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No Name's Trust  作者: 大道福丸
本編
42/100

灼熱の戦場へ①

「……ん?あそこから入れるんじゃねぇか?」

 タリクの足取りを探し、ムーサ火山周辺を探索していた一行だったが、アピオンが麓にある大きな穴を見つけてくれた。

「ここからなら地下のマグマ溜まりに行けそうだが……アピオン、君の感じていた気配は?」

「うん……この奥から感じる」

「決まりだな。このサイズならヒガンマジロでも通れそうだし……よし!」

 トラウゴットはヒガンマジロを歪な人型形態に変形させた。

「体力温存のため、行けるところまでヒガンマジロで運ぶ。適当に掴まってくれ」

「あいよ」「了解した」「はい」

 漆黒のマントを羽織り、二丁の銃を背負ったケントのニューマシンはヒガンマジロの背中に、同じくマントで包み込まれたジョゼットのニューマシンとピンクのドラグゼオは両腕に捕まった。

「残念だがアピオン、君はここまで……あれ?」

 トラウゴットが妖精に撤退するように言おうとしたが、その前に彼はヒガンマジロのカメラ映像の中から消えていた。

「アピオンはどこに行った?」

「さぁ?」

「さぁって……心配じゃないのか?」

「アピオンはトラウゴットさんが思ってるよりずっと賢いし、タフですから。ここに来る途中で彼には残るようにと伝えてあるので、早々に離脱したんじゃないですか?」

 あまりにあっけらかんとしているトモルの態度に戸惑いを覚えたが、アピオンについて、付き合いの一番長い彼がそう言うなら、トラウゴットも反論はできなかった。

「そうか……それならばいいんだが……」

「ぶっちゃけタリクの野郎が巨神を手に入れたら、この辺り一帯吹っ飛ばされるやろうから、ここに残るかどうかより、ワイらが奴を倒せるかどうかの方が大事やと思うで」

「確かに……その通りだ!!」

 トラウゴットは両手で頬を、正確には頬を覆っているストレアードカスタムの仮面をガシャンと叩いて、気合いを入れ直した。

「改めて……準備はいいか?」

「バッチリやで」

「問題ない」

「準備も……覚悟も完了済みです……!」

「ならば……これよりウレウディオス財団所属タリク追跡特別チーム、『バムブーク』国、ムーサ火山に突入する!」

「「「おおう!!」」」

 皆の熱い想いに呼応するように、ヒガンマジロはホバー移動で勢いよく穴の中に入って行った。

 穴の中に入ってからしばらくは漆黒の闇と静寂が支配していた。しかし、ある程度降りると……。

「まさかこんな間近で見ることになるとはな……溶岩」

 オレンジ色に輝くマグマが、周囲を照らし、外よりも遥かに明るくなった。

「温度もぐんぐん上がっとるの……」

「あぁ、耐熱性のマントがこんな形で役に立つとは。これのおかげで本来よりマシンの温度上昇が鈍い」

 そう言いながら、ジョゼットはフードをさらに深々と被った。

「なんやおっさん、このシチュエーションを予想してなかったんか?ワイは火山の中でバトることも考えとったで」

「フッ……私はお前達より長く生きているだけで、全知全能というわけではないからな。至らぬところもあるさ」

「伸び代があるとも言えます。ポジティブに行きましょうよ、ポジティブに」

「だな。こんな状況だからこそ希望を持ち続けなければな」

「なら、ワイはこの先でタリクの奴が焼け死んでいるちゅう最高の未来をポジティブに願い続けておくで」

「いいですね。そうなったら最高です」

「……残念だが、そこまで都合よくいかないようだ……!」

「「「!!?」」」

 ヒガンマジロが移動を停止し、岩盤に着陸した。

「どないした!?トラブルか!?」

「あぁトラブルだ……レーダーにこちらに向かって来る反応が多数確認された」

「なんやて!?」

「この暑さでヒガンマジロが誤作動を起こしただけとポジティブに考えたいが……」

「「「キーッ!!」」」

「「「ギギギィッ!!」」」

 悲しいかなトラウゴットの願いは叶わず。メトオーサの遺跡で戦った虫どもがあっという間にディスプレイを占領した。

「ヒガンマジロは絶好調だったようだな……くそが!!」

「これでタリクが生きていることもほぼ確定か」

「まぁ、そう人生甘くはないってことやな」

「甘くはないですけど、この程度苦いとも思いませんよ!」

 ヒガンマジロに掴まっていた三人も岩盤に降り立ち、戦闘態勢を取る!

「もうお前らと戦うのは飽き飽きなんだよ!」

「一言一句同意や!!」

 ヒガンマジロは肩にある、ケントは背負っていたガトリング砲を手に取り、高速回転させる。そして……。

「食らい……」

「やがれってんや!!」


バババババババババババババババッ!!


「「「キーッ!!?」」」

「「「ギギギィッ!!?」」」

 回転する銃口から絶え間なく弾丸を発射!虫どもを蹂躙、殲滅していく!しかしそれでも……。

「キーッ!!」

「ギギギィッ!!」

 弾丸の間隙を縫って、虫達が迫って来る!

「毒虫風情が……」

「寄って来るなよ!!」


ザンッ!!ザシュウッ!!


「――キ!?」

「……ギギギィ!?」

 だが、接近してもジョゼットとトモルがいる!ジョゼットはいつものバカみたいな大砲付き大剣で一刀両断し、ドラグゼオもいつもの炎の刃で焼き切った!

