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No Name's Trust  作者: 大道福丸
本編
13/100

海の遺跡①

「ぜぇ……ぜぇ……なるように……」

「はぁ……はぁ……なりましたね……」

 一か八か光の中に飛び込んだ二人。年季の入った石畳の上にびしょ濡れの身体で横たわり、呼吸を整えた。

 そう、そこは二人の目的地である古代遺跡であった。

「遺跡の中なら、超古代のテクノロジーで水圧とかいらんものを無視できるんとちゃうかと思ったが……」

「予想通りの仕様で助かりました……」

 ゴウサディンは上半身だけ起き上がると、ついさっき全速力で飛び込んだ入口の方を向いた。

「あれ、どうなっているんでしょうか?水槽のガラスのように中と外が区切られてますけど、ぼくたちは普通に通り抜けられた……」

「さぁな……今言ったように超古代の技術やからな。現代の視点ではちんぷんかんぷんや。理解できないのは単純にワイらが技術屋やないからだからかもしれんけど」

「まぁ、今はとにかく九死に一生を得たことを喜ぶべきですかね」

「せやせや」

 談笑をしている間に回復した二人は申し合わせたかのように、同時に立ち上がる。

「どうやらここは酸素もあるし、地上と変わらない環境みたいやな。というわけで、お疲れさん、ディマリナス」

 そう言うとイエローとブラックのツートンカラーのマシンは指輪へと形を変え、代わりにそれを人差し指にはめるイエローとブラックのツートンカラーに髪を染めている男が姿を現した。

 男は指輪の他にもピアスやブレスレット、そして多数のタグを首から下げていた。

「ふぅ~、解放されたって感じやな」

「……本当に大丈夫そうですね」

「ワイで安全を確かめるな」

「まあまあ、ゴウサディンもお疲れ様」

 トモルもまたゴウサディンをタグ状態に戻し、わずかに汗ばんだ可愛いらしい顔を久しぶりに外気に晒した。

「話した感じ、男やと思ってたが……」

「男ですよ。あなたの感覚は間違っていないです」

「そうか……個人的に女の方が気分よく渡せたんやけどな」

「えっ?」

「ほれ」

 男は首元からタグを一つ取ると、トモルに投げ渡した。

「これは……?」

「ディマリナスや」

「それって、さっきまであなたが装着していた……?」

「せや。もしもの時のために予備を用意しとった。それで地上に戻り」

「えっ?くれるんですか、これ!」

「やるか!水中用ピースプレイヤー大手の『ハズウェル・マリンプロダクツ』の中でも特別で、貴重なマシンやぞ!二台手に入れるのにどれだけ苦労と金がかかったか……あくまで貸すだけや!」

