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No Name's Trust  作者: 大道福丸
本編
20/100

地の遺跡①

「こっちこっち!」

 妖精の手招きに導かれるまま、三人はピラミッドの入口と思われる場所にたどり着いた。

「改めてお手柄だぜ、アピオン」

「へへん!」

 アピオンは照れくさそうに、鼻の下を人差し指で擦った。

「中は……ここからだと真っ暗でよく見えませんね……」

「見えようが見えまいが、俺達は進むだけさ」

 先陣を切ったのはダブル・フェイス、躊躇うことなく、ピラミッドへ入っていく。

「勇気ありますね」

「ただの考え無しの無鉄砲だろ」

「そうは言うけど、ノーの旦那は何か考えがあるのかよ?」

「……ふん」

 続いて人のことを言えないノードゥス、そしてトモルとアピオンも遺跡に足を踏み入れて行った。

「入って見ると、薄暗いが何も見えないってレベルじゃないな」

「ええ、それに道は真っ直ぐ一本道ですし、迷う心配はなさそうです」

 一行はそのまま道なりに進んで行くと、大きな広間に到着した。

「ここは……」


ボウッ!!


「!?」

 広間に入った瞬間、壁の松明に一斉に火がつき、先ほどまでと打って変わって昼間のように明るくなった。

「出迎えてくれているんですかね?」

「……らしいぜ。ほら」

 向かいの壁がゴゴゴと音を立てて開く。そしてその奥からミイラを彷彿とさせる布にぐるぐる巻きにされた人型の機械が四体現れた。

「料理を振る舞いに来てくれたわけではなさそうだな」

「ですね」

 ノードゥスとトモルは背負っていた荷物を下ろすと、傭兵の前に出た。

「おうおう、やる気だね」

「お前がやる気なさ過ぎなんだ……!」

「まぁまぁ。ダブさん、ぼく達のリュックを頼みます」

「あいよ。命を……懸けることまでしないが、きっちり守ってやるよ」

「ふん!命どうこうなんて話にはならないさ……あの程度の奴ら相手に俺とトモルが苦戦するはずない!」

「だろうな」

「ウウーッ……」

 今のノードゥスの言葉が癪に触ったのか、ミイラの一体が両腕をノードゥスもといガリュネムレスに向けてきた。すると……。

「ウウーッ!!」


バシュウン!!


 身体に巻きついていた布がもの凄い勢いで伸びる!先端も硬質化しているようで、まともに食らったらガリュネムレスでも一たまりもない!まぁ、食らわないけど。

「GRマント&ブレード」

 黒き竜はミイラに向かって跳躍しながら、数ある武装の中で一番信頼しているものを召喚した。

 トンファーから刃が伸び、まるで腕全体が剣となったように見えるガリュネムレスは自らを両断しようとした布の間を縫い、攻撃してきたミイラとその隣のもう一体の間を通り抜けた。


ザンッ!!


「――ウウッ!?」「ウウーッ!!?」

 着地すると同時にミイラの首が二つ、ゴトリと床に落ちた。すれ違い様のほんの一瞬、目にも止まらぬスピードで切り落としたのだ。

「首を落としても油断するな……だったな」

 黒竜はマントを翻しながら、振り返るとその額部にあったクリスタル状のパーツにエネルギーを集めた。そして……。

「念には念を入れさせてもらう」


ビーッ!ビーッ!!


「「――!?」」

 それをビームとして、落ちた首と身体に放つ!ミイラはだめ押しに眉間と心臓を貫かれ、完全に沈黙した。

「やっぱりすごいな、ノーさんは。ぼくも……ぼく達も負けてられないね、トゥレイター502!!」

 カーキからピンクに!観戦していたトモルも移動用のデザートドッグから、戦闘用であり、彼の本来の愛機であるトゥレイターに装着し直して残りのミイラに突撃した!

「ウウーッ!!」「ウーッ!!」

 負けじと迎撃のためにミイラは布を伸ばす!しかし……。

「そんなものでトゥレイターは止められない!ガンドラグR!!」


ザンザザザザンッ!!


 姿勢を低くし、布の下を掻い潜ったと思ったら、トゥレイターはグリップからブレードを展開したガンドラグRを片手に回転!布を細切れにしながら進んで行く!

「ウウーッ!!」

 あっという間に懐に潜り込まれたミイラは拳でカウンターを狙う!だが……。

「遅い!」

 あっさりとそれを躱し、拳は空を切る!さらにそのまま背後を取ったトゥレイターは蹴りを入れる!


