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No Name's Trust  作者: 大道福丸
本編
31/100

嘆きの炎竜

 湿っていた洞窟内の空気は一気に乾いていき、それに比例するように緊張感も加速度的に上がっていった。

「なんつう炎や!?あっ!炎の亡霊が住む森で“炎霊の森”か!!」

「なるほど!」

「“ピュニス”の加護を受けたマシンか……厄介だな」

「ピュ……なんて?」

「ピュニスだ。私の生まれ故郷ではコアストーンや特級ピースプレイヤーの分類をする時、一般的な属性ではなく、対応する神から加護を与えられたと形容する。炎属性は“情熱の神ピュニスの加護”、水属性は“慈愛の神ヴァドールの加護”、そして風属性は……」

「ええい!もうええっちゅうねん!トモルの奴動くで!!」

 ケントの指摘通り、トモルは首から下げたタグを握りながら走り出していた。

「さぁ、行くよ!トゥレイター502!!」

 一瞬、眩い光に包まれたと思ったら、次の瞬間トモルはドラグゼオと同じピンクとブラックの機械鎧に身を包んでいた!そして勢いそのままに拳を振り上げる!

「まずは……小細工無しで!!」

「グルオォォォォッ!!」

 射程内に入るや否や拳を撃ち下ろすと、それに合わせるかのように桃色の竜もパンチを繰り出した!


ブゥン!!


「――ッ!?」

 結果は両者空振り。お互いにうまいこと紙一重で避けて、ダメージは……いや。


ジュウゥゥゥ……


 トゥレイターの装甲が溶けていた……白い煙を上げながら溶解していた!

「くっ!?さすが……!」

「グルオォォォォォォォォッ!!」

 いやまだまだこんなもんじゃないとドラグゼオは間髪入れずさらにアッパーカットを放つ!


ブゥン!ジュウゥゥゥ!!


「ぐうぅ……!?」

 これもトモルがギリギリで反応したため空振りで終わったが、拳の軌跡に合わせて胴体に一筋の焼け爛れた跡が刻まれる!

 たまらずトゥレイターは後退し、再び二つのピンクは距離を取ってにらみ合いの振り出しに戻った。

「当たってのか……?」

「いや……ワイの目には外したように見えたが……」

「だったらアレはどういうことなんだよ!?」

「多分、ドラグゼオの拳は超高温になっているのだろう。だから触れなくてもトゥレイター……並みのピースプレイヤーの装甲なら触れずに溶かすことができるのだろう……!」

「それじゃあトモルの方が圧倒的に不利じゃねぇかよ!?」

「そんなことはあいつもやる前からわかってるはずやで……」

 浮き足立つギャラリーに対し、トモルは確かに冷静だった。むしろ想定内過ぎて、笑いそうになっていた。

(あれから時間が経って、弱体化してたらとか期待してたんだけど……見事に裏切ってくれるね。前は今みたいに空振りパンチで装甲が溶けたのを見て、びびって逃げちゃったんだよな……だけど!今日は!!)

 トゥレイターは改めて覚悟を固めると、腕を伸ばした!あれを呼び出す気だ!

「来い!ガンドラグR!!」

 名前を呼ばれるとトゥレイターの手のひらの中に愛銃兼愛剣が召喚される。

「グルオォォォッ!!」

 そしてそれに対抗するようにドラグゼオもまた武器を召喚する。ガンドラグRによく似た武器を……。

「あいつもガンドラグを持ってんのか!?」

「というよりトモルの話から推察するに、多分あっちのドラグゼオが持っとる方がオリジナルで、トゥレイターが持っているのは模造品やな」

「ガンドラグRのRは“レプリカ”のRだったわけか……」

 ケント達の推察通り、それはオリジナルのガンドラグだった。その姿を目の当たりにし、トモルは僅かに身震いした。

(前回は見ることができなかった本物のガンドラグ……父さんがドラグゼオの性能を最大限発揮するために作り出した遠近両用のマルチウェポン……!!)

 武器を手にし、ある意味完全体となったドラグゼオに感動すら覚えた……そう、トモルは恐怖ではなく、感動で震えたのだ!

「そうだ……もっと見せてくれ、ドラグゼオ……お前の力を……!!」

「グルオォォッ……」

「そしてお前もぼくと一緒に困難なミッションをクリアしてきた自信があるというなら……意地を見せろ!トゥレイター!!」

 咆哮と共にトゥレイターは引き金を引きながら、十字を切った!

「十字葬弾!!」


ババババババババババババババッ!!


 模造品から放たれた光の弾丸は十字架の形となり、敵を断罪するために空気を切り裂きながら進んでいく!しかし……。

「グルオォォォォォォォォッ!!」


ボボボボボボボボボボボボボボッ!!


「――何!?」

 ドラグゼオもまたオリジナルのガンドラグで十字を切った!発射されるのは桃色の炎の銃弾だ!

 その二つの十字架が両者の間でぶつかり合う!


ボボボボボボボボボボボボボボッ!!


「――ッ!!?」

 勝ったのはドラグゼオの方だった。桃色の炎は模造品から放たれた弾丸をあっさり打ち消し、そのままトゥレイターに向かう。

「よくも!だが、当たりはしない!!」

 トゥレイターは炎の十字架を回避する……だけでは飽き足らず、そのまま十字架をくぐり抜けて桃色の竜に突撃した。

「対抗して同質の技を放ったのがミスだったね!自分の技なら対処方もわかっている!!」

 高揚する心に呼応するように、レプリカのグリップの底から刃が伸びる。これでトモル・ラブザ、もう一つの必殺技を放つ準備が整った!

