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No Name's Trust  作者: 大道福丸
本編
36/100

真夜中の決着

「うおおぉぉぉっ!!」

 勢いそのままにブラーヴ改は愛剣をターヴィに脳天に振り下ろした!

「くっ!?猪口才な!!」

 しかし、ターヴィは身体を翻し、紙一重で避ける!その刹那、二人の視線が交差する。

(どういうことだ!?こいつはオレの一撃をもろに食らったはずだ……!一晩はまともに動けなくなるはずなのに……!?)

 闘志をみなぎらせ、身軽に動くブラーヴ改の姿に目を疑う。

 けれども本当に驚くべきことはこの後に起きた。

「はあっ!!」

「――なっ!?」

 ブラーヴは大剣の柄を両手で握って、力ずくで無理矢理動きを止めた!

 両手で握ったのだ!けがをしているはずなのにだ!

(こいつ!?オレとの戦いで腕を……手負いのはずじゃなかったのか!?)

 ターヴィの疑問を解決する間も与えないと、青黒の戦士はそのまま刃を斬り上げる!

「うおりゃ!!」


ザッ!!


「ぐっ!?」

 ターヴィはこれも回避しようと試みるが、僅かにコンマ何秒、数ミリの距離が足りなくて、切っ先で胴体を切り裂かれてしまった!

「致命傷には程遠いが、この戦いで初めてのクリーンヒットだな、グリーン・パニッシャー」

「このッ!?」

 ジョゼットの勝ち誇ったような言葉に、ターヴィは苛立ちを覚えた。先ほどまでの疑問が吹き飛ぶほどに腹が立ったのだ。だから、なんとしてもやり込めてやろうと傷口に意識を集中させる!

 目の前で傷を塞いで、力の差を見せつけるために!

「この程度!オレにとってはダメージに入らんわ!!」


…………………


「……なん……だと!?」

 傷口が塞がることはなかった。世間一般の常識的にはごく当たり前のことだが、緑の処刑人ターヴィ・トルマネン的には超がつくほどの異常事態だ。

「どうして……?」

「呆けてる場合か!!」

「――ッ!?」

 考える暇など与えないと、ブラーヴ改は猛然とラッシュをかける!

 しかし、それが逆にターヴィを冷静にさせてしまった。

(こいつの動き……やはり先日砕かれたはずの拳が完全に治っている……!オレが見誤ったのか?いや、間違いなく、戦闘前の気配や動きからこいつは負傷していた!ならばなぜ!?オレが吹き飛ばしてフェードアウトしている間に治療をしたのか!?そんなことがあるはずない!あるとしたらエヴォリストの能力か、それに類する……ッ!?)

 点と点が線が繋がると、ターヴィは思わず叫んだ!

「貴様の仕業か!ピンクドラゴン!!」

「はい!ぼくの仕業です!!」


ザンッ!!


「――ぐっ!?」

 自分を抑えつける根っこを焼き切り、戦線に復帰したドラグゼオは敵の問いに答えると同時に炎の刃で斬りかかり、新たな傷を深々と刻みつけた。

「つうぅ……!!この感覚……ちっ!?厄介な!!」

 ドラグゼオにつけられた傷もまた再生しないことを悟ると、ターヴィは両腕を盾のような形に変えた。

 そこに桃色の炎竜と青黒の戦士は容赦なく剣戟を叩き込む!


ガンガン!ボオッ!ガン!ボオォォォッ!!


「ぐうぅ……!!?」

 木の盾にあっという間に無数の傷が。あのターヴィが何もできず守りを固めている。

「くっ!?オレがここまで押し込まれるとは……!!」

「初めての経験か?良かったな、新鮮な驚きは人生を豊かにするぞ」

「饒舌だな……あの桃色の炎は気分を高揚させる効果もあるのか……!」

「さすがに気づくか」

 ジョゼットは攻撃の手を緩めることなく、トモルに目配せをした。

 それを受けたトモルはここまで一人で耐えた戦士に敬意を込めて口を開く。

「お察しの通りぼくの、ドラグゼオの炎は傷を癒す力があります」

「あの下手くそな射撃……わざとだったのか……こいつに炎を届けるために……!」

「ええ、そうです。あなたを出し抜くためにジョゼットさんの傷をあえて治療せず、さらに攻撃を受けてもらうことで、あなたの意識から彼の存在を消し去りました」

「そして下ごしらえが終わったら、復帰か……!オレの再生能力を阻害しているのも、あの時食らった炎のせいなんだろ!!」

 ターヴィの頭に火炎放射で全身を忌々し桃色の炎で覆われた時のことが思い出された。難なくくぐり抜けたしょうもない攻撃だと思っていたが、あれこそがトモル達の勝利の鍵だったのだ。

