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No Name's Trust  作者: 大道福丸
禁忌の魔石と不死殺しの炎
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守り人

「くっ!?」

「なんなんだこいつは……!?」

 突如現れた古代の戦士のプレッシャーに気圧され、団員達は動揺を隠せずにいた。そんな彼らを……。

「バカが!寝起きの老いぼれになんてびびってんじゃねぇ!!」

「「「!!?」」」

「オレ達は泣く子が更に泣いて、小便を漏らす恐怖のテュシア盗賊団だろうが!!怖がらせることはあっても、怖がることなんてあっちゃいけねぇ!!」

 ナベシマの一喝!発破をかけられた団員達の顔から恐れや迷いが消えていく。

「ナベシマさん……!」

「そうだ……!!」

「おれ達は天下のテュシア盗賊団だ!!」

 そして代わりに闘志が迸る!

 団員達は首に手にかけていたタグやネックレス、手につけたブレスレットに指輪、または懐からバッジやデバイスを取り出し、それぞれ顔の前に翳した。

「イクストラル!!」

「エグアーレ!!」

「ガナドール・エスパーダ!!」

「玲剣!!」

「キュラビット!!」

「ビルドーザー!!」

 団員達が光に包まれ、それが収まると様々な形の機械鎧が出現した。このピースプレイヤー軍団こそテュシア盗賊団の成果そのものだ。

「鎧型のセールアルムか。デザインも色もバラバラ……こういう場合は多国籍の連合軍か、はたまた博覧会でも開くつもりなのか、それとも……」

「盗人集団が色んなところから拝借したものを我が物顔で使用している……か?」

「やはりそれか」

「当然、それだ!やれ、お前ら!!いつも通り身ぐるみ剥いでやれ!!」

「「「へい!!」」」

 ナベシマの号令に呼応し、団員達は散開……イクストラル以外は。

 イクストラルだけはどっしりと腰を落とし、長大なライフルを召喚、オルコに向けて構えた。

「もう二度と……起きられないようにしてやんよ!!」


バァン!!


 躊躇なくトリガーを引き、オルコに弾丸を発射する!大気を切り裂き、そのまま古代人の身体を貫い……。

「ふむ」


バシュ!!


「――なっ!?」

「どうやらそれは無理そうだな」

 弾丸はオルコを貫けず。

 杖に付いている石の一つが輝くと、彼の身体を中心に力場が発生、それによって銃弾はあっさりと弾かれてしまった。

「本体のスペックはともかくイクストラルは銃火器に定評のあるスマイス・ファイアーアームズ製……それをあぁも簡単に防ぐとは。お前にもできるか、殷則?」

「できるかと言われたらできるが……まぁ、わたし並みのストーンソーサラーというわけだな」

「じゃあ、その一流のソーサラー様を攻略するにはどうすればいい?」

「セオリー通りなら……」

「杖だ!杖が、コアストーンがなければ、こいつはただの長生きのジジイだ!!」

「正解」

 殷則の意図を汲んだように玲剣とキュラビットが杖に向かって飛びかかる。

「今も昔も変わらんな」


ビタッ!!


「「!!?」」

 けれども両者とも空中で静止する……あろうことか宙に浮いたまま動きを止めたのだ!

「な、何が!?」

「まるで巨大な手に掴まれているように……動けない!!?」

 なんとかその状態から抜け出そうと、身体をジタバタと動かすが、決してその場から揺るがず。足が地面に着くこともなかった。

「エネルノビル相手に力の根源である魔石を狙うのは定石。我が警戒してないと思ったか?」

「ぐっ!?」

「偉そうに!!」

「貴様らに言ったのではない……こそこそと背後から忍び寄っている貴様に言ったんだ」


ガシッ!!ガァン!!


