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No Name's Trust  作者: 大道福丸
本編
14/100

海の遺跡②

「ギギギギギギギギギ……」

 トモル命名ポイドクロウラーは大量の脚を器用に動かし、侵入者と距離を測った。

「お怒りのようですね、ポイドクロウラー……」

「誰かさんに変な名前を付けられたせいちゃうか?」

「名前に関してはきっと気に入っているでしょうけど、縄張りに土足で入って来たぼくらは許さないって感じですね……」

「それなら怒りに身を任せて、飛びかかってくりゃあいいのに……値踏みされてるようで腹立つわ……!」

「実際、ぼくらの実力を彼なりに測っているのでしょう……」

「だったら、こうして大人しく見つめ合っているよりも……」

「わかり易く見せつけてやりましょう!!」

 意志を統一させた二人は、動きもシンクロさせ、首にかけたタグに呼びかけた!

「トゥレイター502!!」

「『スタンゾルバー』!!」

 声が部屋中に響くと同時に毎度お馴染みの桃と黒のマシンと、初めましてのグレーのマシンが海の遺跡最深部に見参!

 二人は一瞬、お互いに目配せし、この後の段取りを確認する。

「トゥレイターか。いいチョイスや」

「ケントさんは、黄色と黒じゃないってことはベンチメンバーですね?それでいいんですか?」

「はっ!ベンチに入るのにも厳しい審査があるんや、うちのチームは!!」

「では……」

「あぁ……」

「「先制攻撃です(や)!!」」

 これまたシンクロした動きで、銃を召喚し、ポイドクロウラーに向ける。そして……。


ババババババババババババッ!!


 引き金を引き、光の弾丸を絶え間なく発射し続ける!

「ガンドラグR!蜂の巣にしてやれ!!」

「そうや!穴空きのボコボコや!!」

「ギギギギギギギギギ……?」

「って、全然効いとらん!?」

「遠距離からチクチクやっても無駄なようですね……」

「ほな!」

「ええ!!」

 再びのアイコンタクト!引き金にかけていた指を緩め、代わりに両脚に力を込める!

「セオリー通り!」

「挟み撃ちで!!」

 トゥレイターとスタンゾルバーは左右に跳躍したと思ったら、壁に着地!また脚にパワーを込めて……ポイドクロウラーに向かって飛んで行った!

「ブレード展開!!」

「お前を選んだことを後悔させないでくれよ!スタンゾルバー!ナイフや!!」

 そして近接武器に切り替え、両側からポイドクロウラーに襲いかかる!しかし……。

「ギギギギギギギギギ!」

「「!!?」」

 ポイドクロウラーの胴体に小さな穴が開き、その中からレンズのようなものをせり出し、光が灯る。

「これは……!?」

「まずい!?全方位レーザーや!!」


ビビビビビビビビビビビビビビッ!!


 ポイドクロウラーの全身から、無数の細い光が放たれた!その光に触れた壁や地面にはもれなく煙が上がり、穴が開いた。

 だが、肝心のターゲットはというと……。

「あ、危なかった……!!」

「ほんまにな……!!」

 発射直前に気づいたのが、功を奏したのかトゥレイターもスタンゾルバーも無傷で切り抜け、再び距離を取っていた。

「密度が凄すぎて、ジカーマの時のように間を縫って接近するのは無理そうですね……」

「お前がそう言うならワイも無理やな。つーか、あんな無茶やりとうない」

「じゃあ、一時的に動きを止めてくださいよ?それ、“スタン”ゾルバーなんでしょ?」

「アホ!スタンゾルバーのスタンは“スタンダード”のスタンや!ピースプレイヤーの外付けオプションを製造販売していた三丘工業が『トライヒル』に名前を変えて、送り出したゾルバーシリーズのスタンダードモデルや!『神凪』には『花山重工』と『ブリードン社』という圧倒的な会社があるにもかかわらず、ピースプレイヤーの自社製造に踏み切ったその心意気が気に入ったんや!!」

