灼熱の終わり
「これは……!」
身に着けた古代の遺物から、トモルの頭にそれらを作り出した者達の記憶と想いが流れ込んだ。
「そうか……そういうことだったんですね……!」
時代を超えて託された想いが更にトモルの心を熱くし、ドラグゼオに力を漲らせる。
(理解してくれたか、我らが願い……!)
「……はい!」
(ならば高らかに名乗るといい!)
(魔王を倒すために時代を超え、誕生した勇者の名を!)
(ドラグゼオ・エンシェントブレイブと!!)
「……それは結構です」
古代人の渾身のネーミングセンスは熱くなっていたトモルの頭をほんの少しだけ冷ました。
「何をごちゃごちゃと抜かしているんだ!!」
「!?」
「これ以上頭がおかしくなる前に、この世界から消えろ!!」
ボオォォォォォォォォォォォッ!!
自身の灼熱の炎をかき消した謎の力と、急に独りぶつぶつとしゃべり出した桃色の炎竜を気味悪がって、静観していたタリク・ウシャマールだったが、ついに我慢の限界が来たようで、再び炎を放射した!
ドラグゼオは即座に反応して、回避……はせずに、その場で身構える。
「こんな時は盾……じゃなくて、剣ですね!」
(あぁ!俺の鍛えた剣を使え!!)
「はい!」
ドラグゼオはハーヤの剣を振りかぶると……。
「でやぁッ!!」
炎に向かって撃ち下ろした!
ザンッ!!
「なんだと!?」
剣は炎を真っ二つに切り裂いた!いや、それだけでなく……。
シュウゥゥゥゥゥゥゥ……
「俺の炎を……吸い込んでいる……!?」
ハーヤの剣は斬った炎を刀身から吸収した。そしてその炎はエネルギーに変換され、トモルとドラグゼオの下に届けられる。
「ふぅ……大分楽になってきた……」
(この剣は奴の炎だけでなく、見えない攻撃も切断し、お前の力に変えることができる。この調子で奴の力を削り取りながら、回復するんだ)
「わかりました……と言いたいところですけど、さすがにそう甘くはいかないみたいですね」
ドラグゼオの緑色の二つの眼が捉えたのは、今まで見た中で一番のスピードで飛んで後退するタリクの姿であった。
(あの剣は俺の炎に対抗できるのか!?ウシャマール獄炎もあれに……ならば今はまず距離を取って、隙を見て奴の背後に……!)
「逃げ惑うのは、ぼく達家畜の行為じゃなかったんですか?」
「!!?」
一瞬で視界が桃色に支配される。ドラグゼオが文字通り瞬く間にタリクの眼前にまで接近したのだ!
「いつの間に!?」
「残念ですけど、もう速さ勝負ではあなたに勝ち目はありませんよ。このリーヨのマントを纏ったぼくの敵じゃない」
「ふざけるなぁ!!」
トモルの言葉はタリクの逆鱗に触れた。持てる力の全てを注ぎ、傲慢な古代人は空中を猛スピードでジグザグと飛行した!しかし……。
「だから無駄って言っているでしょうが」
「――ッ!?」
ドラグゼオはマントをはためかせながら、ぴったりと付いてくる!まるで先ほどの追いかけっこの意趣返しのように、しつこく、淡々と。
「この!!」
「どれだけスピードを上げても、どれだけ鋭く曲がろうとも、付いていきますよ。そのためのマントなんですから」
(そうだ!オレの作ったこのマントはタリクを逃がさないために、全ての点で奴の飛行能力を上回っている!)
「あなたはここで仕留めさせてもらう!」
「このぉ!!」
タリクは苦し紛れに拳を繰り出す!
「遅い!」
けれどそんな破れかぶれの攻撃など、あっさりとドラグゼオに躱されてしまう。
「お前……」
だが、攻撃を回避されたというのにタリクの胸の中には安堵の気持ちが広がっていた。だけど……。
「もしかして盾は飾り……とか、思ってないでしょうね?」
「――うっ!?」
完全に心を見透かされていて、安堵は恐怖へと塗り替えられた。
「この盾は身を守るためのものじゃない!」
「だったらなんだと言うんだ!?」
「こう使うんです!!」
ドラグゼオは盾をタリクに向け、意識を集中すると……。
カッ!!