「――がはっ!!?」

 息を潜め、オルコの後ろを取っていたが、エグアーレが勢い良く逆方向に吹っ飛び、壁に叩きつけられた。

「エグアーレは隠密諜報用のマシンではないが、楽器メーカーでもある『HIDAKA』製、そのせいかかなり静かで気付き辛いはずなんだかな」

「才能か経験則か……いずれにしても、不意打ちは難しそうだ」

「かといって正面からも厳しい。三体のピースプレイヤーを止めるだけの念動力……二体は戦闘用、キュラビットも国際レスキューに採用されている救助用のマシンとされているが、救助活動中のオリジンズの襲撃を想定して、開発されているから遜色ないはずだ」

「それを……」

「目障りだ……消えろ」


ブゥン!!ガァン!ガァン!ガァン!!


「「「――ッ!?」」」

 三体まとめてフワリと浮いたかと思いきや、一気に地面に頭から落下!まさに急転直下!もちろん意識などあっという間にどこかに飛んでいってしまった。

「有象無象など我の相手ではない。わかったら退け、黄色いの」

 オルコの視線はビルドーザーに。

 彼の気遣い……ではなく嫌悪感に溢れた言葉を受け、黄色の重装甲マシンはゆっくりと歩き出し、古代の魔術師に近づいていく。

「愚かな。そんなに仲間達と同じ目に合いたいのか!!」


ガシッ!!


 杖の石がオルコの意思を糧に見えない巨大な手を生み出す!それがビルドーザーの動きを……。

「他の奴らと……一緒にするなぁぁぁっ!!」

 ビルドーザーの歩みは止まらなかった。

 念動力を力任せに振りほどき、オルコを真っ直ぐ見据え、歩みを進める。

「『ミモリ』製、建築工事用のピースプレイヤー、ビルドーザー。機動力もなければ遠距離から攻撃できる武装もないが、頑丈さとパワーに関しては、生半可な戦闘用マシンじゃ太刀打ちできないほどだ」

「あのレベルの念動力では不意を突いてもどうにもできんだろう。だとしたらもう一つの……」

「さぁ……逆に地面に叩きつけられて、口から内臓を出す覚悟はできたか?」

 重機を思わせるたくましいマシンに守られ調子に乗っているからか、元の性分鈍らせなのか、盗賊団員は強気に挑発などして見せた……が。

「覚悟が必要なのはお前の方だろうが」

 オルコは涼しい顔で受け流し、逆に煽り返す。

「まだそんな減らず口を……」

「相手の力量も測れないとは……こんな奴が偉そうにしている時点で、この時代のレベルの低さが伺い知れるな」

「そこまで言うなら……その身を持って味わえ!!この時代の!テュシア盗賊団の力……」

 しょうもない挑発で速攻で頭に血が昇ったビルドーザーは怒りに任せて、攻撃に転じようとするが……。


ビシュッ!!


「……を?……え?」

 敵の杖に付いているもう一つの石が輝いたと思ったら、何かがこちらに飛んで来る。

 ジワリと腹部に生温かい感触を感じ、それが穴を開けられ、漏れ出た自らの血液だと理解すると、ビルドーザーの黄色いマスクの下で盗賊団員は白目を剥いて倒れた。

「そんな……みんなやられっちまったのか……!?」

「そうとしか見えないだろうに。他に見方があるなら教えて欲しいな」

「ひっ!?」

 オルコが仲間を無残にやられ、取り乱すイクストラルに視線を向けると、不様にもガタガタと震え出した。

「貴様は力の差を理解できるようだな。ならばとっとと偉そうにふん反り返っているご主人様に降伏を勧めろ」

「い、殷則様、ナベシマ様……あぁ言ってますけど……?」

 イクストラルが振り返り、上司二人に助けを求めると、彼らはニッコリと笑顔で返した。

「あぁ言ってますけど、どうしましょうか、殷則様?」

「決まってるだろ……臆病者はテュシア盗賊団には要らん……!」

「待って!そうじゃないんです!自分はただ……!!」


ドゴッ!


