憤るには理由がある~ASD~
前話では湯兎が常々感じてきた怒りや疑問の一部をぶちまけた。
少しはすっきりした湯兎である。
ところで、湯兎以外の人も経験したことがある、あるいは見たことがあるシチュエーションになぜ湯兎があれだけ憤ったのか。
気持ちはわかるけど怒りすぎでは……と感じた人もいるかもしれない。
共感を覚えてくれる人もいれば湯兎的にはうれしいのだが、今回は首をひねった皆様のほうに焦点を当てる。
実は、湯兎に感情移入できず、首をひねった皆様も、それはそれで間違っていない。
湯兎があれほど鬱屈を抱えたのには、発達障害者だからこその理由があるからだ。
また、この言い方では誤解を招きそうなので付け加えておく。もちろん感情移入してくれた皆様も間違っていないし、皆様が発達障害者だと言っているわけではない。
うつ病の説明でもちらとふれたが、「発達障害者」だから○○である、と発達障害が先にあるのではなく、「○○と▽▽と××の特徴がみられる」から「発達障害者」なのだから。
さて、ではその理由だ。
発達障害は主に三つのカテゴリーにわかれている。
他者とのコミュニケーションスキルが低く、こだわりが強い自閉症スペクトラム障害(ASD)。
不注意が多く、衝動的で、落ち着きがないなどの特徴がみられる注意欠如・多動症(ADHD)。
そして読み書き、計算などに困難を抱える限局性学習症(LD)。
この人はこれだ、と一つのカテゴリーにあてはめるわけではない。一つだけのカテゴリーの人もいれば、三つのカテゴリーすべてに該当する人もいる。
湯兎はASD/ADHD混合型。
ASDとしての特徴が強いが、ADHDとしての特徴ももっていると診断された。
また、個人的な所感だが、湯兎は精神的に疲労すると「数字は読めるが文字が絵にしか見えなくなる」。これはLDに近い特徴である。
こんなふうに、一口に発達障害、といってもその症状は様々なカテゴリーの様々な症状が人それぞれに絡み合っている。
そして、湯兎が薬物治療を開始する成人するより前、激しく怒りやすかったのは、湯兎がASD/ADHD混合型だったのが関係している。
少し長いので、ここではまずASD単体の場合をみていく。
ASDはコミュニケーションスキルが低く、相手が言ったことが軽いからかいでも、本気の罵倒でも、同じ言葉なら同じようにとらえてしまう。
つまり、相手は軽くからかったつもりで「お前はバカだな~」と言っても、ASD側からしたら「馬鹿……? え、私は馬鹿なの? え、私なにをしてしまったの?」とひどく気にしたり、傷ついたりすることもあるのだ。
そしてASDはほかにも厄介な特徴がある。「嫌な記憶を頻回に思い出しやすく、フラッシュバックしやすい」のだ。
先ほどの例で言えばこうやって読書しているときにふと「お前はバカだな~」と言われたこと思い出し、「私はいったい何をしたんだろう……?」と考えが離れなくなったり、お風呂に入っているときにポンと思い出して「わからない私は馬鹿なんだ……」と自分で自尊心を貶めていったりする。
誰かがぷすりと刺した心のとげを、上からぐりぐり触って、ひねったり、おしたり。
そうしていくうちにしっかりとげが刺さるのだ――本人にもわからない間に。
楽しい記憶より嫌なことを思い出しやすく、楽しい記憶を塗りつぶしていく。
そしてチクチクした嫌な記憶しか思い出せなくなった私は、「私が全部悪い、私が一番どうでもいい存在なんだ」と自分から周りを拒絶することで自分を守った。
拒絶する。拒絶する。――でも、愛して。
手は伸ばすのに、伸ばされた手には怖がって傷をつける。
そうして、手が引っ込められたらまた傷つく。私が傷つけたのに。
――――わかるだろうか。「試し行動」だ。
ASDの人は概して自分に自信のない人が多い。
それは、相手が本気か冗談かわからない状態で放った言葉や、間違えた経験、失敗した経験などを何度もフラッシュバックすることによって、何度でも何度でも自分を傷つけるからだ。
前述の試し行動は私の発露の一つだったが、これを行動にしてみると「相手の言葉に過度な言葉のナイフを返す」になるわけだ。
相手の言葉に惑ってこちらが言葉のナイフを育てては世話がない。
自分のことだからそういえるが、他人にこれを言われると「じゃあどうすればよかったのさ!」と今でも傷ついて大爆発する自分が見えるのが厄介に過ぎる。
そして、大爆発したことに落ち込んでこれもまたフラッシュバックの対象になる。
ASDの人にはこんなとんでもない落ち込みループに陥る可能性があるのである。
実はこうやって書いているうちにも何度もいやなことのフラッシュバックは起きて、思い出している間にあの時も、あの時も――とどんどん積み重なっていく。
ひたすら心が重くなるので無理やり区切った。




