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No Name's Trust  作者: 大道福丸
本編
33/100

真夜中の強襲

 ドラグゼオとの戦いから一週間、トモル達は大型輸送ヘリに乗り、漆黒の闇に包まれた真夜中のメウの空を飛んでいた。

 もちろん観光のためじゃない……奪われた神器を今度こそ取り戻すためにだ!

「注目!最後の確認をするわよ」

 メルヤミは手をパンパンと叩きながら、広い荷台の中心に立った。壁際に座っているトモル達と直立不動のメイド隊の視線が彼女一人に集中する。

「これからあたし達はディオ教第二十支部のトラックを上空から強襲します。このトラックは本部にあたし達から奪ったリーヨのマントを運ぶためのもの。この情報を手に入れてくれた星鈴に拍手!」

 言われるがまま星鈴以外のヘリの中にいる人達はパチパチと手を叩いた。それに対し星鈴は……。

「恐縮です」

 顔色一つ変えずに、いつも通りのお辞儀で返す。

「本当にありがとうね、星鈴。えーとそれで、神器を取り戻すためにもまずトラックの足止めをしなければいけないのだけど、そのために用意した武器はジョゼットとジャニスに任せるわ」

「はい」

「おう、任せておいてくれ」

 返事をした二人の傍らにはバズーカ砲のようなものが置かれている。

「気付かれずに、足止めまで完了するのが理想だけど、そうではなく、早々に奇襲を察知された場合、残りのメンバーは二人を守る盾の役よ。あたしを含めてね」

「わかっとる、わかっとる」

 ケントはこの最終確認がめんどくさいようでぶっきらぼうに手を振った。

「そして全てうまくいってトラックを止めたら、きっと“彼”が出てくるはずよ。その時は……頼むわよ」

「……はい……」

 メルヤミの力強い眼差しで見つめられたトモルは弱々しく頷いた。彼としては作戦のことよりもっと気になることがあるのだ……。

「以上で最終確認は終わり……質問がある人は?」

「はい!」

 トモルはもやもやを晴らすためにピンと真っ直ぐ手を伸ばした。

「どうしたの、トモル・ラブザ?まさかこの期に及んで怖じ気づいたわけじゃないでしょうね?」

「いえ、やる気は満々です」

「なら、作戦に不備でも見つけた?」

「いえ、作戦には文句はないです」

「なら、トイレ?」

「いえ、ちゃんとヘリに乗る前に済ませて来ました」

「じゃあ、あたしやメイド隊が参加することに何か?」

「はい、そのことでちょっと……」

 メルヤミは思わずため息をついた。

「大丈夫よ。ゾーイ達はあたし、もといウレウディオスを守るために日々厳しい鍛練をしているから。あたしも暇を見てジョゼットに鍛えてもらってるし。ねぇ?」

 同意を求められたジョゼットは肯定のために首を縦に振った。

「あぁ、お嬢様のことは私が保証するよ。なんだったら、手負いの私よりも戦力になるはずだ」

「ということらしいわ……!」

 メルヤミは「どうだ!」と言わんばかりに胸を張り、鼻息を荒くした。

 一方のトモルの顔は一向に晴れない。彼が聞きたいのはそのことではないのだ。

「お嬢様の実力は理解できました……できましたけど……」

「何?もしかして今まで前線に立とうとしなかったあたし達が今回のミッションに参加することを不思議に思っているの?」

「それはまぁ……」

「さすがにあたしもちょっと責任を感じているのよ。あなた達を焚き付けて、ひどい目に合わせちゃったことを。そもそも本当はあたし自ら遺跡を攻略したかったのに、お父様が“危ないからやめなさい”って!いつまでも子供扱いして……!」

 メルヤミは悔しさから爪を噛む。その仕草がまさに子供のようだが、トモルの聞きたいことはやはりそれではない。

「メルヤミさんのお気持ちはお察ししますが、ぼくがお聞きしたいのは別のことでして……」

「……何よ?まどろっこしいわね。はっきり言いなさい」

 苛立ち始めたメルヤミに、トモルは意を決して口を開いた。

「あの……メルヤミお嬢様は何でぼくのトゥレイターを首からお下げになっているのでしょうか?」

 指摘した通り、彼女の首にかけられているのは、これまでトモルと苦楽を共にしてきたタグ、待機状態のトゥレイターであった。

 メルヤミはそれを摘んで自分の顔の前まで上げると、不思議そうに首を傾げた。

「何でって、これいいマシンなんでしょ?」

「はい、ですからメンテナンスのためにウレウディオスに預けてあったのですが……」

「特に問題はなかったわよ」

「でしたら返していただきたいのですが……」

「あなた新しいドラグ……?」

「ドラグゼオ」

「そのドラグゼオを今回は使うのでしょう?」

「はい」

「ならもったいないじゃない。このトゥレイターを、せっかくの強力なピースプレイヤーをベンチにおいておくなんて」

「だからメルヤミさんが使うと……?」

「何か問題でも?」

「いや、どう考えても……」

「何か問題でも?」

「いや、あの、だから……」

「何か問題でも?」

「……何も問題ありません」

「ならば結構」

 メルヤミの有無を言わせない圧力にトモルは屈してしまった。自分の情けなさにガックリと肩を落とす。

「済まない……トゥレイター……こんなぼくを許しておくれ……」

「まぁまぁ、ジョゼットさんのお墨付きだし、トゥレイターもべっぴんさんに奪わ……じゃなくて貰われて嬉しいんじゃないか?」

 アピオンは小さな手でトモルの肩をポンポンと叩き、慰めた。

「それはそれで寂しい……」

「あぁ……じゃあこう考えようぜ!今回の件を含めてお嬢様のご機嫌をガシガシ取っていって、そのまま結婚!ウレウディオス財団の力を使って、ラブザ家親子二代の夢、お家再興を果たす!」

