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No Name's Trust  作者: 大道福丸
本編
41/100

心を一つに

「急げ!急げ!ゴー!ゴー!ゴー!!」

 ヘリの中でアピオンが荒ぶる!

 本来ならこの中では緊張感があったとしても、もう少し穏やかで、落ち着いていられるはずだったのだが、そうはいかなくなってしまったのだ……。

「まさかタリクの奴がここまでスピードアップするとは……!」

「ポイントを通過するごとに加速している……!」

「何が一週間後やねん!このままやとワイらの到着よりも早くムーサ火山にあの野郎がついてしまうやないか!」

「念には念を入れて出発を一日前倒しにしても、後れをとることになるなんて……!」

 ヘリの中で皆揃って歯噛みする。自分達の認識の甘さに、タリク・ウシャマールの底知れない力に……。

「後悔するのは後だ!とにかく今は急がねぇと!早くしねぇとヤバい!ヤベェんだよ!!」

 アピオンは特に取り乱していた。この窮地で、彼だけが更なる絶望を察知していたのだ。

「アピオン……どうしたんだ、そこまで慌てるなんて?」

「おれっちにはわかっちまうんだよ……そのムーサ火山に近づいていくにつれて、嫌な気配が大きくなっている……!」

「それはタリクのことやろ!?」

「違う!あいつの気配とは……あいつよりもずっと強い力を火山の方から感じる!」

「火山から……ッ!?まさか!?」

「多分、ムーサ火山が“当たり”だ……!スルトはあそこにある……!」

「「「!!?」」」

 最悪の情報に皆一様に息を飲み、青ざめる。

「……アピオンがそう言うなら、本当にあるんだろうね……!」

「予定は狂ったが、私達のやることは、やるべきことは変わらない……!」

「はっ!上等!準備万端で迎え撃つなんて、虫のいい話過ぎたんや!ワイらの戦いはいつもワイらの想定を越えて来た!せやけど、いつもワイら自身も想定を越えた強さを見せて、乗り越えて来た!今回もそうするだけやで!!」

「はい!行きましょう!ムーサ火山に!タリク・ウシャマールとの決戦の地に!」

 ヘリは最高速度で目的地に向かう。あの話合いの日から翌々日の昼のことであった……。



 そしてその日の夜に一行はムーサ火山の麓に到着した。そこは……。

「ひでえな……」

 凄惨な光景が広がっていた。ところ狭しと機械の残骸が転がっていて、まるでスクラップ場のようだった。

「ウレウディオスがこんだけP.P.ドロイドを用意してくれたのは感謝やけど……」

「討ち取るどころか足止めすらできないとは……!」

 トラウゴットは溶けた装甲を見下ろしながら、拳を強く握りしめた。

「トラウゴットさん、アピオンが言っていたでしょ、後悔や反省は後にしましょう」

「そうだな……今は死人が出てないことを喜ぼう」

「せやせや!ポジティブに行こうや!」

「あぁ……とりあえず……ワタシ達用の装備が届いているはずだ。それを探そう」

「装備って……もしかしてワイが頼んだ、あれか!?」

「あれだ」

「なら、早く取りにいかんと!あれがないとワイは役に立たんぞ!」

 先ほどまで冷静にトラウゴットを宥めていたのに、ケントは急に色めきだった。

「でも、もうタリクにやられてるんじゃ……?」

「いや」

 トラウゴットは懐中時計を取り出すと、それから光を放ち、空中にディスプレイを投影する。画像はこの辺りの地図のようで、一ヶ所だけチカチカと光が点滅していた。

「やはり物資は無事なようだ」

「ここから少し離れてますね」

「それが功を奏したようだな」

「んじゃ、早速行きますか!」

「うん」

 トモル達は地図に従い、スクラップの間を黙々と進んで行った。しばらくすると乗り物一台とその横に頑強そうな箱がおいてあった。

「あれって……トランスタンクですか?」

「あぁ、名前は『ヒガンマジロ』。耐熱性に優れるマシンだ。トランスタンクはピースプレイヤーとの競争に破れた時代の仇花だが、装甲と破壊力は負けてないからな。役に立つかと」