「治癒ができるなら、逆もできないか……こんな突拍子もない考えを思いついたのは、あなたが仮想敵だったからですよ、ターヴィさん。あの夜、ぼくの心を折るためにわざわざ再生能力を見せたのが、裏目に出ましたね」

「ぐうぅ……!!」

 自分が劣勢に立たされていることに、彼らの手のひらで踊らされていたことにターヴィはポーカーフェイスを崩し、歯噛みした。

「終わりです、ターヴィさん。もう降参してください」

「終わりだと!?再生能力を封じたぐらいで調子に乗るな!!お前らごとき二人程度!ちょうどいいハンデだ!!」

「かもしれないですね。でも、忘れてません?喧しいのがもう一人いるでしょ?」

「だから誰が喧しいんじゃ!!」

「――ッ!?しまった!?」

 突っ込みを入れながらゲイム・Lも戦線復帰!翼を広げ、高速で一直線にターヴィの下へ!

「もう一度言う!誰が喧しいんじゃ!ボケッ!!」


ザンッ!!


「……くっ!?」

 すれ違い様に手の甲から伸びた剣で一閃!さらにそれで体勢を崩し、隙ができたターヴィに……。

「はああぁぁぁっ!!」

「でやあぁッ!!」


ザンッ!!ザシュウッ!!


「ぐあっ!?」

 ブラーヴ改が胴体!ドラグゼオが太腿を斬りつけ、勢いそのままに離れていく!

「よっしゃ!美味しいところ持ってけ!バルランクス・ギガキャノン!!」

 ケントは反転しながら、翼を持ったマシンから大砲を背負った黄色と黒のマシンにスイッチ!アスファルトをガリガリと削りながら、着地すると、その大砲を処刑人に向けた。

「この一撃で決める!!」

 全てを終わらせるためにバルランクスはエネルギーチャージを始めた。マスク裏のディスプレイにはゆっくりと10%、11%と溜まったエネルギー量が表示される。

「くっ!?足が……!!」

 ターヴィは射線から離脱しようとするが、ドラグゼオに斬られた太腿が言うことを聞いてくれない。しかし、内心ではそこまで焦ってもいなかった。

「だが、あれだけの大砲……まだ時間が……!」

 ターヴィはバルランクス・ギガキャノンの弱点を一瞬で見抜いていた。時間さえあれば、どうにでもなると高を括っていたのだ。

 けれど、それは大きな間違い……。今、ここにはドラグゼオがいる!

「トモル!来ぉぉぉいっ!!」

「はいっ!!」


ボオォン!!


「何!!?」

 ガンドラグがまた味方に向かって桃色の炎弾を発射した!それはバルランクスに着弾すると同時に全身を包み込んだ……かと、思えばそのまま黄色と黒の装甲に吸収されていった。

 その瞬間、マスク裏のディスプレイの表示が100%になった!

「まさか、その炎はピースプレイヤーのエネルギーに変換することもできるのか!!?」

「その!」

「まさかや!主砲!発射っ!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「――!!?」

 まるで一足先に夜明けが来たようだった。眩く巨大な光の奔流がターヴィを飲み込んだ。

「やったか!?」

 ジョゼットが手応えを確認すると、ケントは……首を小さく横に振った。

「残念やが……」

「まだだぁぁぁぁぁッ!!」

 緑の処刑人の咆哮が夜空にこだまする!光の奔流の中からボロボロになったターヴィが再び姿を現した!

「オレは!オレは負けるわけにはいかないんだ!!」

 “死”を覚悟し、そこから生還したターヴィは今までで一番の昂りを見せていた。

 その狂気じみた姿にジョゼットは……。

「うっ……!?」

 気圧され、ケントは……。

「はあぁ……」

 ため息をついた。

「残念やけど、美味しいところは今回はやっぱお前のもんや、ドラグゼオ」

「……はい」

「!!?」

 ケントの呟きでターヴィは気づく……ドラグゼオが必殺技の体勢に入っていることに!そして、それが今の自分には躱せないことに!

「ピンクドラゴオォォォォン!!?」

「縦一文字葬炎弾」


ボボボボボボボボボボボボボボッ!!


 桃色の炎を凝縮した弾丸が縦一列になってターヴィに向かって放たれる!それにドラグゼオはガンドラグのグリップから炎の刃を発生させながら、ついていく!そして……。

「エクスフレイムスラッシュ!!」


ザザンッ!!


「――ッ!!?」

 弾丸が命中すると同時にXを炎の刃で描き、ターヴィの緑色の身体に桃色で*を刻んだ。

「アスタリスクコンビネーション……ブレイジング……!!」

 それがターヴィが意識を途切れさせる前に聞いた最後の言葉だった……。


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