退路確保(2)
聖王国は此岸の国で、侯爵の属する連合帝国とは別の国だ。
此岸の国情は荒れ果てた旧魔国の存在くらいしか認識していなかったが、別に人間がすべて同じ国に属しているわけではないくらいは漠然とだが認識はしていた。まとまれば割れるのが集団の常というものだ。
後で情報空間にある取り込んだ人間たちの知識をさらってみてもあまり聖王国にくわしいものはいなかった。
庶民的な認識では息苦しそうな国、という印象らしい。建国者であり、神に昇格した勇者とその仲間の言行録を聖典とし、歴代の法王が加えた注釈を具体的な法律として聖職者であり官僚である教団のメンバーが軍事に民事に手腕を振るう、連合帝国とは異なる秩序を持つ国だった。
庶民の認識はこの管理が息苦しく圧政的と思われているが、カササギ準公爵はもう少し踏み込んだ理解をしていた。
人材登用という点では、もって生まれた身分、財産により大きく差のでる連合帝国より優れた国。準公爵はそう思っていた。聖王国ではよき信者となるべく義務教育が定められ、宗教教育のほかに読み書き計算を教え、識字率が高い。そして能力ありと認められた子供はより親元より放され、専門的な学校に国費で通って能力を伸ばすことができる。そういう子はたいていそのまま聖職者として国家官僚になったり、民間の商家の幹部候補として雇われたりと将来が開ける。
逆にダメな子は法王の子供でも農家の小作くらいしかなりようがないことになる。親のほうも子供の教育には熱心になるだろう。
カササギ準公爵はこんな聖王国が連合帝国の脅威になることを懸念していた。貴族であればぼんくらでも責任者になれる連合帝国は過去数えるほどの軍事衝突で形式上以外の勝利を得ていない。それほど聖王国の軍は強い。連合帝国の兵は通常の兵では数倍でやっと抗することができ、英雄部隊でさえ二倍の相手には苦戦するくらい質が高い。そして聖王国は皆兵で潜在的な軍事力は計り知れない。
だが、聖王国は連合帝国を併合しようとしなかった。神である勇者が版図の拡大を禁じたおかげだが、だからこそ聖王国は存続を続け、連合帝国他の国々は栄枯盛衰を繰り返したのだと準公爵は信じていた。
その聖王国から対岸に移民団を送りつけてくる。
ざわざわするのも仕方のないことだろう。
ノイズ交じりの興奮した声をなんとか拾ったところによると、聖王国が軍の活動や「啓蒙活動」以外で国民を外に出したことはなく、永続的に済むために移民を出すのは前代未聞とのことだ。
というのも、聖王国の民はみな満ち足り幸福に過ごしていて国外に出る必要はないらしい。
実態としてはちゃんと貧富も差別もある普通の国土らしい。
「うちの領民になりにくるなんてちょっと考えにくいよね」
かんかんがくがくの議論の詳細はすっとばして、ありそうなこととして以下の推論や案が出た。
聖王国が奪わないと宣言しているのは人間の領土。だから人間以外の支配するところなら切り取り放題で余剰人口の受け皿を作りに来た。つまり侯爵の領民にはならない。
その場合、近所に住み着かれると迷惑だ。
彼らもただで支援をしてもらうつもりはないだろう。それもないなら近く以外の好きなところにいけと退去を求めるしかないだろう。その際にトラブルになるのが心配。
それまでに、彼らを追い払うのにいい場所について、情報を集めることとする。
つまり、彼らももてあますような相手が対岸にやってくるということだ。