「あの……」

「でも、こうなるんやったら素直に花山の『ヘイラット』にしとくんやったかな……」

「ケントさん!!」

「あぁん?人が気持ち良く話してる時になんやねん?」

「このままじゃ、気持ち良く昇天しちゃいますよ!!」

「!!?」

 我に返ったケントが目にしたのは、尻尾を立て、その先にエネルギーを集中しているポイドクロウラーの姿であった。

「ヤバい!?」

「だからそう言ってるでしょうが!!」

「ギギギギギギギギギッ!!」


ボォン!!ドゴオォォォォォン!!


 放たれたのは強力な一撃!発射されるだけで部屋中が明るく照らされ、着弾すると暴風が吹き荒れた。

「あ、焦った~!!」

 しかし、トモルのおかげでケントはスタンゾルバーに傷一つつけることなく、回避に成功した。

「ギギギギギギギギギッ!!」


ビビビビビビビビビビビビビビッ!!


 安堵するケントに腹を立てたのかは定かではないが、ポイドクロウラーは再び全身からレーザーを放ち、辺り構わず焼き払う。

(なんつう弾幕や……けど、避けられないレベルやない!これだけの攻撃をずっと続けられるもんでもないやろ!スタミナ切れを狙わせてもらうで!!)

 スタンゾルバーは天井や壁を蹴り、レーザーを躱し続ける。

(所詮は超絶アンティークの多脚型のP.P.ドロイド!ワイの敵や……)

 着地と同時に敵に視線を向けると、相手もこちらを見ていた……。

 瞬間!ケント・ドキの全身に悪寒が走る!

(こいつ、この瞬間を狙っていたのか!?)

「ギギギギギギギギギッ!!」

 後方から凄まじい勢いでエネルギーを噴射!ポイドクロウラーは自らを弾丸とし、突進して来たのだ!


ドゴオォォォォォン!!


「ケントさん!!?」

 轟音に続き、トモルの悲痛な叫びが部屋に響く!

 名前を呼ばれたケントは壁とポイドクロウラーが激突した衝撃で巻き起こった土埃で、トモルからは姿が見えなくなっていた。

「ケントさん……」

 最悪な光景が頭を過る。会ったばかりだが、妙にウマが合うケントの好感度は知らず知らずのうちにかなりのものになっていた。もし彼に何かあったら……。

「何、気色悪い声上げとんねん……!!」

「――!?ケントさん!?」

 ポイドクロウラーが後退すると同時に、土埃が薄まっていき、それは姿を現した。

 スタンゾルバーではないカーキ色のマシンが。

「『ツムホルン』……!こいつに切り替えなきゃ、今頃ミンチやったな……!!」

 スタンゾルバーよりも見るからに重厚な見た目をしていたツムホルンは、その見た目に違わず防御力に優れていた。しかし、そんなタフさ自慢のマシンでも、ポイドクロウラーの体当たりを一発受け止めただけで、全身にびっしりと亀裂が走っている。

「一発でこれかい……!ワイのコレクションの中で一番丈夫やってゆうのに……」

「ギギギギギギギギギ……」

「なんや、お前も不服なんかい?必殺のタックルを受けて、こうしておしゃべりされてることが、堪らなく悔しいんか?」

「ギギギギギギギギギ!」

 その通り!……と答えたかはわからないが、少なくとももう一度体当たりを行おうとしているのは誰の目から見ても明らかだった。後退し、十分な助走距離を取ると……再びエネルギーを噴射!一気に加速した!

「ギギギギッ!!」

「同じ手食らうか!!ベッローザ!!」


ドゴオォォォォォン!!