「――うっ!?」
盾は強烈な光を放った!それだけだった。
「懲りもせずに目眩ましか……脅かしやがって!!」
「驚くのはこれからですよ!!」
ドラグゼオは剣を横から薙ぎ払うように振るう!
「ふん!そんな斬撃など!!」
タリクはいつも通り身体を粒子状に分解して回避を試み……。
「……えっ?」
ザンッ!!
「…………ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!?」
痛みに悶え苦しむ男の声が響き渡った!剣は回避されることなく、タリクの身体を切り裂いたのだ!
「分裂することができない!?なぜ……!?」
「さっきの盾の光ですよ」
「――!!?」
(おれの作った盾が放つ光は奴の身体を細かく分ける能力を一時的に封じることができる。あの力さえなければ……)
「これで漸く普通に攻撃ができる!!」
ザンッ!ザンッ!ザンッ!!
「ギャアァァァァァァァァッ!!?」
縦に横に斜めに!桃色の炎竜は古代から受け継いだ剣でタリクを滅多切りにした!炎で焼かれ、ボロボロの身体に更に傷を刻まれ、みっともなくタリクは悲鳴を上げる!
「痛いですか?痛いですよね?痛くなるようにやっているんですから!!」
ザンッ!!
「――ぐっ!?この!!」
心までいたぶるようなサディスティックなトモルの言葉。その言葉が恐怖と混乱で支配され一方的に嬲られていたタリクのプライドを震い立たせ、反撃に転じさせた!
「調子に乗るなよ!!」
ボオォォォォォォォォォォォッ!!
「うおっと」
全身から真紅の炎を吹き出されては、さすがに後退するほかなかった……一瞬だけだが!
「取り込め!ハーヤの剣!!」
「しまった!?」
炎はあっという間に剣に吸収されると、再びドラグゼオのターンが回ってくる!
「はあぁぁぁッ!!」
ザンッ!!
「――ッ!?」
また斬られるタリク。しかし今回は……。
「炎が……効かないならば!!」
ガァン!!
「――ぐあっ!?」
カウンターのパンチ炸裂!遠距離攻撃は諦めて肉弾戦に切り替えたのだ!
「もはや形振り構わずって感じですね……!」
「どんな形でもいい!今の俺はお前に勝てれば何でもいい!!」
「ぼくはずっと前から同じことを思ってましたよ!!」
ガンザンガンザン!ガァン!!ザンッ!!
タリクが拳で殴ると、ドラグゼオがお返しにと斬る!ドラグゼオが斬ると、タリクが殴り返す!それをひたすらに繰り返す!
手を変え、品を変え、行くとこまで行った二人の戦いは正面からの原始的なぶつかり合いに終着した。
「俺の能力に対抗できる都合のいい武器を手に入れたからって、調子に乗るなよ!!」
「都合のいいだと……!?そんな言葉でこの武器を語るな!!」
ブゥン!ザンッ!!
「ぐあっ!?」
タリクのパンチを掻い潜りながら、文字通りカウンター一閃!横一文字に切り裂いた!
「この武器はお前を封印しかできなかった者達が悔やんで、次こそは確実に倒すために人生を懸けて作ったものなんだぞ!!」
「くっ!?なんと執念深い……!!」
「それだけのことをお前はしたんだ!武器から流れ込む記憶をぼくは見た!お前が泣き叫ぶ人達を引き裂き、焼き殺し、笑っている姿を!!」
ザンッ!!
「ぐうぅ……!か、家畜どもを嬲って何が悪い!弱肉強食こそこの世界の絶対の真理!それは俺のいた時代も、今お前が生きる時代も変わらないだろうが!」
「……ですね」
「なら!!」
「だからぼくに倒されても文句は言わないでくださいよ!!」
ザンッ!!
「がっ!?……お前が……お前ごときがこのタリク・ウシャマールより上だと言うのか!!」
「そうです!あなたを超える人間を見つけるためにあんなまどろっこしいところに封印の鍵であり、対抗手段である神器を隠し、強力な兵器で守っていたんです!全てはそれらを乗り越え、封印を解いた後、あなたを倒してくれる勇者を選ぶ試験だったんですよ!!」
ザンッ!!