「そうですか……では、貸していただきます。ゴウサディンでは地上には戻れそうにないですから」

「せやせや、とっとと地上に……」

「戻るのは、ベケの盾を手に入れてからですけどね」

「…………あぁ?」

 一気に二人の間に流れる空気が冷たく、そして張り詰めた。

「わざわざ確認しなかったが、やはりお前もウレウディオスの依頼を受けた輩か……」

「この時期、こんな辺鄙なところに来る人なんてそれしかないでしょう」

「で、あれだけ痛い目あってまだ諦めておらんのか……?」

「というより本番はこれからでしょ?今までのはウォーミングアップですよ」

「ふん!まともに道具も準備できないような奴が!」

「それは……耳が痛いですけど……とにかくベケの盾はぼくが手に入れます!報酬を貰ったらディマリナスのレンタル代は払わせていただくのでお楽しみに!」

 そう言うとトモルは一足先に遺跡の奥に進んで行った。

「……ったく、顔の割に強気やな」

 トモルの態度に呆れながら、男も遺跡に足を踏み入れる。

 少し進むと階段があり、それを昇ると大きな扉があった。

「この大きさは二人がかりでも……下手したらピースプレイヤーを装着しても無理かも……」

「何もわかっとらんな」

「えっ?」

「古代の人間と言っても、現代人とそう体格も力も変わらないはずやろ。なら……」

 男は右手で扉に触れた。すると……。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


「あ、開いた!?」

 扉は左右に自動で開いて行った。

「ほらな」

 ドヤ顔を炸裂させる男。普段だったら、その顔におもいっきりパンチをぶち込んでやりたくなるトモルだったが、それよりも目の前の古代ロマンに夢中になっている。

「へぇ~、古代遺跡ってみんなこういうものなんですか?」

「全部が全部、こうではないわ。つーかお前、その口振り、こんな依頼受けたのに、遺跡を探索するの、もしかして初めてか?」

「お恥ずかしながら……」

 トモルは後頭部に手を当て、首を前後にヘコヘコと動かした。

「じゃあ、今まで何を?」

「主にオリジンズの駆除、たまに要人警護ってところですかね」

「どうりで……ジカーマ相手に肝が座ってるはずや」

「いやぁ~、水中戦もまた初めてだったので、全然でしたよ」

 顔を赤らめ、さらに首を動かすトモルの勘違いした姿に男はイラッとした。

「お前……ワイは褒めとるんやなくて、脳筋バカって言ってるんやで」

「えっ!?そうなんですか、ひどいです!!」

「言われてもしゃあないやろ。つーか、ウレウディオスもウレウディオスや。ほんまに神器を見つけたいなら、知識を問う試験もするべきやろ。あんなアホみたいな武器持ったおっさんと戦わせるなんて、一番の脳筋バカはあいつらや」

「そうかもですね……って、アホみたいな武器ってもしかしてバズーカにでっかい刃を付けたアレですか?」

「そうそう、それ……って、お前もジョゼットのおっさんの試験をパスしたんか!?」

「はい!ぼくの前にあの人の試験に合格したのってあなただったんですね」

「お前が、あれを……」

 水中で発見した時はあまりの無知さに呆れ返り、ジカーマの件で見直し、またここに入ってから失望し……と、トモルの評価が二転三転していた男だが、ジョゼットの名前を聞いて再び最高値を更新した。

「そう言えば名前を聞いていなかったな。なんて言うんや?」

「ワタシ、ポンチオ・マラデッカ、イイマス」

「あぁん!?」

 最高値は一気に底の底、底辺まで落ちた。眉間にポイド海溝のように深いシワを刻み、目を血走らせて不快感を顔中に表現する。

「す、すいません、トモル・ラブザです……ふざけ過ぎました」

「ほんまやで」

「それで、あなたは……?」

「ワイは『ケント・ドキ』や。以後、お見知りおきを……せんでもええか。ほら!行くで、トモル」

 手を振ってトモルを急かすと、ケントはそそくさと扉の先へと進んで行った。

「勝手な人だな、ケントさん……でも、“帰れ”から“行くで”になったのは、少しは認めてくれたってことかな」

「何しとるんや!ウンコか!?」

「違いますよ!すぐ行きますよ!!」

 小走りでケントに追い付くと、そこからはしばらく何もない一本道を歩くことになった。

「このまま歩いて行ったら、地上に出ちゃった!……なんてことにはならないですよね」

「むしろ若干だが下ってるやろ。出るならポイド海溝の底やな……って、言ってたらまた扉や」

 再び目の前に現れた扉に、またケントは手を触れる。すると先ほどと同じく扉は左右に開いた。

 扉の先にあったのはまた道……ではなく、大きな、そして何もない部屋であった。

「行き止まり……ここがゴールじゃなかったら、ぼくたち道を間違えましたか?」

 いくら周りを見渡しても、壁しかない部屋に不安を覚えるトモル。

 一方、ケントは……。

「間違いかどうかは、もうちょい調べてみないとな」

 ピアスをピンピンと指で弾くと、優しくそれの名前を呟いた。

「出番やぞ、『キュリオッサー・ケントカスタム』」

 呼びかけに応じ、ピアスは光の粒子、そして彼のパーソナルカラーである黄色と黒の装甲に姿を変わり、ケントの全身に装着された。

「その“キュウリおっさん”なら、神器の手がかりを見つけられるですか?」

「“キュリオッサー”な。『オルムステッド・エレクトリック』製のマシンは電子戦と索敵能力に優れとる。それを遺跡探索に生かせるように改良したのが、ケントカスタムや」

 そう言いながら、キョロキョロと周りを見回し、ケントは再び耳元に手を当てる。

「スキャン開始……っと」

 黄色と黒のマスクの裏のディスプレイに様々な情報が映し出され、視線の先を解析し始めた。

「さてさて、蛇が出るか鬼が出るか……」

 ゆっくりと舐めるように部屋中の壁を視線で順番になぞっていく。そして……。


ビーッ!ビーッ!


