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No Name's Trust  作者: 大道福丸
本編
34/100

真夜中の初陣

「……ん?」

 三台のトラックの中、真ん中の車の助手席に座っていたディオ教第二十支部支部長、またの名を緑の処刑人(グリーン・パニッシャー)、ターヴィ・トルマネンは視界の片隅に、漆黒のキャンパスに描かれた前衛的な桃色のアートを捉えた。

「……来客か」



「気付かれたで!!あのどアホのせいでな!!」

 ゲイムのカメラもまたトラックの異変をいち早く捉えた。先頭と最後方のトラックの荷台が開き、そこから……。

「ドローンや!!」

 小型の飛行メカが群れをなして発進する!

「ジョゼット、ジャニスは下がりなさい!あの羽虫どもはあたし達が相手をする!」

「うむ」

「ご武運を」

 ものものしいバズーカを肩に掲げたブラーヴ改とジャニスヴァルターリアは身体を広げ、抵抗を作り減速する。

 逆に他のヴァルターリアやトモルから無理矢理受け継いだトゥレイターを駆るメルヤミは身体を動かしながら、ドローンを迎え撃つためにフォーメーションを組む。

「ガンドラグレプリカ!」

「ライフル準備!」

「「「はっ!」」」

 それぞれが遠距離武装を展開、そしてそのまま……。

「てえっ!!」


バン!バン!バン!バン!バン!バァン!!


「――ガッ!?」「ギッ!?」「ゴッ!?」

 発射された弾丸は的確にドローンを貫き、次々と撃ち落としていく。ただドローンの方もやられっぱなしではない!


ババババババババババババババッ!!


 反撃の機銃掃射!トゥレイター達よりも遥かに多くの弾丸を発射していく!しかし……。


キンキンキンキンキンキンキンキン!


 それらは全て呆気なくピースプレイヤー達の装甲に弾かれてしまう。

「そんな豆鉄砲じゃ、あたしのトゥレイターに傷一つつけられないわよ。だから、好きなだけ撃てばいいわ。まぁ、パラシュートに穴開けられると困るし、効かなくても、ムカつかないわけじゃないから、こちらも反撃させてもらうけど!」


バン!バン!バァン!!


「ガッ!!?」

 トゥレイターは片腕で弾丸をガードしながらも、怯むことなくガンドラグRを連射し、さらに撃墜スコアを更新する。

 主人に負けじとヴァルターリア隊もドローンをただのスクラップへと変えていった。

「ヘリで言っとったことはハッタリやなかったみたいやな。ワイの出番は……ん?」

 ゲイムのカメラがまた異変を捉えた。ドローンの中に大きな砲身を持って、エネルギーをチャージしていると思われる個体を発見したのだ。

「なるほどなるほど……あいつらは囮で、本命はこっちか。でも、残念……ワイの目は欺けなかったな!」

 ゲイム・Lは手の甲から刃を伸ばしながら、大砲持ちのドローンに向かって加速!すれ違い様に……。

「とりゃ!!」


ザンッ!!


「――!?」

 切り裂いた!二つに分かれ、爆散するドローンに照らされ、刃がキラリと光る。

「しょっぼい花火やのう……って、格好つけてる場合ちゃうか」

 大砲持ちは他にもいた。ゲイムはさらに銃を召喚して撃破に向かう。

「デカいのはワイのゲイムがやる!おっさんとジャニスはんはそろそろトラックを止める準備を!!」

「おう!」

「はい!」

 夜空に咲く爆炎の花の間を掻い潜り、ブラーヴ改とジャニスヴァルターリアはバズーカを構え、スコープを覗き込んだ。

「狙いはトラックの……」

「前方!」


ドン!ドォン!!


 引き金を引くと、巨大な砲弾が勢いよく飛び出していき、反動で二体は空中で回転した。

 放たれた砲弾は狙い通り、トラックの前方に向かい、ある程度地表に接近すると……。


ボン!ボォン!!


 破裂する!重低音を響かせて弾けた砲弾の中から出てきたのは、小さな大量のトゲトゲ……所謂“撒菱”だ!

 撒菱はそのままトラックの進路上にバラ撒かれ……。


ボン!キキィィィィィィィッ!!