ガンッ!!


「――ウッ!?」「ウウーッ!?」

 吹き飛ばされたミイラはもう一体と激突し、無様に重なり合って地面に突っ伏す。

「ぼくもノーさんに倣って……容赦はしない、十字葬弾」


ババババババババババババッ!!


「「――!!?」」

 二体まとめて十字架を刻まれたミイラは二度と動くことはなかった。

「さすがさすが!お二人さん強いね」

「ほんとほんと!すげえな!」

 パチパチと拍手をしながら、一先ず戦いを終えた二人と合流するリュックを三つ担いだ傭兵と妖精。アピオンはともかくダブル・フェイスは嫌味を言っているようにしか見えない。

「拍手する暇があるなら、お前も戦え」

「俺は今回はコーチに徹するって言ったろ?」

「ちっ!」

「荷物ありがとうございます」

 預けたリュックを受け取ろうと、手を伸ばしたトモルだったが、傭兵はそれには応じなかった。

「このピラミッドの中では荷物は俺が預かっておく。どうせすぐにまた戦闘になるだろうしな」

「ですよね。完全に前座の様子見って感じ……」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


「……言ってる側から……」

 地響きを上げながら、天井から階段が降りてくる。まるで登れるもんなら登って来いと挑発するように、ゆっくりと。

「このピラミッドを作った奴は所謂ゲーム脳って奴だな。フロアの敵を全て倒すと次のステージへ……多分、それの繰り返しだな」

「本当、ゲームですね。どういうつもりでそんな風に……」

「俺としてはそれぐらい単純な方がわかり易くていいがな」

「よくねぇよ!!」

 突如としてアピオンの悲痛な叫びが、ピラミッド中に響き渡った。

「アピオン……急に一体……?」

「わからねぇのかよ……ダブのおっちゃんの言う通りだとしたら……!」

「……したら?」

「おれっちの役目がないじゃんかよ!!せっかくの感知能力が宝の持ち腐れじゃんかよ!!」

 妖精は空中で地団駄を踏んだ!その様子を見た三人は背を向け、階段に歩き出す。

「行くか」

「行きましょう行きましょう」

「あぁ、行こう」

「ま、待てよ!おれっちにとっては死活問題なんだってば!!」

 一階フロアをクリアした一行は、続いて二階へ。そこで待ち受けていたのは……。

「「「ウウーッ……」」」

「ミイラの数が倍に増えただけか」

「雑魚がいくら増えたところで、ぼく達は止められない!」

「有象無象など一気に殲滅してやろう!」

「はい!!」

 二階に待ち構えていた八体のミイラはあっさりと二人の戦士に屠られた。

 そして、続く三階は……。

「ガアァァァァァァァッ!!」

「ギギーッ!!」

「四足歩行型と飛行型のミイラか……だからなんだと言う感じだな」

「ええ、この手のオリジンズの相手は慣れっこです」

 四足歩行型三体、飛行型三体もいとも容易く撃破!

 さらに歩を進め、四階は……。

「「「ウウーッ……」」」

「「「ガアァァァァァァァッ!!」」」

「「「ギギーッ!!」」」

「今までの階の奴らをまとめて相手にしろということか……」

「これはさすがにきつい……というより、めんどいって言った方が適切ですかね」

「あぁ、面倒なだけだ。各個撃破して行けば依然問題なし!」

 まさに死屍累々、古代のミイラメカの残骸が山を作った。四階クリア。

 そうして迎えた五階フロア……。

「ゴゴゴッ」

「ガガガッ!!」

「……今までと毛色が違い過ぎないか?」

「……ですね」

 五階を守っていたのはミイラより一回り大きく、足がない代わりに浮いている一つ目の巨大メカ二体であった。

 また二体とも微妙に形状が異なり、一体は巨大な拳、一体は両腕がガトリング砲になっていた。

「このピラミッドの作者がゲーム脳だとしたら、こいつらは……」

「ここのボスってことですね。ポイド海溝でベケの盾を守っていた奴とも雰囲気が似てますし」

「……盾を手に入れたのは、お前だったのか?」

「……あれ?言ってませんでした?」

「白々しい……アピオンの奴にまで口止めしておいて……」

「いやぁ~、たまたまそういう話題にならなかっただけですよ~」

 当然、あえてトモルは言わなかったのだ。言うことで取り分が変動したり、余計な期待を背負わされることを嫌って。しかし、最後の最後で油断して口を滑らしてしまった。誤魔化そうとしても、時すでに遅しだ。