「ビンゴ!」

 トモルの背後にある壁をキュリオッサーの解析システムが捉えた瞬間、アラームが鳴った。

「ちょいと失礼」

「うわっと!?」

 わざわざトモルを手で押しのけると、キュリオッサーは異変を感じた壁に接近して行った。

「ワイの長年の経験則からいって、この辺に……」

 感知した周辺をべたべたと触って、それを探っていくと……。


ガコン!ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


「これまたビンゴ」

 推測通り、それは壁と一体化して隠されていた。それを押してみると、周囲から重低音が聞こえ始める。

「この音って、さっきの……」

「あぁ、扉が開く音や。ワイが見事にスイッチを探し当て、押したからな」

「ケントさんとキュウリおっさんがね」

「だからキュリオッサーやて」

 じゃれ合っている間に隠し扉が開き、新たな道が二人の前に現れた。

「この空洞をワイのキュリオッサーが察知したんや」

「すごいすごい」

「もっと感情込めて、感謝しろや!」

「してますよ。してますから、早く行きましょう」

「おい!?自分で歩けるちゅうねん!!」

 トモルに物理的に背中を押され、壁の奥へと足を踏み入れる二人。そこもまた何の変哲もない一本道だった。

「もっと遺跡って、迷路みたいに入り組んでいるのを想像していたんですが、分かれ道すらないですね」

「ここが仮にベケの盾を奉る場所だとして、それを不埒な輩……」

「ぼく達のことですね」

「そう。ワイらみたいな奴から守るとしても、そもそもここにたどり着く前に水圧やらジカーマやらに殺られるから、余計な仕掛けはいらんてことやろ」

「他の人が侵入した形跡もありませんでしたからね」

「ここに来る現代人はワイらで最初で最後かもな」

「じゃあ、たくさん写真撮っておこう。高く売れるかも」

 トモルは懐からウレウディオスから支給されたデバイスを取り出し、それで周囲をカシャカシャと撮影した。

「欲望に忠実なやっちゃな」

「欲望は大事ですよ。全ての始まりは“欲”からです」

「まぁ、金のためにこんなところまで来るワイも同じ穴の狢か」

「お金と言えば、ケントさんすごいたくさんピースプレイヤーを持っていましたね。凄いお金かかったでしょ?」

「まぁな。でも、ワイは『レナルド・マークス』に憧れて、この仕事に就いたからな」

「レナルド・マークスって、あの“傭兵の中の傭兵”と呼ばれたあのレナルド・マークスですか!?その実績から凶悪な傭兵集団『骸獣の末裔』壊滅作戦の総大将に選ばれたあのレナルド・マークス!?」

「最高のリアクションとご丁寧な説明、ありがとう。あの人は特別な、特級やオーダーメイド品じゃなくて、様々な量産品のピースプレイヤーを使い分けて、困難な任務を次々と達成したと言われとるからな。ワイも色々と試しとるんや」

「だけど、それだけの数のマシンを使いこなすのは大変じゃないですか?」

「試しとるって言ったろ。今は選りすぐりのマシンを選別してる最中や」

「その首に下げているのを全部愛機にするつもりはないんですね」

「あぁ、ワイはレナルド・マークスに憧れてはいるが、レナルド・マークスほど才能がない。だから最終的には十体以内に収めようと思っとる」

「選ばれしケントセレクション……ちなみに今は?」

「三体や。このキュリオッサーとさっき装着しとったディマリナス、あともう一体。そいつらはワイのパーソナルカラーのイエローとブラックに塗り替えて、アクセサリーにしとる。首にかけとるタグの奴らは予備軍やな。試して良かったら、セレクション入り、駄目やったら下取りに出す」

「へぇ~、で、ケントセレクションの残りの一体は何なんですか?」

「教えるか!情報は宝や!べらべらとしゃべるもんやない!」

「ケチ~」

「ケチで結構!あと、着いたみたいやで」

 ケントのことを掘り下げているうちに、再び扉の前までたどり着いていた。もう慣れたもので、躊躇することなくキュリオッサーは手を触れると、毎度お馴染みになった左右に扉は開いた。

 扉の先には今までで一番大きな空間が広がり、その奥には“箱”のようなものが安置されていた。

「あれって……」

 トモルは手に持っていたデバイスを操作し、とある写真を画面に映し出した。

「……やっぱり……メトオーサの谷にあったものと似ている」

「ってことは、あの中にベケの盾が……」

 ごくりと生唾を飲み込む音が響き渡り、和やかだった両者の間に緊張感が走る。

「あれをぼくとケントさん、どちらが手に入れるか……」

「じゃんけん……ってなわけにはいかんよな……」

「話し合い……それが決裂したら……」

「殺し……」


ガァン!!


「「!!?」」

 突然の轟音!箱と二人の間に天井から降ってきたのだ!たくさんの足と長い尻尾を持った虫のような古代の機械が!

「こいつは……!!」

「さしずめこのポイド遺跡のボス……『ポイドクロウラー』ってところですかね……!」


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