「エクススラッシュ!!」

 今度は刃でXを描く……が。

「グルオォォッ……!!」


ジュウゥゥゥ!!


 攻撃の刹那、ドラグゼオが体表の温度を限界まで上げた。その結果……。

「ブレードが……!?」

 ガンドラグRから伸びたブレードはドラグゼオに触れた……正確には触れる少し前から熱でチョコレートのように溶かされてしまった。つまり必殺技はまたまた不発に終わったのだ。

(展開スピードを上げるため、耐久力を犠牲にしたとしても、まさか触れることさえできないとは……)

 あまりのことに唖然とするトモル。そこに……。

「ボーッとしてんな!ドラグゼオが来とるぞ!!」

「――ッ!?」

「グルオォォォォォォォォッ!!」

 仲間の声が届く!我に返ったトモルが目にしたのは自分と同じようにガンドラグのグリップから、しかしレプリカとは違い刃ではなくバーナーのように桃色の炎を吹き出し、下から斬り上げようとしている桃色の竜の姿であった!


ジュウゥゥゥ!!


「危……なっ!?」

 まさに間一髪、紙一重でトゥレイターは炎の斬撃を躱した……躱したが、やはり触れなくても熱によって装甲は溶かされ、先ほどのパンチの分と合わせて、逆にXを刻まれてしまう。

「この……!」

「グルオォォォォォォォォッ!!」


ジュウ!ジュウ!ジュウゥゥゥ!!


「しつこい!!」

 体勢を立て直す暇など与えないと、ドラグゼオは右に左に、上から下から炎の刃で斬撃を放ち続ける。トゥレイターはそれを身体を溶かされながらも、かろうじて回避するだけで精一杯だった。

(力が入り過ぎていない理想的なフォームだ……まっ、力を入れるはずもないけど。なんてったって少しでも触れれば、ぼくとトゥレイターをこの世から抹消できるんだから……!)


ジュウゥゥゥ!!


「くっ!?」

 その通りだと肯定するようにまた痛ましい焼け爛れた跡が愛機に刻まれた。

(あっちの通常攻撃はぼくとトゥレイターにとっては一撃必殺。対して、ぼくの渾身の必殺技は通じない……詰んでない、これ?)

 自分が勝利しているビジョンはまったく描けなかった。それでも僅かな光を探して頭をフル回転させる。

(勝機はないなんてことはないはずだ……!きっとどこかに逆転の糸口がある……!必ずドラグゼオを倒して、ターヴィさんに……)


ドゴッ!!


「――がはっ!?」

 口の中から酸素が追い出され、自然と身体が“く”の字に曲がった。少し遅れて、回避運動にカウンターを合わされて、自分はドラグゼオの膝蹴りを腹に食らったと理解した。

(が、ガンドラグばかりに気を取られていたか……!他にも手や足があるなんて当然のことを忘れていた……!)

「グルオォォォォォォォォッ!!」


ジュウ!ドゴッ!ガギッ!バゴッ!ジュウゥゥゥ!!


「――っうぅ!?」

 そこからは今まで以上に一方的な蹂躙が始まった。炎の剣を避けても、拳と蹴りが飛んで来て、トゥレイターの装甲を砕き、中身のトモルにダメージを与える。

(あのバーナーソードに当たっちゃいけないのは絶対だ……だが、それに注意を向けていると、他の攻撃を食らってしまう……!ガンドラグにエネルギーを集中しているせいか、最初の時のように“熱”を持ってないのが、せめてもの幸いだが、このままだと嬲り殺し……)


コツ……


「………え?」

 激闘の終わりとは得てして呆気ないものだったりするものである。

 小さな……本当に小さな地面のとっかかりに踵を引っかけ、トゥレイターは尻餅をついてしまったのだ。それが意味するものは……。

「グルオォォォッ……!」

(あっ、ぼく死ぬ)

 ドラグゼオに銃口を突き付けられ、トモルは死を覚悟した。不思議なものでその時が来たとなると、妙に落ち着いている自分がいた。

(あ~あ、まさか最後は小さな石に躓いて終わりとかぼくの人生って一体……いや、ある意味一番トモル・ラブザらしい最期か。まっ、なんだかんだ言って思い返せば楽しかった思い出の方が多いし、いい人生だったってことでいいんじゃないかな……)

 今渡の際に自分の人生を総括する。

 その間にもガンドラグの銃口には桃色の炎が凝縮され、あとは引き金を引くだけ……。

 桃色の竜はゆっくりと確実に人差し指に力を込めていく……。

「トモル!!」

「「「アピオン!!?」」」

「グル……!?」

 相棒と違い妖精は諦めていなかった!両手を広げ、盾になるようにガンドラグの前に立ち塞がる!

 ドラグゼオも一瞬驚いたような素振りを見せたが、もう指を止めることはできない!

「だめ……!」


ボンッ!!ボオォォォォォォォッ!!


 トモルが言葉を言い終わる前に炎の弾丸が発射された!それは見事に妖精に命中……。

 アピオンはその小さな身体を桃色の炎で包み込まれてしまった……。

「ア、アピオォォオン!!?」

 トモルの悲痛な叫びが洞窟内にこだました……。


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