 トラウゴットはそのマシンの装甲をペチペチと触りながら、無事を改めて確認した。

「こっちの箱は?」

「開けてみろ。ロックはかかってないはずだ」

「では……」

 言われた通りにトモルが箱を開けると、真っ黒い布が入っていた。

「これは?」

「それも耐熱能力に優れた特別製の布だ。タリクの炎相手にはそれこそ焼石に水だが、ないよりはマシだろ?」

「なるほど……でもぼくのドラグゼオには必要ないかも……」

「安心しろ、君の分は最初から入っていない。ワタシとドキとジョゼット用だ」

「当然やろ」

「だな」

「ええ~、なんかちょっと仲間外れみたいで嫌だな……」

 ブー垂れているトモルを尻目に、ケントとジョゼットは布を手に取って、頭から羽織った。

「これはトラウゴットはんのやな……おっ!」

 ケントがもう一枚の布を持ち上げると、箱の底には二丁の大きな銃が置いてあった。

「これこれ!ワイの注文通りや!!」

「へぇ……って、あれ?」

 トモルが箱を覗き込み、その銃の片割れを見ると、過去の記憶がフラッシュバックした。あの物騒なカレー屋での出来事が。

「これって確か、スマなんちゃらかんちゃら製のうんちゃらライフルですよね?」

「スマイス・ファイアーアームズ製の大口径プラズマライフルな。お前、ほんまにメカに疎いの~」

「名前はともかく、その会社の武器はいい物だってことは知ってますよ」

「だからわざわざ取り寄せてもらった。こっちのガトリング砲も同社の製品や!前々から使ってみたかったんや、これ」

 ケントはいとおしそうに銃身を撫でた。

「よし!不備はなさそうだな!ならばさっさとタリクを追うぞ!ストレアードカスタム!」

 トラウゴットは懐中時計の真の姿である機械鎧にすると、それを纏い、箱にかかっていた耐熱性の布をさらに上から羽織った。そして、その姿のままヒガンマジロに乗り込もうとする。

「トラウゴットさん!」

「ん?」

 そんな彼をトモルは呼び止めた。

「どうした?何か問題か?」

「いえ、そうじゃないですけど……」

「ならばなんだ?ワタシ達におしゃべりしている暇はないぞ?」

「わかってますけど、一つだけ……」

 トモルは人差し指をピンと立て、にやけ顔で首をヘコヘコと上下させた。

「言うなら早く言え」

「ではお言葉に甘えて……トラウゴットさんは何でぼく達と来てくれるんですか?フォンス会長達と一緒に待っていればいいのに?」

「その話か……」

 トラウゴットは仮面の下で目を伏せた。

「メルヤミお嬢様が言っていただろう?今回の件はウレウディオスの落ち度、上の者が前線に立たないと示しがつかないと」

「ですけど、メルヤミさんはお父様に止められて……」

「それはあの人に代わりがいないからだ。だが、ワタシは違う……だからここにいるんだ」

「トラウゴットさん……」

「ちょうどいいんだよ、ワタシの存在はね……」

 思わず苦笑いを浮かべる。自分という都合のいい存在に、それに満足している自分に。

(我ながらなんと軽い命か……それでも孤児であるワタシをここまで育ててくれたウレウディオスの恩義に報いることになるならば……!!)

「死なせませんよ」

「――!?」

 トモルの声で我に返り、彼の方を向くと真っ直ぐ、そして力強い眼差しでこちらを見つめていた。

「トモル・ラブザ……」

「死んでもいいとか思っているなら、考えを改めてください。ぼくにとってあなたは生きていて欲しい人ですから」

「……金払いがいいからか?」

「そうです!」

 トモルはこれまた力強く頷いた。

「素直だな……だが、それこそ他に代わりがいるだろうに……」

「いえ!トラウゴットさんより話のわかる人なんて中々いませんよ!」

「せやな。大抵、後になってケチってきたり、最初から払うつもりなかったり……」

「だから、生きていてもらわなければ困るんですよ。ようやく見つけた信頼できるお得意様なんですから」

「お前達……」

「それにフォンス会長も、トラウゴットさんなら必ず戻って来ると思ったから、送り出したんだと思いますよ。きっとあなたがここにいるのは信頼の証なんですよ」

「……そうか……そういう考えもできるのか……」

 鼻をズズッとすすった音がマスクの奥から聞こえた。それから数秒後、トラウゴットは顔を上げて、高らかにこう言い放った。

「全員生きて帰れたら、特別ボーナスを支給してやる!欲しかったら、意地でも生き残れ!!」

「「「おう!!!」」」

 全員の心が今、一つになった……。



「……また邪魔者か」

 マグマに囲まれたドーム状の空間、熱で空気が揺らぎ、白い蒸気が立ち昇る岩盤の上で、タリク・ウシャマールは涼しい顔で呟いた。

「まったく……何をしようと無意味だというのに」

 そう辟易しながら言うと、指をパチンと鳴らす。すると……。

「「「キーッ!!」」」

「「「ギギギィッ!!」」」

 空中に二つの穴が開き、そこから大量の虫が飛び出して来た。メトオーサの遺跡の時と同じく彼お手製のオリジンズ、アグリットとクレイピードを呼び出したのだ。

「お前達、お客様を出迎えてやれ」

「「「キーッ!!」」」

「「「ギギギィッ!!」」」

 主人の命に従い、虫の集団はその空間から我先にと出て行った。

「ふむ……あいつらだけでも大丈夫だと思うが……念には念を入れるか」

 タリクが再び指を鳴らすと、二つの穴がたちまち消え去り、入れ替わるように一つの大きな穴が空中に開いた。

「『ラペンテ』、『トンバ』、そなた達も余に歯向かう愚か者どもを倒しに行け」

「「はっ!!」」

 穴の奥で四つの光が輝いたかと思うと、それは自身の影さえ振り切るように、これまたこの空間から出て行ってしまった。

 結果、残されたのはタリク・ウシャマールともう一体……。

「さぁ、続きを始めようか……余とそなたの心が一つになるための対話を……スルト」

 タリクはマグマから顔だけ出している巨神に穏やかに語りかけた……。


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