「――がぁッ!?」
切り上げられ、タリクは思わずたじろぎ、後退する!距離ができると見るとドラグゼオは剣を逆手に持ち変えた!
「時代を超えて、託された想いにぼくは応える……!いや、そうでなくとも……お前のように力を振るい、他人を見下し、罵ることでしか、自尊心を満たせないようなクズにぼくの時代を好き勝手させるつもりはない!!」
「――ッ!?」
リーヨのマントで急加速しながら、ベケの盾の光を照射!すれ違い様にハーヤの剣を二回振り抜いた!
「エンシェントエクススラッシュ!!」
ザザンッ!!
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
タリクの身体についにXが深々と刻まれると、痛みと衝撃で高度を維持できなくなり、自分を絶対者として他者を上から見下し続けた男は無様に岩盤に墜落した。
「つうぅ……!?くそが!!家畜ごときがあぁぁぁッ!!」
しかし、肉体こそ落ちるところまで落ちたが、タリクの高すぎるプライドは変わらず。その醜悪な魂は怒りと悔しさでますます熱を帯び、彼を奮い立たせる。
「人のことを言えない……あなたも十分執念深いですよ」
ドラグゼオもまた岩盤にゆっくりと着陸する。今度こそ全てを終わらせるために……。
「今のはかなり痛かったぞ……!」
「それは良かった。とても嬉しいです」
「こいつ!?だが、この程度では何度やっても俺は倒せん!!」
「倒すつもりないですよ、この武器を使ってはね」
「……何?」
「確かに古代の人々の想いには共感しますし、この三つの武器も強力無比です。けれど!ここはぼくの時代です!決着はぼくの力でつけます!!」
ジュウゥゥゥゥゥゥゥッ!!
ドラグゼオの身体から蒸気が立ち昇った。竜の身体の中で灼熱が渦巻いている証拠だ。
「それは……!また!?」
「ええ……あなたの炎を吸収させてもらったおかげで、またもう一発撃てるように……なりました!!」
ドラグゼオは再び身体を丸めた!炎を内部で更に凝縮し、溜めているのだ!今度こそ邪悪なる者を燃やし尽くすために!
「この!家畜が!!」
「家畜じゃない。ぼくの名前はトモル・ラブザ、そしてこのマシンの名前はドラグゼオです」
「急に何を!?」
「自分を殺す相手の姿と名前くらいは覚えていたいでしょ?ぼくからの慈悲です」
先ほどタリクに言われた嫌味をそっくりそのまま返してやる。もちろんそんな舐めた真似をされては、絶対者気取りの老いぼれの怒りのマグマは噴火するしかない!
「ふざけやがってぇぇぇぇぇぇっ!!」
傷だらけの身体を気遣うことなく、タリクは全身から真紅の炎を噴き出す!しかし……。
「ぼくは大真面目ですよ!!」
臆することなくドラグゼオは両手を広げ、溜めに溜めた桃色の炎を解放する!もちろんこの時のために考えた最強の必殺技の名前を叫びながら!
「ドラゴニック・ブレイズパニッシュメント!!!」
ボシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
「――ッ!?」
ドラグゼオを中心に桃色の炎がドーム状に広がり、周辺一帯を飲み込んだ!
「こんな!こんな生ぬるい炎でぇぇぇッ!!」
タリクは全身から噴き出していた真紅の炎で桃色の炎を押し戻し、かろうじて耐えていた。しかし、それもほんの一時のこと……。
ボオォォォォォォォォォォォッ!!
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?俺の炎が飲み込まれる!?」
真紅の炎をかき消し、桃色の炎が強烈な熱と光と共にタリクの肉体を焼いていく!
「せっかく甦ったというのに!!こんなところで!こんな奴に!このタリク・ウシャマールがあぁぁぁッ!!?」
桃色の炎はタリクの身体を先端から順に消し炭に変えていき、ついには彼の存在した痕跡の全てをこの世から焼却、抹消した……。




