: 大道福丸
禁忌の魔石と不死殺しの炎
61/100

炎の剣を求めて③

 怒りを必死に抑え込みながらカヨコは胸元からペンダントを取り出し、それをギュッと握りしめた。そして……。

「起きなさい、『ブランジェント・カヨコカスタム』……!」

 真の名前を呼ぶ!

 ペンダントは彼女の闘志に応え、光の粒子に分解からの真っ赤な機械鎧に再構築、全身に装着されていった。

 高級なワインのように深い赤色、なまめかしい丸みを帯びたボディー、カヨコカスタムは深紅の美獣の異名に相応しい美しいピースプレイヤーであった。

「……マシンの方は確かに美しいわね」

「マシン“も”でしょ」

「あなた、鏡を見たらいけない宗教に入ってるの?」

「どこまでも……!」

 相変わらず口はカヨコの自尊心を傷つけるためにフル稼働していたが、それ以上の速度でメルヤミの眼球と脳みそは動いていた……カヨコカスタムとやらの能力を少しでも把握するために。

(色だけじゃなく形もかなりブランジェントから弄ってあるわね。これなら足裏も……って、そんなことをしたら個人を特定されやすくなって大変か。あくまでデザイン重視しただけのはったりマシンだといいんだけど……)

 メルヤミの視線がカヨコカスタムの両腕で止まる。ぐるりと円形の筒が並ぶ特徴的な形をしていた。

(手首付近がガトリング砲みたいになっている。見た目通り、あそこから弾丸を発射するのかしら?それとも細い刃が飛び出る打突武器?さすがにただのおしゃれってわけないわよね)

「……そんなに気になる?これ」

 メルヤミの視線に気づいたカヨコはこれ見よがしに両手を上げ、おどけたようにくるくると手首を回してみせた。

「いや、なんかそこだけダサいなって」

「どこがよ!……って、言いたいところだけど、そこはまぁ認めるわ。この部分だけは多少他より浮いても仕方ないと思いながら実用性重視でこうしたから」

(やっぱり……)

 予想が当たって嬉しいような、面倒なことになったと残念なような、ピンクのマスクの下でメルヤミは複雑な表情を浮かべた。

「完全にこれに夢中みたいね」

「ええ……これから壊すと思うと、忍びないわ」

「フッ、それは……無理な話ってなもんよ!!」

 カヨコカスタムは両腕を、その周りに装備された筒をトゥレイターに向けた!そして……。

「穴だらけになりなさい!!」


バババババババババババババッ!!


 一斉発射!筒はチカチカと光りながら、無数の弾丸を撃ち出した!

「ビンゴ……やはり遠距離武器……!」

 しかし、それを予想していたメルヤミは眉一つ動かさずに冷静に対処、回避運動を取る。

「初撃をここまであっさり避けるなんて、大した観察眼と反応速度ね」

「美獣様に、お褒めいただき光栄至極。でも、そんな余裕ぶっていていいのかしら!」

 トゥレイターもガンドラグRを召喚!もちろん……。


バン!バン!バァン!!


 躊躇うことなく発砲!けれど……。

「あくびが出るわね」

 あなたにできることは自分にもできるのよと誇示するかのようにカヨコカスタムもあっさりと回避。弾丸は深紅のボディーの横を通り過ぎていった。

「機動力も上々……」

「アタクシも中々速いでしょ?」

「そうね……でも、驚くほどのものではない!」

「その言葉そっくりそのまま返すわよ!!」


チッ!チッ!!


「「――ッ!?」」

 両者ほぼ同時に被弾。僅かに装甲にかすっただけだが、確かに弾丸はそれぞれの身体を捉えた!

(たった一回見ただけで、ここまで修正してくるとは……!)

(口だけじゃないようね……お嬢様……!!)

 その後は同じような撃ち合いが続いた。

 掠りはするが、致命的なダメージを与えることができないストレスの溜まる展開が延々と……。

 そんなことを人間がいつまでも続けていられるわけもなく、状況を打破しようと動き出す……我らがメルヤミお嬢様が。

(このままじゃ埒が明かないわね……この程度のダメージならば、トゥレイターの装甲でもそれなりに耐えられるはず。強引に接近戦に持ち込む!!)

 方向転換!桃色の機械鎧は地面を蹴り出し、猛スピードで深紅のマシンに突っ込んでいく!

「自棄になったの?」

「そう思うなら……思ってなさい!!」


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


(よし!)

 予測通りトゥレイターの装甲は弾丸を弾い……。


ガリッ!


「……え?」

 いや、装甲を抉り取った!

 横目で舞い散る桃色の破片を目にし、勝ち誇ったような笑みを浮かべていたメルヤミの顔が一気に曇る。

「何で……!?」

「わかる必要はないわよ!お嬢様!!」


バババババババババババババッ!!


「くっ!?」

 トゥレイター全速後退!せっかく縮めた距離は一瞬で無意味に消えた!

(どういうこと!?確かに銃弾は防げていたはず……なのになぜ……?)