 力の差は圧倒的だった。あっという間に屍は岩盤に山を築き、マグマの中に溶けていった。けれども……。

「こいつら……キリがあらへん!?」

「数に限りがないのか!?」

 倒しても倒しても減らない虫……むしろ倒せば倒すほど増えているようにも思える。その数の暴力は少しずつだが、確実に四人とその愛機を消耗させていっていた。

「このままだといずれ……」

「一気に突破するか!?」

「だけど、この数が後ろから追って来るのは厄介ですよ!?」

「なら、どないせいちゅうねん!?」

 苛立ちと疲労だけが積み重なっていく。今、彼らに必要なのは決断。誰かが決断を下さなければいけない……誰かが。

「……ワタシとヒガンマジロがここに残って奴らを引き付ける」

「なんですって!?」

 トモル、いやトモルだけでなくケントとジョゼットもヒガンマジロの巨体を見上げた。

「残るって……トラウゴットさん一人で……?」

「あぁ、そうだ。このままでは精神も体力もマシンのエネルギーも消耗するだけだ。タリクを倒すためにはできる限り万全に近い状態で相対しなければ……そのために君達は先に行け」

「理屈はわかりますが……一人でなんて……!」

「この中で一番弱いのはワタシだろう?雑魚には雑魚を当てるべきだ」

「それでも……」

「トモル・ラブザ、君は地上でフォンス会長がワタシを信頼してくれていると言ってくれたじゃないか」

「言いましたけど……」

「今ならわかる……お父上のよく言えば勇猛、悪く言えば向こう見ずなところを受け継いでしまったメルヤミお嬢様なら、最後の最後まで抵抗をやめないだろう。しかし、ワタシは違う。ワタシは臆病な人間だからな……いざとなったら、形振り構わず尻尾を巻いて逃げるさ。きっとそれができるワタシだから、フォンス会長はワタシを何も言わずに送り出してくれたんだ」

「トラウゴットさん……」

 トラウゴットは今まで誰にも見せたことのない顔で笑いかけた。トモル達にはストレアードの仮面とヒガンマジロの分厚い装甲が邪魔して見えるわけなどないのだが、彼らにはトラウゴットの表情が手に取るようにわかった。だから……。

「……わかりました。ここはトラウゴットさんに任せます」

「任された……!」

 皆の視線が虫達がやって来た方向、つまり彼らが進んでいた方向に集中する。

「ワタシがヒガンマジロの主砲で突破口を開く。この数ならすぐに穴は塞がれてしまうが……」

「わかっとる!その一瞬で駆け抜ける!!」

「あぁ!」

「はい!」

 ヒガンマジロの周りの三人は構えを解いて、両足に力を集めた。

「よし……ではカウント五秒前……!」

 ヒガンマジロが装甲を展開し、スタートの合図を鳴らすには、あまりにも巨大な砲口を胸部から露出させる!

「四……三……二……」

 カウントが進むごとに砲口にエネルギーを収束させていく……。そして!

「一!ヒガンマジロ!メガブラスター!発射!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「「「――ッ!?」」」

 ヒガンマジロの胸からエネルギーの奔流が放たれる!それに飲み込まれた虫達は、痛みを感じる暇もなく、この世から消失した。

 光が消えた後、そこには道ができていた……更なる地獄に続く道が。

「行くで!行くで!!」

「「おう!!」」

 ケントを先頭にジョゼット、ドラグゼオと続き、残った虫には脇目も触れずに疾走した!その道は彼らが駆け抜けたらすぐに塞がれ、三人の背中はトラウゴットからは見えなくなった。

「行ったか……後は彼らがタリクを倒してくれることを祈るだけ……というわけにはいかないよな……!」

「「「キーッ!キーッ!!」」」

「「「ギギギィッ!!!」」」

 虫達は自分達が出し抜かれたことに腹を立てているように見えた。それはトラウゴットの想像力が見せた錯覚でしかないのかもしれない……分散していた殺気が集中したことに対しての恐怖が見せた幻なのだろう……。

「強がってみたものの……やはり一人だと心細い……!」

 ヒガンマジロの操縦レバーを握る手が震える。トモル達の存在がどれだけ自分の心を支えていたのかを嫌というほど実感してしまう。

「臆病なんてレベルじゃないな……それでも!あいつらの下にいかないようにワタシが……!」

「まぁ、そう気張るなよ。あいつらの強さはあんたが一番知っているだろ?少しぐらい取りこぼしたって大丈夫、大丈夫」

「君はいつでも冷静だな。羨ましいよ、アピオン……アピオン!!?」

「よっ!」

 声のした方向を向くと、妖精が空中で胡座をかきながら、敬礼してきた。

「な、何で君がヒガンマジロのコックピットに……!?」

「何でって……隙を見て忍び込んだに決まっているでしょうが」

「でしょうが……じゃないよ!!危ないから君は待機してろって……」

「ここまで来て仲間外れは勘弁だぜ。戦闘能力はないが、おれっちにだってできることはある」

「君にできること?そんなものは……」

「少なくともあんたの手の震えを止めることはできる……つーか、できた」

「!?」

 トラウゴットが視線を落とすと、アピオンの言う通りレバーを握っていた手の震えがピタッと止まっていた。

「頭じゃおれっちがいたところでとか思ってるみたいだけど、あんたの心はどうやらこんな小さなおれっちがいてくれることを“頼りになる”って認識してるみたいだな」

「どうやら……そのようだな……!」

 トラウゴットの身体の奥から力が漲り、レバーを力強く握りしめた!

「お前がいれば百人力だ!アピオン!!」

「はっ!千人力だっての!!」

 ヒガンマジロも固く拳を握り、ナックルガードを展開すると雄々しくファイティングポーズを取った。


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