 上を通過したタイヤに穴を開け、動きを止めることに成功した!

「よし!トラックが止まった!このまま着陸!一気に神器を奪うわよ!」

「「「はっ!!」」」

 ドローンを粗方撃墜したトゥレイター達はパラシュートを展開、そして減速、ピースプレイヤーで降りても安全な高度までくるとパージし、地面に降り立った。

「さてさて……ここからが本番……の前に、もうちょい機械と遊ばなあかんみたいやな……」

「ギィッ……!」

 ドローンに続き、トラックの荷台から出てきたのは機銃を背負った虫のようなマシンであった。

「多脚型のP.P.ドロイドかい。あんな……ワイはお前らの大先輩と海の底でやり合って、勝っとるんじゃい!!」


バン!バン!バァン!!


「――ギィッ!!?」

 手始めにと言わんばかりに、ゲイムが一体目を撃破!だが、後から後から虫メカは出てくる!

「さっきのドローンもこいつらもエラヴァクトと同じく『アルムストレーム』の商品やな」

「どんな会社なんだ?」

「安い割に性能は悪くない……それ以上でもそれ以下でもあらへん」

「ならば……問題ないな!!」

 ブラーヴ改は大砲付きの大剣というバカみたいな武器を片手で振り上げ、機銃を弾きながら虫メカに迫る!そして……。

「機械ごときに!手負いでも遅れはとらんわ!!」


ボゴッ!!


 斬るというより潰した。大剣の重さで上から虫メカの装甲をひしゃげさせ、力任せに叩き潰したのだ!

「さすがですね、ジョゼット様。ではわたくし達も……みつ子と星鈴、トマサが前衛!わたくしを含め、残りは援護に徹して!」

「「「はい!」」」

 ゾーイの指示通り、みつ子達三人はダガーで虫を引き裂いていき、残りの三人はライフルで撃ち抜いていった。

「メイドさん達は空中と変わらず心配なさそうやな。で、肝心のお嬢様は……」

 ケントは虫メカを手の甲から伸ばした刃で突き刺しながら、目立って仕方ないピンク色のマシンに視線を移した。

 中身が以前のままだったら、そんなことはしないのだが、実力が未知数の依頼主とあっては、何かあった時のために注意を払っておかなければいけなかった。

「えーと、確かこうやって……縦一文字葬弾!」


ババババババババババババババッ!!


 トゥレイターは上から下にガンドラグRを動かしながら、弾丸を連射!さらにその後をグリップからブレードを展開しながらついていく!

「で、ここで……エクススラッシュ!!」


ザザンッ!!


「――ギッ!!?」

 弾丸が着弾するとほぼ同時に刃でXを描く。結果、虫メカに*が刻まれた。

「アスタリスクコンビネーション……!!」


ドゴオォォォォォォォォォォン!!


「上出来ね」

 爆炎を背にトゥレイターの仮面の下で、メルヤミは満足そうに呟いた。

「………はぁ?」

 ケントは戦闘中だと言うのに、目を丸くして、頭を傾けた。

「なんであのお嬢様、トモルの必殺技をいとも簡単に再現してんねん?そんな簡単なもんちゃうやろ?」

「メルヤミお嬢様は所謂天才の類いだ。多分、経験さえ積めばあっさり私なんかより強くなるはずだ」

「金持ちな上に強いんかい!不公平過ぎやしませんか!?」

「そもそも今はあんなに太ってしまったが、お父上のフォンス様も若い頃は筋骨隆々のバリバリの武道派だったらしいからな。修羅場を物理的な力で押しのけて、今の地位がある。金持ちなのに強いんじゃなくて、強いから金持ちになれたんだよ、ウレウディオスは」

「ほんまかいな……」

 信頼しているジョゼットの説明を受けても、ケントは事態を飲み込むことができなかった。同時に自分の無知さに僅かな恥ずかしさを覚える。

「ピースプレイヤーのことばかり詳しいってのも、あれやな。これ終わったら、歴史とか一般常識とか勉強しよ」

「はっ!それは無理な話だ!!」

「!!?」


ブゥン!