 再びの突進!再びの激突!しかし、今回は姿を赤く変えたケントを捉えることはできなかった。ポイドクロウラーの巨体を飛び越えると、ぴょんぴょんと軽快なステップで間合いを取る。

(あれはベッローザか。やはりスピードは目を見張るものがあるね。それにしてもさっきのゴツいマシンにスタンゾルバー……戦況に応じて、マシンを即座に切り替えて戦うなんて、バランスの取れた身体能力と、深いピースプレイヤーの知識がないと不可能だ。どうりでジョゼットさんが合格を出すわけだ。変わった奴って言われるのも納得だね)

 遠目でケントの躍動を目にしたトモルは彼のことを見直していた……いたのだが。

「このアホ!援護せえや!!助けに来いや!!」

 そんなことを思っていてくれているなど露知らない当の本人は激オコだ!

「ケントさんは気づいてないのかもしれないですけど、ずっとぼくの方を尻尾の砲口が狙っていたんですよ。多分、レーザーも接近してたら発射されたでしょうし、行きたくても行けなかったんですよ」

「ほんまか?」

「ほんまほんま。ほら」

「ギギギギギギギギギッ!!」


ビビビビビビビビビビビビビビッ!!


 ケントと同じくポイドクロウラーもまた戦術を遠距離戦に切り替えた。レーザーを無差別に照射し、尻尾から圧縮したエネルギー弾を放つ!


ドゴオォォォォォン!!


「くっ!?また臆病な逃亡者に逆戻りか!?」

「このままじゃ埒が明かない!ワイに考えがある!ジカーマの時のように注意を引いてくれ!!」

「………」

「おい!!聞いてるんか!!?」

 トモルは答えなかった。答えずに頭の中で考えを巡らせていた。

(ジカーマの時は切羽詰まっていたから、なし崩し的に協力することになっちゃったけど、今のぼくは少なくとも攻撃は避けられてるし、ピースプレイヤーが崩壊するタイムリミットもない。そこまで焦る必要ないんだよね。となると今の段階で囮というリスクの高い役目を請け負うのは、あり得ないんじゃないか?)

 冷静に状況を分析すればするほど、ケントの提案を受け入れられないと感じた。

(そもそもなんか一蓮托生みたいになっているけど、ぼくとケントさんはベケの盾を奪い合うライバル同士のはずだろ?もしかしたらポイドクロウラーと戦って、消耗したぼくを後ろから……)

 猜疑心が湧き上がる。一度こうなっては、簡単にはケントと手を取り合うことなど……。

「お前、ワイがお前を疲れさせて、出し抜こうとか考えてるとか、思ってないよな?」

「……へっ?」

 不意に心を見透かされ、トモルの身体が硬直した。

「ギギギギギギギギギッ!!」

「――!?」


ボォン!ドゴオォォォォォン!!


「――ッ!?今のはヤバかったな……!」

 その一瞬の隙を突かれ、危うく消し炭になりそうになったが、なんとかかんとか間一髪で回避、人生を続けることができた。

「ケントさん!いきなり核心を突かないでくださいよ!!」

「核心ってことは、やっぱりワイが裏切ると思ってたんか!!」

「か、可能性の話ですよ!!あらゆる可能性を考慮して、行動しないと!!」

「なんかそれっぽいこと言って誤魔化そうとしおって……!」

「文句あるんですか!?」

「あるに決まっとるやろ!!」

 空中で回避運動中に交差する刹那、両者は激しくにらみ合った。

「むうぅ~!」

「ぐうぅ~!……って、お前といがみ合ってる場合ちゃうねん!!お前が囮になってくれれば、あいつをどうにかできるんや!!」

「まだそんな戯れ言……!」

「ちゃんと話を最後まで聞け!会ったばかりの奴を信用しろなんて言われても、できない気持ちはワイもわかるし、むしろ無条件にこんなしんどい役目を請け負う奴の方が、ワイとしても信用ならん!!」

「だったら……!?」

 ケントは赤いマスクの下で口角を上げ、パチンと指を鳴らして、トゥレイターを指差した。

「ここはドライに……大人の契約といこうや!」


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