「安心しろ。その情報を開示するリスクは理解できる。別に責めるつもりはない」

「そう言っていただけると幸いです」

「ただ帰り道ではその話、詳しく聞かせてくれよ」

「はい。そうするためにも……」

「こいつらを始末しないとな……!!」

 二人は構えを取った。このピラミッドに入ってから……否、このイラガ砂漠に入ってから初めて構えと呼べる構えを取ったのだ。目の前の古代メカはそれだけの相手だと認めたのだ。

「ガガガッ!!」

「来るぞ!!」

「はい!」

「ガッ!!!」


ボボボボボボボボボボボボボッ!!


 先手を取ったのはガトリング砲を持ったメカだった。砲口を高速回転しながら、無数の火球を発射した!

「ノーさん!ガトリングはぼくが!ナックルの方はお任せします!」

「了解した!」

「横一文字葬弾!!」


ドドドドドドドドドドドドゴォン!!!


 ガンドラグRから横一線に放たれた光の弾丸が火球を迎撃!爆音が響き渡り、両者の間に分厚い煙のカーテンが出現する。

「はあッ!!」

 そのカーテンを切り裂き、黒き竜ガリュネムレスが巨大な拳を持つメカに突撃する!

「喰らえ!!」

 勢いそのままにブレードを撃ち下ろす!しかし……。


ガギィィィィン!!


「――ッ!?」

 自慢の腕でガードされる。その硬さに刃は一撃で刃こぼれを起こし、逆にノードゥスの腕を衝撃で痺れさせる。

「ゴゴゴッ!!」


ゴウゥゥゥゥン!!


「ちっ!?」

 さらに腕を伸ばし、胴体を高速回転させる!巨大な独楽……いや、竜巻と化したメカにたまらずガリュネムレスは後退する。

(分厚い装甲に加えて、あの高速回転……接近することもままならなければ、半端な遠距離攻撃も通じないだろうな……ならば!)

 ガリュネムレスもブレードのついた腕を伸ばし、身体を捻った。彼の最大の必殺技の構えだ!だが……。

「回転には回転……」

「ゴゴゴッ!!」

「――!?」


ビーッ!!


「……くっ!?」

 古代メカは一つ目からビームを放つ!回避のためにガリュネムレスは必殺技を中断せざるを得ない。

(力任せに暴れ回るだけかと思ったが、賢いじゃないか……!潰さなければいけないところをわかっている……月光螺旋撃は使えないか……となると、残された手は……あれしかないか!)

 一瞬の躊躇いがあったが、ノードゥスはそれを振り払い、覚悟を決めた。その想いが罪と共に受け継いだもう一つの愛機を目覚めさせる。

「パワーにはパワーだ、『シュテネムレス』!!」

 黒き竜は紫の鬼へと姿を変えた。ガリュネムレスよりも逞しいボディー、前に突き出した二本の角、その姿は紛うことなき鬼そのものだった。

「まずは……こいつで!!」


ボオッ!!


 手始めに紫の鬼は口から火球を古代メカに向かって吐き出した!

「ゴゴゴ!」


ドゴォン!


 けれど、高速回転する巨大な拳に弾き飛ばされる。しかし、それは想定通り。シュテネムレスは既に古代メカの足下までやって来ていた。

「今度こそ……喰らえ!!」

 巨体を浮かせている機関に拳を撃ち込む!


スカッ……


「――ッ!?」

 だが、古代メカはエネルギーを噴射して、回避!鬼の側面に回り込み……。

「ゴゴゴッ!!」


ゴオォォォォン!!


 逆に回転パンチを食らわしてやる!その凄まじい威力にシュテネムレスは吹っ飛び、壁に激突し、大きなクレーターを作った……が。

(……ダメージはない。シュテンは攻撃力だけでなく、防御力もガリュウより上だ。この程度なんてことはない)

 派手さに反してノードゥスはまったくダメージを受けていなかった……肉体的には。

(シュテンは最高のマシンだ……それは間違いない。問題は俺だ……俺がこいつのパワーに振り回され、使いこなせていない……!俺がちゃんとしていれば、攻撃は当たっていたし、回避だってできたはずだ……!)