 メルヤミは目を凝らして、今も明滅しながらこちらに弾丸をばら撒いてくる砲口を観察した。

(よく見ると……全部が同じ形じゃない!あれは連射性重視のものと威力重視のものが混在しているのね!)

 メルヤミが気づいた通りカヨコカスタムの腕周りについた砲身は形状が僅かに違っており、用途も別のものだった。だが、今彼女が行ったように、かなり集中して観察しなければ違いがわからない、誤認するように似せてあるので、これだけでお嬢様を間抜け呼ばわりするのは酷というものだろう。

(最初は破壊力のある方を使わず油断させて……なんてセコい!けれど、それにまんまと引っかかったあたしは……!)

 メルヤミは悔しさからマスクの下で下唇を噛んだ。

(あの様子……感付いたわね)

 その感情は桃色の装甲では隠し切れなかったようで、カヨコに気づかれたことを気づかれてしまった。

(でも、だからどうしたっていうの!タネがバレてもどうにもできないから、深紅の美獣なのよ!!)


バババババババババババババッ!!


 弾丸の暴風雨が吹き荒れる!ターゲットとなったトゥレイターはただ黙って回避に専念する。

「さっきまでの饒舌はどこに行ったの?ずいぶん大人しくなっちゃって!」

「………」

「仕方ないわよね!咄嗟に弾丸の種類を見分けることなんて不可能だもの!だから全部避けるしかない!疲れ果てて、いずれは餌食になることがわかっていてもそうすることしかあなたにはできない!」

「そうね」

「あら、負けを認めるの?」

 カヨコの問いかけにメルヤミは……笑った。

「避けるしかできないのは認めるわ……けど、勝敗は……まだわからない!!」


ビシュ!!ガァン!!シュルル!!


「――なっ!?」

 ガンドラグRからワイヤーを射出!天井に撃ち込み、すぐさま巻き上げた!

 トゥレイターは勢いよく宙へと移動し、カヨコカスタムの弾丸は虚しく虚空に炸裂する!

「避けることしかできない……でも、避け方によってはあなたを倒せる!!」

 反動をつけてからワイヤー分離!カヨコカスタムの下に文字通り上方から飛びかかる!そして……。

「ブレード展開!!」


ザンッ!!


 銃の上部から剣を生やし、渾身の斬撃一閃!

「――ッ!?」

 不意を突かれたカヨコカスタムだったがかろうじてトゥレイターの太刀を避ける……ことは、やっぱりできずに、真っ赤な装甲に深い傷を刻みつけられた。

「そこからブレード出るの!?」

「そうよ……変わってるわよね!!」


ヒュン!チッ!ヒュン!ヒュン!チッ!!


 攻守交代!トゥレイターが今までの鬱憤を晴らすかのように一気呵成に攻め立てる!受けるカヨコカスタムは為す術無しか……いや!

「このアタクシが!接近戦に対応できないようなマシンを使うと思うて!!」

 真っ赤なマシンの両手に銀色に輝く三又の武器、釵が握られた!

「そっちも変わっているわね……漫画や映画の中でしか見たことないわよ、そんな武器」

「漫画や映画以外で武器を見る状況にいることに疑問を持ちなさいな!!」

「それは……全くその通り!!」


ヒュン!チッ!ヒュン!ヒュン!チッ!!


「くっ!?」

「ちいっ!?」

 まさに一進一退……トゥレイターの刃とカヨコカスタムの釵は時に空を切り、時にお互いの装甲を削り取った。

 この攻防がしばらく続くかに思われた……その時!


ガキィン!!


「――ッ!?」

「捕まえた……!」

 釵が刃を捕らえた!これこそがカヨコ・レンストランドの狙い!

「だから釵なのよ……これであなたの自慢のへんてこ武器は失われた!!」

 深紅の美獣は手首を返し、そのままガンドラグRを絡め取ろうとする!

(まずい!?ガンドラグが奪われたら、あたしは……!)

 メルヤミの脳裏に“敗北”の二文字が浮かび、背筋が凍った。その未来が実現しないように必死に力を込め、グリップを握りしめる!

「力を入れたところで無駄ぁ!!」

「くっ!!?」


ペキン……


「「へ?」」

 刃が折れた間抜けな音が、遺跡中に響き渡る。その少し後に……。

「折れたあぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 女性の叫び声がこだまする!刃を折られたメルヤミではない、折ったカヨコの声が!

 この瞬間、勝負は決した。

「まさか刃の脆さに助けられるとはね……」

 メルヤミはマスクの下で苦笑いを浮かべながら、ガンドラグRのグリップから新たなブレードを展開。そして……。

「天は我に味方した。エクススラッシュ!!」


ザザンッ!!


「――がっ!?」

 間髪入れずに必殺技を放つ!

