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竜祖

 忘れてはいけない。騒ぎがあって後回しになったが、「夜明けの霧の声」を召喚し、竜の民に返すことをしなければならない。

 召喚する姿はおそらく、昔の姿になるだろう。竜の姿を得る前の姿だ。竜の衣を引き渡した時の記憶でも本来の鱗鬼の姿に戻っていたことは確認済だ。

 だが、その後何があったのか、スーハオの手にかかったときには全身をぶくぶくの肉腫に覆われていたそうだ。彼が「夜明けの霧の声」を手にかけたのは哀れと思ったこともあるという。

 召喚は無事に済んだ。魂は、おそらく追加してはいない。そう言い切れない何かも感じている。

 ショックを受けていたのは引き取り役のゴウラガだった。彼は竜祖が樫鬼以外の何かだとは思ってもいなかったらしい。

 彼に信じさせるのは少し骨だった。「夜明けの霧の声」と彼の仕えた魔王の話から始め、竜の民に伝わってる話と整合させていく。この根気のいる作業はリンホーが手伝ってくれたのだだいぶ助かった。

 結局、彼の疑惑は完全に解消されなかったが、一応召喚した「夜明けの霧の声」を連れ帰るということで納得はしてくれた。

 その「夜明けの霧の声」は顔見知りだったスーハオと何か話し込んでいる。エリナが何か持って観察しているのも気になる。

「何をしてるんだ」

「現状の説明」

 これはスーハオだ。

「魂できてるかの確認」

 そしてエリナ。

 説明はともかく、魂の有無なんか確認できるのか。

 ロクザン翁ならできそうだ。なら、彼女もそのへんの知識があってもおかしくはない。

 それで、どうだったのだろう。

「で、確認できた? 」

 よくわからないという答えが返ってきた。

「皆無じゃないけど、芽というか種のようなものだけある感じ。時間がたったら自然に一人前の魂に育ったりするんじゃないかしら」

 そんなことあるのか。

「そのへんはきっとロクザンさんのほうがくわしいわね」

 丸投げしちゃったよ。

 だからって、そのために師匠を呼んだりしないからな。

「そうか、俺は死んだのか」

 なぜかほっとした声で「夜明けの霧の声」はつぶやいた。

 鱗鬼には鱗鬼の言葉があるのだろうが、彼は樫鬼の言葉をしゃべった。たぶん長いことそちらばかり使ってきたせいなのだろう。

「それで、呼び出したということはしてほしいことがあるのだろう」

 このへんの反応は魂ありとは確かに違った。魂ありなら、召喚者とのつながりを気にして受け入れるかどうか少し考え込む時間が発生する。だが、彼に迷いはなかった。

「それについては彼から伝えてもらおう」

 せっかくだから、ゴウラガに丸投げした。話が違うときには口をはさむつもりだったが、この男は堅物らしく夜明けの花と取り決めた内容から逸脱するようなことはしなかった。

 まあ、後継者選びの時に最適な人物を選んでくれ、というのとあとは精神的支柱になってくれというそれだけのことだったが。

「退屈しそうだな。新しい殿にお願いしたいが、何か別に仕事をくれ」

 この主張が魂の萌芽なのかもしれない。

「仕事が決まるまで、何もないときには時々ここにきていいか」

 ゴウラガが険しい顔になった。

「それは後で当代飛龍様もまじえて相談しましょう」

 絶対反対、と顔にかいているが、当主をたてることは絶対忘れないらしい。

 これも、樫鬼の頑固さの一つなのだろうか。

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