「ちっ!外したか!!」

 突如として頭上から新手のピースプレイヤーが刀で斬りかかってきた!一瞬早く察知したゲイムはなんとか躱し、距離を取った。

「そのマシン……『六角重工業』の『刃風(はかぜ)』か?あそこは刀剣精製に定評があるからな、いいチョイスや」

「人を褒めるとはずいぶんと余裕じゃないか不届き者!おれが誰だかわかっているのか?おれはディオ教第二十支部の双壁の一人!『アニー・カーシネン』だぞ!!」

「知らんなぁ。つーか、双壁ってもう一人は……」


バキュン!!


「――ッ!?」

 ゲイムの目の前を弾丸が通過した。本能か経験則か、反射的に身体が動いていなかったら、こめかみを撃ち抜かれていた。

「危な!?なんやねん、急に!?」

「急にだから意味があるのだろうが」

 弾丸の来た方を向くと、そこには身の丈もあるライフルを構えたピースプレイヤーがいた。その姿は目の前の刃風とどこか似ている。

「刃風の次は『界雷』かい……!自分ら六角好きやな……」

「フッ……六角は刀剣だけじゃないってことさ。この界雷とわたし、『オットー・カーシネン』の技術、そして……」

「おれとの連携!これが我らが双壁と恐れられている理由だ!!」


ザンッ!バァン!ザンッ!ザンッ!バァン!!


「ええい!鬱陶しい!?」

 カーシネン兄弟のコンビネーションにゲイムは避けることで精一杯、反撃の余地はなかった。

「くっ!?二体一とは卑怯な!待っていろ、私が今……」

「俺達の留守中に盗みに入るような奴に卑怯と罵られたくはないな!!」

「――なっ!?」

「どっせい!!」


ドゴオォォォォォォン!!


 ゲイムを助けに行こうとしたブラーヴ改の前にも新手が現れた!

 二本のデカい包丁を持った大柄なピースプレイヤーは一撃でジョゼットの命を断とうとしたが、これまた避けられ、代わりにデカ包丁はアスファルトを砕いた。

「お前は……!?」

「我が名は『フローロヴィチ』!そしてこれが我が愛機『覚脳鬼』だ!」

「覚脳鬼やと!?」

 カーシネン兄弟の連携を前にいまだに活路を見出だせていないケントが、新たなピースプレイヤーの名前に激しく反応した。

「おっさん!とっとと倒せ!そのマシンは!!」

「もう遅い!フィジカルブースト!!」


ズッ……


「グウゥ……!!」

 覚脳鬼の内部から針が伸び、装着者であるフローロヴィチに薬剤を注入した。それこそがケントが恐れていたものだった!

「グワアァァァァァァッ!!」

「何!?」

 覚脳鬼はあり得ないスピードで巨大包丁を振るった!ただがむしゃらに、目の前にあるものを全て壊すように……。

「この動き……ただのピースプレイヤーじゃないのか!?」

「せや!その覚脳鬼は悪名高き『AMOU』製や!ピースプレイヤーが精製したクスリを装着者に打ち込んで、身体能力を限界まで強化させる!」

「それっていいのか!?」

「良くないわ!あそこに勤めている奴も、商品も買う奴もイカれとる!倫理観を投げ捨てとるんや!!」

 ジョゼットはケントの言っていることが、頭だけでなく心で理解できた。

 だって目の前にまさしくイカれてる奴がいるから。

「グワアァァァァァァッ!!」


ドゴオォッ!ドゴオォッ!ドゴオォォォォォォォォォォン!!


「くっ!?」

 覚脳鬼は両手の包丁でまるで畑を耕すようにアスファルトを砕き続けた。圧倒的な威力と速度に手負いのジョゼットは防戦一方、反撃を挟む隙を見出だせない。

「まさかターヴィの前座にこんなに苦戦することになるとはな……!」

「苦戦?そうはならないと思いますよ」

「……えっ?」

 ブラーヴ改と覚脳鬼の間に桃色の影が割り込んだ。だからといって包丁は止まることなく振り下ろされる……はずだったが。

「グワアァァァァァァッ!!」


ガキン!!


「グワア!?」

 その桃色の影に刃を掴まれ、あっさりと止められる。当然、そんなハチャメチャな真似ができるピンクと言えば……。

「「ドラグゼオ!!」」

「お待たせしました」

 桃色の炎竜がカムバック!緑の処刑人との決着のために遥か彼方から舞い戻って来たのだ!