「……ぼくとメルヤミさんが結婚するなら、ぼくが婿入りして、ラブザの名は完全消滅することになると思うよ」

「そっか……いい案だと思ったんだが……やっぱ駄目か!なはは!」

 アピオンはあっけらかんに笑いながら、空中を一回転した。彼は今回はお留守番なのでのんきなものだ。

『ターゲット、確認できました』

「「「!!!」」」

 スピーカーから操縦士の声が聞こえた瞬間、命を懸けた作戦前とは思えなかった緩い空気が一気に張り詰めた。いや、むしろこの時のために、プロとして皆あえてリラックスして過ごすように努めていたのだ。

「さて……時間よ」

「はい。ヴァルターリア装着」

「「「装着します」」」

 ゾーイの声に従い、メイド隊はブローチの真の姿を解放。お揃いの白と黒のモノトーンの機械鎧を装着した!

「あたしも……トゥレイター502起動!」

 続いて、彼女達の主人であるメルヤミがトモルから奪っ……借りているトゥレイターを身に纏う!

「さぁて……お前となら、どこまで奴に食らいつけるか……ブラーヴ・ソルダ改!」

 腕輪は一瞬で青と黒の装甲に姿を変え、屈強なジョゼット・アイメスの肉体を覆い尽くした!

「こういう時のために高い金を払ったんや……きちんと働けよ!『ゲイム・L』!!」

 立ち上がりながら、首から下げたタグを指で弾くと、ケント・ドキは翼を持ったピースプレイヤーで完全武装する!

 そして……。

「初陣にしては、困難過ぎるミッションだけど、君となら……熱く行こう!ドラグゼオ!!」

 トモル・ラブザが首にかけた十字架を握りながら、高らかに名前を叫ぶと、彼の家の家紋を彷彿とさせる桃色の炎竜が顕現した!

 全員戦闘状態に移行完了!さらにドラグゼオとゲイム以外はパラシュートを背負う。

 準備ができたことを確認するとヘリのハッチが開き、漆黒の闇が皆の前に姿を現した。そして、その視線の先にトラックが三台ほど連なって走っている。

「あれがターゲットですね」

「警備が厳重そうだな」

「そんなことは承知の上でしょう」

「ええ、問題は数よりも質……最高品質のあの人だけです」

 トモルはターヴィとの苦い記憶を思い出し、喉を鳴らした。

「なんや、緊張しとんのか?」

「そんなんじゃ……とは言い切れないですね」

「素直でよろしい!安心せえ!処刑人だかなんだか知らんが、ワイが今度こそぶっ倒してやるわ!」

「私もいる。今回は慣れ親しんだブラーヴだし、なんとかなるさ」

「はい……!」

 仲間の気遣いを受け、トモルの心が温かくなる。それに呼応するようにドラグゼオの桃と黒の装甲も熱を帯びていき、緑色の眼が輝きを増す。

「はっ!やる気満々やな!だけども先陣は『ローレンス・エアロ』製の飛行型ピースプレイヤー、ゲイム・Lのもんや!!」

 真っ先に飛び出したのはケントであった!ヘリの後ろから、その翼を広げ、夜空に羽ばたく!

「ぼくも行きます!」

「わたくし達も参りましょうか」

「「「はい」」」

「ヘリは任せたぞ、アピオン!」

「待っていなさい、リーヨのマント!!」

 ケントに続き、仲間達もどんどんヘリから飛び降りていく!身体を器用に動かし、闇夜を切り裂きながら真っ直ぐトラックへと向かう。

「メルヤミさんが言ってたみたいに、このまま気付かれずに接近できるといいんですけど……」

「そやな……って、おい!お前パラシュートは!?」

 ケントは目を疑った。あろうことか隣に来たドラグゼオはパラシュートを背負ってなかったのだ。

「パラシュートって、ケントさんも着けてないじゃないですか」

「ワイはええねん!ゲイムは飛べるさかいな!お前のマシンはちゃうやろ!?」

 慌てふためくケントに対して、トモルは桃色の仮面の下で不敵な笑みを浮かべた。

「実はケントさんのそのピースプレイヤーが飛べるって聞いて、ちょっと思いついたことがあるんです」

「思いついた?まさか……!?」

「ぶっつけ本番ですが、ドラグゼオなら!」

 愛機を信じる心がエネルギーに変換され、炎竜の足裏と背中に集中する。そして……。

「飛べ!ドラグゼオ!!」


ボオォォォォォォォッ!!


 ドラグゼオは背中と足裏から炎を凄まじい勢いで吹き出し、上昇した!

「やった!できた!」

「マジか!?マジで飛べるんか!?」

「ええ!ドラグゼオは飛べるんです!!」

 興奮するトモル!しかし……。

「……飛べるのはええけど、お前どこに行くつもりや?」

「え?あれえ~!!?」


ボオォォォォォォォッ!!


 ドラグゼオは制御を失い、桃色の炎で夜空に無軌道な軌跡を描きながら、遥か彼方へと消えて行った……。

「あのアホがあぁぁぁぁぁっ!!!」


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