「――がっ!?殷則様!お許しを!!」

 殷則の胸元が光ると、弁明するイクストラルの足下から土を固めた柱が生え、そのまま天に向かって伸びる。そして……。


ベチャ!!


 イクストラルを天井と挟み込み、押し潰した。

 恐怖と絶望の中、哀れな盗賊団員は天井の真っ赤な染みとなり、真紅の雨を降らした。

「仲間をそうも簡単に……!」

 オルコはあからさまに不快感を表情に出した。

 対して殷則はどこ吹く風かと、部下を殺しても眉一つ動かさない。

「仲間?こいつらはそんなんじゃないさ。危険な任務だから、腕っぷしは強いが、素行に問題のある切り捨てても惜しくない人間を選抜し、連れて来た。だから何も問題ない」

「だとしても共に旅をしてここまで来れば、愛着の一つでも湧くものだろうに」

「湧かないね。駒は駒以上でも以下でもない」

 悪びれもしないでそう言い放つ殷則の姿を見て、オルコは杖を握る手の力を強めた。

「フッ、不愉快か?人でなし、クズなどと口汚く責めるか?」

「無駄なことは我はしない……その言葉に心傷つけるだけの人間性があったなら、今のようなことはせんだろう……!」

「違いねぇ!人でなしでクズじゃなきゃ盗賊なんてやるわけねぇもんな!」

 ナベシマは極上のジョークを聞いたように、上機嫌に笑い、さらにオルコの現代人の印象を悪くした。

「こいつ面白いな。オレと『ヌディゴ』がやる……!」

「いや、ストーンソーサラーには、ストーンソーサラー……ここはわたしが出よう」

 大男を制止し、細身のパッと見弱々しく見える男が前に出る。ナベシマは呆れたように肩を竦めた。

「我が儘だね~」

「念願のエレシュキガルを手に入れて、わたしも柄にもなく高揚しているんだ」

「いつエレシュキガルを手に入れたって?盗人風情が勘違いも甚だしいぞ……!」

「勘違いかしてるのはどちらか、すぐにわかるさ……古代の水使いよ」

「貴様……」

「ビルドーザーの分厚い装甲を貫くほどの高圧水流を放つとは、いやはやお見それしたよ。だが……わたしの方が上だ」

 再び殷則の胸元が光ると、彼の周囲の地面から泥が溢れ出し、それが人の形へと成形されていった。

 瞬く間に現代の魔術師の周りに新たな泥の軍団が出現する。

「不肖この殷則、かの骸獣の末裔のリーダー、ネクロマンサー『ルッジェーロ・ミラーニ』に並ぶストーンソーサラーだと自負している」

「知らん奴を例に上げられても……反応に困るわ……!!」

 オルコもまた杖を輝かせ、自らの周りにハンドボール大の水球を無数に出現させた。

「数には数か……けれども我が人形の操演技術は先ほど言ったネクロマンサー、ルッジェーロ・ミラーニ並み、人形自身のクオリティは同じく骸獣の末裔である恐怖のクリエイター『ウラリー・バロー』並みぞ」

「だから……誰だよ、それは!!現代人!!」

「わからないまま土に還れ!古代人!!」

 オルコは杖を、殷則は手を振り、攻撃を繰り出そうとする!その瞬間!


ジュウッ……!カサッ……!


「「!!?」」

 突然、水球が僅かに蒸発し、小さくなり、泥人形の表面は渇き、鱗のように剥がれ落ちた。

「これは……!」

「気温が急激に上昇した……!?」

 影響は本体にも。古代と現代の二人の魔術師の額に玉のような汗が滲み出た。

 そしてそれと同時に二人はこの部屋の出入口から得体の知れない気配を感じ取り、そちらに目線を向ける。

 すると、部屋の中に色とりどりのピースプレイヤーを引き連れ、桃色の炎を全身から噴き出したこれまた桃色をした人型の竜が両者の前に姿を現した。

「水と泥……炎の敵ではないですね」


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