 深紅の美獣にXが刻まれると、彼女はそのまま力なく倒れた。

「ギリギリだったけど……またなるようになったわね」

 トゥレイターはブレードを収納すると、愛銃をくるくる回して、勝利の余韻に酔いしれた。

「ま、まだよ……!」

 けれどもカヨコの方はまだ終わっていないと思っているようで、少し動くだけで激痛が走る身体にむち打ち、立ち上がった。

「エクススラッシュを受けて、立ち上がるとは……思ったよりタフね」

「タフでなきゃ女なんてやってられないでしょうが……!」

「それはそう」

「わかったなら、続けましょう……!どちらかが息絶えるまで……!」

「それはパス」

「そうこなく……え?」

 きょとんとするカヨコを尻目にトゥレイターはくるりとターンし、そのまま入って来たこの部屋の入口まで歩き出してしまった。

「え?パス?」

「そうよ。これ以上はあたしはパス」

「いや、でもあなたはこの奥にあるアピディウスを手に入れるために来たんじゃ……」

「このまま続けたらきっとアピディウスを手に入れても下山できないほど消耗してしまうわ。そうなったら元も子もない。だから、アピディウスはあなたに譲るわ。あたしにお金じゃ買えない経験をさせてくれたお礼よ」

「メルヤミ……」

「あなたのおかげで、あたしはまた少し成長できた……この旅の収穫はそれで十分。もしそのお礼がアピディウスじゃ貰い過ぎだと思うんなら、次にもし会う機会があったのなら、その時にでも返してちょうだい……深紅の美獣さん」

 カヨコの方を振り返りもせずに手を振ると、そのままトゥレイターは、メルヤミ・ウレウディオスは部屋から消えていった。

「……下らない嫉妬に狂っていたアタクシが本当にバカみたいじゃない……親の威光にすがる箱入り娘じゃない……あなたは器のデカい立派な一人の戦士よ、メルヤミ・ウレウディオス」

 そう呟くとカヨコもターンし、最初に彼女が立ち尽くしていた扉の前へ。

「……と言っても、この扉の暗号がどうしても解けなく……」


ギイッ……


「え?」

 カヨコカスタムが軽く触れると、扉は何の抵抗もなく簡単に開いた。

「これって……もしかしてメルヤミとの戦いの衝撃で、鍵が開いたのかしら?」

 首をかしげながら中へ。台座に置かれた箱が目に入った。

「あれね……!あの箱の中にアピディウスが……!」

 カヨコは思わず息を飲み、緊張で震えそうになるのを必死に抑えて、箱に手をかけた。


ギイッ……


 箱もこれまた簡単に開いた。中にはもちろん……。

「さぁ、アピディウスちゃん!念願のご対面……よ?なにこれ?」

 中にはアピディウスと見られる剣はどこにも見当たらなかった。代わりに何やら文字のかかれた紙が一枚……。

 カヨコはそれを手に取り、読んでみた。

「えーと……“アピディウスはいただいていきます。メルヤミの従者より”……!!」

 瞬間、メルヤミと対面した時のことが鮮明に脳裏に甦る!

 あの時、確かに彼女の横にもう一人いた!しかし、好戦的なお嬢様の相手をしている間にいなくなっていたことに漸く、本当に漸くカヨコは気づいた!

 自分は嵌められたのだと……。

「あのくそアマがあぁぁぁぁぁッ!!!」



「ん?」

 すでに遺跡の外に出ていたメルヤミはふと遺跡を振り返った。

「どうされましたか?」

「いえ……負け犬の遠吠えが聞こえた気がして……!」

 メルヤミはまるでイタズラが成功した子供のように最高に意地悪そうな顔で微笑んだ。

「よくわかりませんが、お嬢様が楽しそうで何よりです」

「それもこれもあなたのおかげよ。自称深紅の美獣様の後ろでOKサインを出すヴァルターリアを見た瞬間、思わず吹き出しそうになったわ」

「何をおっしゃいますか、全てはお嬢様の作戦通り。わたくしから注意を逸らすために、売り言葉に買い言葉で下品極まる嫌味ったらしい舌戦を繰り広げていたのでしょ?」

「………作戦?」

「え?」

「え?」

「「え?」」

 二人はお互いの顔を見合わせた。

「と、とにかくアピディウスを手に入れられて良かったですね!」

「そ、そうね!ちょっと見せてちょうだい!」

 何かやましいことを誤魔化すように、メルヤミは慌ててゾーイからアピディウスを受け取った。

 それは装飾こそ施されていたが、普通の剣にしか見えなかった。

「こうして手に入れることはできましたが、アーティファクトというものは特級ピースプレイヤーや一部のコアストーンのように使用者を選びます。誰かが使えればいいのですけど、下手したら……」


ボオッ!!


「!!?」

 アピディウスの銀色の刃が桃色の炎に包まれた!それを持っているのは当然、我らがメルヤミお嬢様だ!

「使用者の問題はこれで解決ね」

「ええ……さすがです、お嬢様……!」

「そうなの、あたしってさすがなのよ」

 そう言ってメルヤミはゾーイに向かって、また純粋無垢な子供のように無邪気に笑いかけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