海の遺跡③
「大人の契約……?」
ケントの言葉を理解できないトモルは回避運動を続けながら、首を傾げた。
「勘の悪いやっちゃな……ベケの盾を二人仲良くゲットしようって言ってるんや」
「二人で……」
「そう!二人でや!仮にこいつを見事倒したとして、その後にお前と揉めるのはごめん被る。とてもじゃないが、お互いただではすまんし、何より割に合わん!」
「確かに……」
「せやろ?なら、ベケの盾を共同で獲得したってことにして、報酬を分け合おうやないか」
「それってありなんですか?」
「ありに決まっとるやろ!ワイらは単独で動いとるけど、チームを組んで一億バリュゲットを試みとる奴なんてごまんとおる!」
「そう……ですか……」
「そういうことや!で、どうするんや?」
実際の時間にしてはほんの一瞬、しかしトモル的にはかなり時間考え込み、重い口を開いた。
「……一億バリュはどう分けるつもりですか?」
その言葉を聞いた瞬間、赤いマスクの下のケントの口角が限界まで上がった。
「よくぞ聞いてくれた!大サービス!7:3でええで!!」
「ええ!?ぼくに7000万バリュも!?」
「アホ!!ワイが7に決まっとるやろ!!」
一瞬で口角が下がると、今まで一番大きな声でケントは叫んだ!
「どう考えたら、そうなるねん!?」
「大サービスって言っていたし、囮のリスクはヤバいし、何よりジカーマを倒せたのもぼくのおかげですから……妥当かなと」
「妥当なわけあるかい!!ここまで来れたのもワイのキュリオッサーのおかげ!ジカーマを倒せたのも、ワイが念には念を入れて、魚雷を持って来ていたおかげ!そして何よりお前はワイがディマリナスを貸さんと地上には戻れんのやぞ!!」
「だからって七割持って行くのはやり過ぎです!ここは平等に五分五分でいきましょう!!」
「話聞いとっとんたか、ワレ!?ワイの功績の方がわずかに上やろ!!」
「その程度、誤差の範囲内でしょうが!!」
「こいつ……!?わかった!超・超・特大サービスでワイ、6500万、お前、3500万でええわ!!」
「セコいですよ!500万刻みなんて!5500と4500にしましょう!!」
「お前の方がよっぽどセコいやろが!!ええい!!6:4!!ワイが6000、お前が4000!でええやろ!!ディマリナスのレンタル代も込みで!!」
「乗った!!」
「お前という奴はどこまでも……って!?乗るんかい!!」
「でええい!!」
バン!バン!バァン!!
ケントの突っ込みを背にトゥレイターはガンドラグRを乱射しながら、ポイドクロウラーに突撃した。しかし、やはり弾丸は強固な装甲に防がれてしまう。
だけど、目的は達成したようだ。
「ギギギギギギギギギ……!!」
ポイドクロウラーの意識はトゥレイターへと集中し、もう一人の存在をすっかり忘れてしまう。
「ジカーマの時も思ったけど、ぼくって何か人を怒らせちゃうタイプなのかな?自分で言うのもなんだけど、ちょっとケチなくらいで悪い人間じゃないと思うよ」
「ギギギギギギギギギ!!」
そんなこと知ったことかと、ポイドクロウラーはトゥレイターの着地と同時にエネルギーを噴射し、ツムホルンを一撃でボロボロにした体当たりを敢行する!
ドゴオォォォォォン!!
粉砕される壁!けれど、生物が潰れ、血と肉が飛び散る不快な音が鳴ることはなかった。
「それは一度見ているからね。ぼくとトゥレイターには通じないよ」
トゥレイターはガンドラグRでワイヤーを天井に撃ち込み、それを巻き上げることで難を逃れていた。
「よい……しょっと!!」
反動をつけると、タイミングよくワイヤーを外し、ポイドクロウラーから離れた場所に飛んだ。
「この感じだと暫くは大丈夫そうだね……あくまで暫くだけど……!」
「ギギギギギギギギギ……」
自分で巻き起こした土埃から出て来たポイドクロウラーの姿はダメージどころか疲れの欠片さえも微塵も感じさせていなかった……。
「やっぱりすごいな、あいつ……」
作戦通りトゥレイターがポイドクロウラーの目を引き付けている間に、安全圏まで退避したケントは彼の凄まじい戦いぶりに感嘆の言葉を漏らした。
「悔しいが単純な戦闘能力ではワイを上回っとる。その代わり性格は終わっとるが……って、のんきに語ってる場合ちゃうわ!ベッローザ、お疲れさん!」
身に纏っていた赤い装甲を首にかかるタグに戻すと、ブレスレットを付けた腕を掲げた。
「ケントセレクションの力を見せるで!『バルランクス・ギガキャノン』!!」
主人の声に呼応し、腕輪はイエローとブラックに彩られた大柄な機械鎧へと姿を変えた!
「重っ!?相変わらずワイの体格やときついな……だけどその分、火力は凄いで!あの大艦巨砲主義の権化みたいな会社、『エインズワース』が破壊力だけを求めて、産み出したマシンやからな!!」
バルランクスの背部にあった機械が変形し、ギガキャノンの名前に相応しい巨大な砲身が展開する!
「まぁ、破壊力のことだけ考えた結果、取り回しは最悪……くそ重いし、一発撃つのに、滅茶苦茶時間かかるし……」
キィィィィィン!と甲高い音を鳴らし、周囲に光の粒子を巻き散らしながら、大砲にエネルギーを集中させる……。
「一人ではまず使えないマシン……これを使えるのは、信頼した仲間がいる時だけや……!!」
ケントの言葉を証明するように、彼の視界の中ではトモルは立派に囮の役目を……。
「ギギギギギギギギギ!?」
「――なっ!?」
突然、こちらのことなど認識していなかったポイドクロウラーと視線が合った!
