傭兵と交易
まず、オートマトンが回収されてしまった。
妖魔の商人、マイヤーが代わりの傭兵を連れてきたので、前の宣言通り、貸与が終了したのだ。
傭兵は人間にしか見えなかった。ただ、侯爵領で見かけた人間たちと違うところもあった。
此岸からやってきた人間たちはあんな金色の瞳はもっていない。それに、髪の毛は黒々しているが体毛は金色で全体に濃い。肌は褐色だが、これは侯爵領にも同様の人間がいる。出身地の特徴らしい。
傭兵は宵の星のヒュウイと名乗った。妖魔のような厳重なローブ姿ではなく、ファッション雑誌などで見かける漢服のような衣装をまとっていた。比べれば、こちらのほうがくたびれて少し着崩れていたが。
そしてその上から剣帯を巻いて幅広であまり刀身は長くなさそうな剣を帯びている。
武具がそれだけのはずはなく、鎧やそのほかの武器は村の空き家を一つもらってそこにしまい込んであるそうだ。
「この地の主たるタケト様にご挨拶申し上げる」
年齢はそう老けては見えないが、ヒュウイのものいいは重々しく威厳があった。
彼の名乗りは古風で、比喩も多く長いので要点だけ拾うとこうだ。
名前は名乗りの通り。ただし、秘する真名は別にあるらしい。
出身は旧魔国。つまり此岸で種族としては半魔族となる。
初めて聞く種族だが、旧魔国にすんでいた不老の魔族と呼ばれた種族と人間のハーフらしい。ハーフもまた長命で、ヒュウイも百七十五年を生きているそうだ。そんなに長く傭兵をやってよく生き延びてきたものだと思ったが、さすがに傭兵一筋というわけではないらしい。
「任務はこの村の防衛ですか」
厳しいですな、と彼は苦い顔をした。
侯爵領が本気を出したら守り切れないことはさすがに皆わかっている。
それについては、村長も交えて計画を立てておかないといけないだろう。
どの程度まで村を守るか、守り切れないという判断はどうつけるのか、その場合の避難は遺跡で大丈夫か。
これについてはスーハオにも意見があって、ヒュウイはすでに打ち合わせて防衛設備に手をくわえつつあった。
侯爵領は人さらいだけが目的の魔物の王とは違う。一度村を奪われてしまえば守りを固め、人を送り込んで奪回は至極困難だろう。できても村は元の姿はとどめていない。
だから、放棄の判断についてはもめることが予想された。
そして俺がダラたちのところに行ってる間のできごとについて、大事な報告がもう一つあった。
「非公式だが、交易の申し入れがありました」
報告するリンホーの様子が少し変だ。
「申し入れは侯爵家から? 」
「いえ、窓口あの召喚した行商人で、侯爵家からは郎党と思しき家令が立ち合いで。それから」
言い淀んだがつまりもう一人、よく知ってる者がいたという。
ホルンだった。
「全部あのいかれ野郎の仕込みでした」
口汚くなるくらい、腹をたてているが、仕込みの内訳を聞くと一言も相談もなく勝手な、という彼の愚痴も当然だと思える。
この計画は侯爵領とも取引をしたい妖魔の商人マイヤーとホルンで仕組んだものだった。
おおまかな流れはこうだ。
ホルンが潜入する。出身地とする旧魔国の近くで入手したという妖魔グッズの良さをさりげなく宣伝する。そしてこの村が妖魔と取引のあることをリークする。
商機と見た人間の商人はどう動くだろう。侯爵家に黙認してもらって非公式に取引関係を持とうとするか、あるいは樫鬼、小鬼ごときと村の支配権を奪いに来るか。
ここで大事なのは侯爵家の黙認だ。此岸の侯爵家も所属していることになっている国では魔物との関係を持つことは禁じられている。だから、黙認以上の保護は期待できない。だが、黙認するからには侯爵家にも利益が発生しているはずだ。これを損なうということは侯爵家の面子と利益を損なう行為であり、うかつに手は出されなくなるだろう。侯爵家が危険と判断しないかぎり。
穏便な関係を築くことが最善だったが、そうはいかない可能性は高かった。
つまり、マイヤーが虎の子のオートマトンを貸してくれたのはそういうわけだった。
妖魔をあなどってはいけない。オートマトンのような兵器が多数あったら魔物の王なみの脅威になる。魔王ではないので英雄の派遣も期待はできない。侯爵家は慎重になるだろう。そこで、ホルンと生き残りの行商人が関係修復を交易の形で提案するという感じだったらしい。
もちろん、利益の半分は侯爵家のものになる。妖魔の商品は本国でもひそかな人気のあるものが多く、中にはもっているだけで富、影響力、あるいは武力をしめすステータスとなるものもあった。
仕入れた商品を本国で「鹵獲品」と称して数を絞ってオークションにかける。ホルンが提案するまでもなく、目ざといイワツバメ侯爵は計算を完成させてくれた。




