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No Name's Trust  作者: 大道福丸
本編
11/100

海溝で邂逅①

「うん!順調順調!」

 実際は順調に、そして着実に死へと近づいているわけなのだが、状況を全く理解していないトモルはご機嫌に暗く冷たい海を潜航していくスピードを上げる。

(いやぁ~、奮発した甲斐があったな。安い二つだったらここまで楽しくダイビングできなかったはず……多分だけど。これが終わったら実際にバカンス行くのもいいな~)

 今にも人生が終わろうとしているのに、未来のことなど考える。そんな彼の前に二つの意味でゴールとなる場所が姿を現す。

(ん?もしかしなくても、あれがポイド海溝かな?)

 眼前に現れたのは亀裂というには大き過ぎる穴であった。底は視認などできるはずがなく、まるで地獄へと繋がっているような印象を受ける。

「よしっ!第一段階完了!このまま潜航して、ベケの盾が眠る遺跡を探索する!」

 ゴウサディンはさらに速度を上げる!ゴンドウが言ったように、このスピード感がトモルには合っていた。

 そのことをこの後すぐに彼は強く実感することになる。

(ゴー!ゴー!ゴウサディン!ゴールは目の前……)


ユラッ……


(……ん?右が……)

 僅かに、本当に僅かだが右側から押されるような感覚があった。あまりに小さな感覚だったから、トモルは気のせいだとスルーしようとした。しかし……。


ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!


「――!!?」

 耳元でうるさいとしかいいようのない音がなる。いや、むしろ警告のためのアラームとはそうでなければいけないのだ。

「これはどういう……」

 ゆっくりと違和感を覚えた右側を向く。そこには!

「グウゥゥゥゥゥッ!!」

「なっ!?」

 鼻先に槍のような角を付けた巨大な魚型オリジンズがこちらに凄まじいスピードで突進して来る姿があった。

「危……」

「グウゥゥゥゥゥッ!!」

「なっ!?」

 ゴウサディンはすんでの所で突進を回避する……が。

「うわっ!?」

 突進の余波で海流が乱れ、それに押し出される形で桃と黒のマシンは海中を二回、三回と回転した。

「このまま回ってたら……酔って、吐いちゃうよ……っと!」

 上手いこと身体を動かし、体勢を立て直す。そして、こうなった原因であるオリジンズを目で探した。

「あいつは……いた!」

 トモルが視界に捉えたのは、オリジンズの尾びれであった。泳ぎの余波だけでこちらを吹き飛ばすような巨体が徐々に小さくなっていく。

(たまたまぼくが奴の通り道にいたってだけなら、これで終わりなんだけど……)


ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!


「ええい!アラームうるさいよ!わかったから切って!」

 主人の言葉に従い、ゴウサディンは喧しい警告音を消した。

「よし!これで集中できる。それで改めてあいつ……は!!?」

 信じられない、信じたくない光景が視界に飛び込んで来た……オリジンズがこちらにUターンして来ていたのだ!

「これはつまり……さっきのはぼくへの攻撃だったってことか!!」

「グウゥゥゥゥゥッ!!」

 正解だと言わんばかりに、オリジンズは加速する!水の抵抗などものともせず、鼻先の槍が水流をかき分け、ゴウサディンに迫る!

「速い……!だけど、見切れないほどでは……」

「グウゥゥゥゥゥッ!!」

「ない!!」

 準備ができていたゴウサディンは先ほどよりも余裕を持って、突進を躱すことができた。いや……。

(今の突撃……一回目よりも速い……!?思っていたよりずっとギリギリだったぞ……!まさかまだトップスピードではないのか……!?)

 底知れないオリジンズのスペックに背筋が凍るトモル。そんな彼の視界の真ん中では、次の攻撃のために再びUターンしている巨大魚の姿があった。

(あれ以上のスピードで来られたら、避けられないかも……それにこの深海、直撃はもとよりちょっとでもかすったら、水圧でピースプレイヤーが崩壊してしまう可能性も……まずいな……!)

 この深度では何もしなくてもゴウサディンは崩壊する可能性もあるから、彼の想定以上にまずい状況なのだが……ある意味ようやく正しい認識になったと言える……かも。

「どうする?なんとかあいつを迎撃しないと……取り敢えずは……遠距離攻撃か……!銃よ!来い!!」

 ゴウサディン・ソルジャインは主人の声に応じ、手に銃を召喚する。そうしている間にオリジンズは三回目の突撃を敢行していた。

「喰らえ!この野郎!!」


バシュッ!バシュッ!バシュッ!!