「すいません、ずいぶんと迷惑かけちゃったみたいで」

「まったくだ……責任取ってくれよ」

「もちろんです」

 トモルが感情を昂らせると、それに呼応するようにドラグゼオの手のひらが熱を発した。それはそれは凄まじい熱を……。


ドロリ……カァン!!


「グワァッ!!?」

 巨大包丁は溶かされ、そして真っ二つに折れて、地面に落ち、甲高い音を鳴らした。

「グワアァァァァァァッ!!」

 武器を失った鬼はならばと拳を振りかぶる!だが……。

「遅い」


ゴンッ!!


「――ぐっ!!?」

 拳が撃ち下ろされる前にドラグゼオのハイキックが炸裂!ドーピングできまりまくりのフローロヴィチの脳ミソと身体を一撃で分断した。

「フローロヴィチさん!!?」

「人の心配してる場合ですか?」

「――ッ!?」

 一息つく間もなく、ドラグゼオは刃風の懐に潜り込む!

「くそッ!!」

 しかし、アニーもまたすぐに気持ちを切り替え、刀で斬りかかる!

「ガンドラグ、バーナーブレード展開」


ジュッ!!カランカラン……


「――なっ!?」

 ドラグゼオは召喚した銃のグリップから桃色の炎を吹き出し、刀を受け止める……どころか焼き切ってしまった!この炎の刃の前では普通の刀では斬り結ぶことも不可能なのだ。

「前座はご退場の時間だよ」


ドゴッ!!


「――がはっ!!?」

 斬撃の勢いを利用し、そのまま一回転!炎竜は後ろ回し蹴りを放つ!それをがら空きの腹に食らった刃風は夜の闇に吹っ飛んでいった。

「よくも兄さんを!!」


バキュン!!


 界雷は兄の仇を討つためにライフルを発射!

「その程度じゃ、ドラグゼオの炎は消せないよ」


ボォン!!


 対するドラグゼオも桃色の炎を凝縮し、ガンドラグから撃ち出す!

 正面からぶつかり合おうとする二つの弾丸……果たして勝敗は如何に……。


ジュッ!!


「何ぃ!?」

 勝ったのはビビッドピンクの炎弾だった!というより勝負にすらならなかった。界雷の放った弾は炎弾に触れるや否や蒸発し、軌道すら変えられない!

 そして炎の弾丸はそのまま……。


ジュワッ!!


 ライフルの銃口から侵入!砲身を溶かしながら進んで行き……。


ズギャン!!


「――ぐわっ!!?」

 そのままライフルを縦断!界雷の肩口の装甲を抉り取った。

「これで一丁……いや三丁上がりだね。フッ!」

 ドラグゼオはガンドラグをくるくると回しながら、銃口を口元によせると息を吹きかけるような仕草を見せた。

「すごっ……って!見とれてる場合か!元はと言えばお前が明後日の方向に飛んでいったからやろ!!」

 ケントは頭をブンブンと振り、トモルとドラグゼオをカッコいいと不覚にも思ってしまった記憶を追い出すと、文句を言いながらずかずかと詰め寄って行った。

「まぁまぁ、結果オーライってことで良くないですか?」

「良くないわ!ぶっつけ本番で新技なんて試すなや!」

「でも思いついちゃったわけですし」

「わけですし……じゃないわ!これから大一番やってのに、ほんま……!」

「むしろ大一番だから手札を増やしておかないと駄目なんじゃないですか?少しでもあなたに勝つ確率を上げておかないと……ねぇ?」

「あぁ!?……って、おい!?」

「来たか……!!」

 ケントがドラグゼオが自分から外した視線を追っていくと、そこにはトラックからゆっくりと降りて来る細身の優男がいた。

 彼こそが今回のミッションの最大の障壁であり、トモル、ケント、ジョゼット三人のリベンジ相手である。

「何の話かいまいち掴めないが……とりあえずしつこい男はモテないぞ、ピンクドラゴン……!」

「モテるモテないとか考える人間らしい心があるんですね。ちょっと安心しましたよ、キャプテングリーン……!!」


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