「あいつ……まさか!?」
「ギギギギギギギギギ!!」
「やっぱり!!」
ポイドクロウラーは今まで夢中になっていたトゥレイターを無視!たくさんの脚をカサカサと動かし、バルランクスへと走り出した!
(エネルギーを感知したんか!?くそ!?目敏い毒虫が!!だが、トモルを放っておいて一目散にこちらに向かって来るってことは、ギガキャノンの攻撃を脅威に感じている証拠!!チャージさえ終われば……)
ケントはマスク裏のディスプレイの端に映し出されたエネルギー充填率をちらりと確認した。
(90%!?この!?もうちょっとやってゆうのに!?)
もう少しで全てが手に入るはずだったのに、それがスルリと溢れていくような感覚……そう感じた瞬間、ケントは自然と叫んでいた。
「アホが!!なんとかせえや!!トモル・ラブザ!!」
「言われなくても、なんとかしますよ」
「――!!?」
トゥレイターはポイドクロウラーの頭上にガンドラグRを向けていた。無数の亀裂の入った天井に……。
「貴重な古代遺跡を傷つけるのは、忍びないですが……今さらですね」
バン!バン!バァン!!
光の弾丸を立て続けに発射!それが天井に着弾すると……。
ゴゴゴゴゴゴゴォン!!!
「――ギギッ!?」
たちまち天井は崩れ、瓦礫がポイドクロウラーを押し潰し、動きを止めた!
「ぼくがしたのは最後の一押し、ガンドラグの攻撃で崩れるくらい脆くなっていたのは、君のせいですよ、ポイドクロウラー。だから、自業自得ってことで恨まないでね。というわけで、お膳立て完了です、ケントさん!!」
「おう!お前は性格以外最高や!!」
ケントのボルテージに比例するように充填ゲージもぐんぐんと上昇していき、ついに100%の文字が浮かび上がる!
「よっしゃ!バルランクス・ギガキャノン!!主砲、発射ッ!!!」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
「――ギ!?」
部屋の中の明るさと温度を一気に上げる凄まじいエネルギーの奔流が放たれる!
それは瓦礫ごとポイドクロウラーの巨体を飲み込み、自慢の装甲を砕き、溶かした。
「……終わったか……」
まさに渾身の一撃を放ったバルランクスは全身から蒸気を出し、熱くなり過ぎた身体を冷やす。
「主砲を放った直後、冷却中は待機状態に戻せないのも欠点やな。まぁ、それを補って余りある火力があったから、今回の戦いに……」
ドゴオォォン!!
「――か!?」
「ギギギギギギギギギッ!!!」
細かく砕け、溶けた瓦礫を押しのけ、これまた砕けて、溶けて、さっきまでよりもおぞましい姿になっているポイドクロウラーが飛び出して来た!その装甲の奥で、今まで隠れていた丸い核のようなものが露出している。
(あれを食らって無事とか、どんだけ丈夫やねん!?……いや、無事やない、見るからに満身創痍や。瓦礫が盾になって、なんとかギリギリ死に損なったんや!!多分、あの丸いコアを破壊すれば、今度こそ完全に息の根を止めることができる!!だけど……)
ケントは必死に身体を動かそうとしても、バルランクスの重い装甲が邪魔をしてくる。
(他のマシンやったら、華麗にカウンターを決めてやるところやのに!!ここまでやって来たっていうのに、終わるんか……ワイ……)
絶望が心を蝕み、その心ごとポイドクロウラーに刈り取られ……ようとした、その時!
「やっぱりこれって、五分五分にすべきですよ」
「――!?トモル!?」
ポイドクロウラーとバルランクスの間にピンクとブラックのマシン、トゥレイターが颯爽と降り立った!
「縦一文字葬弾!!」
バババババババババババババババッ!!
トゥレイターは流れるような動きで、ポイドクロウラーのコアに弾丸の宣言通り縦一文字を撃ち込む!さらに……。
「はっ!!」
それに続くように突進!ガンドラグRのグリップの底からブレードを展開し……。
「エクススラッシュ!!」
ザザンッ!!
通り過ぎ様、刃でコアにXを描く!先の一文字と合わせてポイドクロウラーには星が描かれた。
「アスタリスクコンビネーション……!!」
「ギ……」
ドゴオォォォォォン!!
コアを破壊されたポイドクロウラーは爆発四散した!
破片が降り注ぐ中、トゥレイターはバルランクスの方を向いて、頭を傾けた。
「それで、結局取り分はどうしましょうか?」
ケントはマスクの下で思わず噴き出した。
「ぷっ!ワイより金に汚い奴、初めて会ったわ!わかった!ここまでされたら、きっちり五分五分!それでええやろ?」
「はい!!」
ブシュウゥゥゥゥッ!!
「「!!?」」
交渉がまとまったのを察知したかのように、最奥にあった箱が煙を出しながら開き始めた。
「あれは……」
「ぼく達を認めてくれたってことですかね……?」
合流し、二人仲良く肩を並べて、それが姿を現すのを今か今かと見上げる。
そして、その期待に応え、箱が開き切ると、中には古びた盾が安置されていた。
「間違いない……」
「ええ……あれこそがぼく達が追い求めた……!」
「ベケの盾!」
「ゲットです!!」
バチィン!!
どちらからと言い出したわけでもなく、自然と身体が動き、気づいたらトモルとケントはハイタッチをしていた。