 光で造られた銛のような弾丸が発射され、暗い闇を切り裂き、真っ直ぐとこちらへ向かって来るオリジンズの頭部に命中する!しかし……。


ゴォン!ゴォン!ゴォン!!


「グウゥゥゥゥゥッ!!」

「ちっ!?」

 あっさりと光の銛は弾かれる。仕留めるどころか、突進のスピードを緩めることさえできなかった。

 それでもゴウサディンは攻撃を回避するが、このままでは体力か集中力が切れ、トモルにとって最悪の結末を迎えるしかないことは明らかだった。

(少なくとも真っ正面からは射撃は通じないみたいだね……となると側面、背後、ここは海の中だから、上と下もあるか……回り込んで、攻撃してみるのがセオリーだと思うけど、あのスピードだと簡単にはいかないよね……いや、ならスピードを出せないようにすればいいか!)

 ゴウサディンは逆さまになり、わき目も振らずに目的地であるポイド海溝に進んで行った。

(さぁ、ついて来いお魚くん!……ついて来ないなら、それはそれでいいけど)

「グウゥゥゥゥゥッ!!」

「そうはうまくはいかないか……」

 予想外の付き添いを連れて、遂にトモルはポイド海溝に突入!今のところゴウサディンも大丈夫そうだ……今のところ。

(ここなら上よりも岩壁のせいで若干だが、動きが制限されるだろ?さらにこうすれば……)

 ゴウサディンは岩壁を背にし、オリジンズに向かい合った。

(来るなら来なよ。さっきと同じスピードで突進したら、ぼくを貫いたとしても岩壁にごっつんこだ。それがわかる知性があるなら……ぼくが更なるインテリジェンスで出し抜いてやるよ……!)

 僅かだが先ほどよりも有利な環境に来れたと思っているトモルは強気に心の中でオリジンズを煽った……が。

「グウゥゥゥゥゥッ……」

「ん?」

 オリジンズは今までにない動き、鼻先をゴウサディンではなく、上に向けて立派な胸鰭の付いた腹部をさらけ出した。

(腹を見せたのは降参、服従の合図か?そうだったら、とても嬉しいのだけど……)

 残念ながら、そこまで都合よくはいかない。こちらに向けられた胸鰭がひくひくと動き出したと思うと……。

「グウゥッ!!」


バシュッ!バシュッ!バシュッ!!


「――なっ!?」

 そこから刺……というより、槍を発射して来た!

「遠距離攻撃もあるのか!?それは予想外……だったよ!!」

 槍の速度自体は突進よりも劣るものだったので、ゴウサディンは難なく回避し、岩壁に突き刺さる。

 しかし、そのせいでせっかくの有利なポジションを放棄することになってしまった。

(今の攻撃は間違いなく誘導……本命を当てるための布石……!)

 トモルの当たって欲しくない予想が正しいことを証明するように、オリジンズは再びこちらに鼻先を向けていた。

(さっきよりも体勢が悪い……避けられない……!!?)

「グウゥゥゥゥゥッ!!」

 脳裏に“死”の文字が過り、それを現実のものにしようとオリジンズがスタートを切ろうとした……その時!


ドゴオォォォォォォォン!!


「――ッ!!?」

「……えっ?」

 突如、オリジンズの頭部付近が爆発した!発生した水泡が昇っていき、逆に本体は意識を失い、沈んでいく。

(今のは……魚雷?一瞬だったけど、あれは魚雷だ!一体誰が、いや何が……?)

 一瞬の記憶を頼りに魚雷の軌跡を追っていく。

 その先にいたのはイエローとブラックのツートンカラー、頭と胴体が一体化し首がなく、玩具のマジックハンドのような手

、左腕には先ほどオリジンズに見事ぶち込んだ魚雷と同型のものを装備したピースプレイヤーだった……多分。

「あれ、ピースプレイヤーだよね?テナシェルカの亜種じゃないよね?とりあえず……通信繋いでみますか」

 それがピースプレイヤーかオリジンズか、敵か味方か、コミュニケーション取れるのかどうかを確認するためにトモルは耳元に手を当てた。すると……。

「何さらしとんじゃワレ!!アホか!?アホなのか、お前は!!!」

「――いっ!!?」

 鼓膜を破ろうとしているのかと思うほどの大声でまくし立てる!

 それがこの後、様々な苦難を共にすることになるトモルと悪友の最悪な出会いだった。


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