輝く太陽に三日月は微笑む
なろうラジオ大賞5参加作品です。
ヒューマンドラマです。
「ママー! 見てー! お月様が笑ってるー!」
「んー?」
繋がれた小さな手。
それとは反対の手が空を指差す。
つられて上を見上げると、笑った目みたいな形の三日月が浮かんでいた。
仕事終わりのお迎え。
時には日が沈んでしまう時もある。
それでもこの小さな手は私の顔が見えると、パアッと顔を輝かす。
それだけで一日の疲れは吹き飛んでしまう。
「ホントだね~」
楽しそうな声につられて繋いだ手を前後に揺らす。
きゃっきゃっと弾む声が愛おしい。
「……月が綺麗ですね、か」
「なにそれー?」
昔、そんなことを言ってプロポーズしてきた馬鹿がいた。
それをロマンチックだと思って、プロポーズを受けた大馬鹿がここにいる。
そんな馬鹿と大馬鹿が離婚したのは少し前のことだ。
母一人子一人の生活に慣れ始めたのは最近のこと。
遅くまで預かってくれる園を探すのも、子供の体調の変化に理解のある職場を探すのも大変だった。
「……」
視線を三日月から外して自分の腰元に移すと、キラキラとした目がこちらを見上げていた。
「んーとね。昔の人は好きだよーとか、愛してるよーとかって言葉を言うのが恥ずかしくて、その代わりに月が綺麗ですねって言葉を自分の大好きな人に贈ったのよ」
昔を思い出して暗い表情になりそうになったけど、慌てて笑顔を我が子に送る。
この子にはいつも笑顔でいてあげたい。
困ってないよ。ツラくないよ。大丈夫だよ。
そう伝えたい。
離婚したばかりの頃は泣いてばかりいたから。
この子もつられて泣いてしまっていたから。
そんな顔はさせたくない。
いつも笑っていてほしい。
だから、私が一番に笑っていてあげたい。
この子はきっと、私を映す鏡でもあるから。
「へー……」
「?」
どうしたんだろ。うつむいてしまった。
私の笑顔が下手だっただろうか。
「……ねえねえ、ママ」
「なあに?」
少しして、空を見上げた愛しい瞳が真っ直ぐに伝えてきた。
「えっとね、月が、綺麗ですね」
「!」
少し恥ずかしそうな、満面の笑みの私の天使。
私は勘違いをしていた。
この子は鏡なんかじゃない。
私を照らしてくれる太陽だ。
下を向いている暇なんかない。
全力の愛を向けてくれるこの子に、私も心からの笑顔で応えないと。
「そうだね。月が、綺麗ですね!」
三日月が微笑んでいる。
いつか私の手を離れるかもしれないけど、今はまだこの小さな手に私は幸せだよっていっぱい伝えよう。
「うん!!」
隣を向けば、太陽のように輝かしい笑顔がそこにあるのだから。