 精神的には今の攻防で大きなダメージを受けていた。むしろ溜まっていた自分への鬱憤が噴き出したと言った方が正確か。

 このシュテネムレスとの不協和音がノードゥスがダブル・フェイスの誘いに乗った大きな理由の一つであった。

(この旅で何かヒントを得られるかと思ったが、むしろ自分の無力さを再認識させられるとは……ガリュウの攻撃は通じないが、シュテンでは当てることもままならないスピード……この難敵、俺は攻略できるのか……?)

 ノードゥスが思考の迷路に迷い込んでしまった頃、トモルもまた窮地に立たされていた。

「ガガガッ!!」


ボボボボボボボボボボボボボッ!!


「そんな攻撃!!お返しだ!!」


ババババババババババババッ!!


 トゥレイターは火球を避け、反撃にガンドラグRを発射する。しかし……。


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


 弾丸は全て弾かれ、天井や床に吸い込まれていった。

(射撃では倒せない……なると、やっぱり……!)

 トゥレイターは壁を蹴り、勢いよく古代メカに突っ込んで行く!そのスピードに腕のガトリング砲では対応できない……ガトリングでは。

「ガガガッ!!」

 懐に入り込もうとした瞬間、古代メカの胸が開く。その奥には海の遺跡で見た球体と、噴射口があった。その噴射口から……。


ボオオォォォォォォォォォォォォッ!!


 真っ赤な炎が噴き出した!

「くそっ!?」

 トゥレイターは身体を器用に動かし、炎を回避!地面に着地すると、せっかく詰めたというのに、後方にジャンプ!距離を取った。

(あの胸の奥にちらりと見えたのは、ポイドクロウラーにもあったコアだ。あれを破壊すれば勝てる……勝てるが、あの炎をどうにかしないと……!それにしてもよりによって炎使いとはね……!)

 このイラガ砂漠に来てから何度かあった過去の記憶のフラッシュバックが再び起こる。

 炎を模した角飾りに、トモルのパーソナルカラーと同じ桃色と黒のボディー、エメラルドのような緑色の二つの眼、その姿はまるで竜を人間の形にしたよう……。

 そのピースプレイヤーの周りではボディーと同じ桃色の炎が燃え盛り、男達が悲鳴を上げる。

 そして父親が絶望に打ちひしがれながら、その様子をぼーっと見つめている姿を、幼き日のトモルもまた呆然と見ていた……。

(何でこの砂漠に来てから、あの時のことを思い出すんだ……!?今はあいつを倒す方法を考えなくちゃいけないのに……いや、方法は思いついている。でも、ぼくには……!)

 ノードゥスと同じくトモルも敵ではなく、自分自身に追い詰められていた。



「駄目だな、ありゃ……」

 遠くで観戦していたダブル・フェイスが心底がっかりしたように呟く。

「そんなにか?おれっちが見た限り、致命的なダメージは受けてないし、そこまで分が悪いように見えないんだけど?」

 彼の横で並んで観戦していたアピオンが率直な感想を述べるが、傭兵は首を横に振って否定した。

「だから余計に駄目なんだよ。実力的にはあいつらなら普通に勝てるはずなのに、余計なことばかり考えて、自分の首を自分で絞めている」

「そうなのか?」

「あぁ……こうなったら……!」

「おっ!まさか……!」

 アピオンは遂にダブル・フェイスが出撃すると思い、期待に小さな胸を膨らませた。だが、その期待は速攻で裏切られる。

「残念。何度も言うが、俺は今回はコーチに徹しさせてもらう」

 そう言うと、傭兵は両手でTの字を作った。

「タイムだ!!」

「「!!?」」

「一旦、撤収するぞ!撤収!!」

「えっ!?マジ?」

「マジマジの大マジだ。全軍撤収!!」

 言い終わると、トモルとノードゥスの返事も聞かずにダブル・フェイスは四階に戻る階段を降りて行った。わけはわからないが妖精も彼に続く。

「ノーさん!?」

「トモル!!」

 戦闘中の二人はアイコンタクトでお互いの意志を確認する。彼らが出した答えは……。

「不本意だが、奴は考え無しに見えて、意味のない行動はあまり取らない」

「絶対じゃなくて、あまりですか……」

「だが、今回はちゃんと意味のある行動だと思う……」

「なら!」

「あぁ!ガリュネムレス!後退する!!」

「はい!!」

 再び紫の鬼から黒き竜に変身したノードゥスと、トモルは屈辱を感じながらも五階フロアから逃げ出した。


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