退路確保(1)
交易が始まったおかげで、ホルンからの最新の情報は配下の行商人経由で渡されるようになった。
それは此岸も対岸もなく知るもののほとんどいない言語、つまり俺たちの出身世界の言葉で書かれた文書であったり、どうやって作ったのか動画の記録までよこすようになった。
まあ、タネをいえば、むかしエリナとホルンで作った密偵用の記録装置を使っただけらしい。
動画といっても不鮮明な映像ががたがた動くだけのお粗末なものだし、音声もノイズがひどい。記録も本体に書き込み、いっぱいになったら古いものから上書きしていくしかない。そして故障していないのは一台だけだった。だから報告を受けたら、次の交易で返すまで記録ができない。
これらの遺跡の魔王時代の設計図などは遺跡の奥の四天王の居室で埃をかぶっていたが、最近はエリナとリンホーがせっせと掘り出しては何と俺の情報空間に内容を映しこんでいた。単純コピーなので、俺も見ることはできるが設計を理解するほどではない。こうすると小動物召喚の要領で複写ができるそうだ。ただし一ページ小動物一匹の時間、魔力コストがいるのでオリジナルが燃えてしまったりしたときでいいと言われた。
四天王の魔王使いはなんか荒くないか。
リンホーは村の管理の仕事もやっているので、妖魔、侯爵領との交易と物資の収支にいそしんでいることが多い。本来は彼の補佐に読み書きと計算のできる者を現状でもあと一、二名はつけてやらないといけない。目下、小鬼の勘定方のゴドルだけである。単式簿記のようなものしか知らなかったゴドルは複式簿記のようなものを駆使するリンホーに学びながら目を輝かせていた。
が、同時に二人でよく愚痴をかわしてもいた。
「人数がまるで足りませんが、増やせたとしても食わせるあてがございませんな」
「農業が一番なんだが、土地を拓かなきゃいけないのが問題だ。このへんの森は案外起伏が多いし水はけがよすぎて根を深く下せる果樹くらいしか見込みがない。土壌改良込みで切り開くとなると時間も手間もかかるし間違いなく樫鬼たちが嫌がる」
侯爵領は公爵への昇格を目指して此岸の余剰人口をどんどん受け入れている。その様子はホルンの送ってきた画像でもよく分かった。
魔物の王なきいま、開墾地は南に伸び始めている。防御面に不安だらけだが、森を切りひらいて新しく開墾された農村、廃墟となったコケモモ村の取り壊しと開拓の様子、あとは魔物の王のいた台地、この三か所の開墾風景が動画記録されていた。あとは商工会かなにかの活発な会議。リンホーに聞かせれば多くの情報が読み取れるだろうというメモがある。他にも気になる会話も拾われていた。
一つは東の戦線の状況。一進一退で、死傷者は出てるものの決定的な勝利を得るどころか時々危ない状態に陥ることもあったが、英雄ケイラの従弟のルジが何度も窮地を救ったということ。これは以前、潜入したとき帰国するケイラとの会話を拾い聞きしてしまったあの少年だろう。ノイズだらけでわかりにくいが、たたえ方に政治の色が見える。彼はすでに領内に支援者を得ているようだ、
それから、聖王国からの移民の受け入れについての議論もあった。




