傲慢と報復(3)
入り江の監視小屋から検分が二人やってきた。
いずれも侯爵領の兵士共通の革鎧を着て、武器は若く口ひげの今一つ似合わないほうは金属環をはめたバット、上司らしい胡麻塩頭の年配のほうは手かぎのようなのを持っている。歩いてくるのが大変というより、遺体を引き取る必要があると思ったのだろう。入り江の外側からつないであったらしい大型ボートをふんどし一丁の水夫四人にこがせてやってきた。
「生存者と彼の供述はここに」
警戒心を隠す気のない二人の軍人に、俺は妖魔からもらった薄葉紙を綴じたものを渡した。きれいに成形、製紙されていて、侯爵領で使われている木簡や高級な用途にだけ供される皮革紙とはまた雰囲気の違う紙。こんな用途に使うものではないと彼らは目をむいていた。
生存者は実際には一人もいない。いま、そこで後付けで作られたこぶを抱えていたそうにしている魚醤人は、本人の幽霊と本人の死体を使って召喚したものだ。もちろん魂なしで、いろいろ言い含めをすませてある。
人間の証言者がいなければ、難癖はつけ放題だというリンホーの言葉に対するこれが回答だ。
選んだのは行商人の一人だった。ホルンとつながりのあったほうだ。もう一人はもうけ話をかぎつけてきただけなので役に立ちそうにない。
巻き込まれた被害者であるし、訳が分からないまま殺されてしまった水夫などとは違って、事情をはじめから知っている。仕組んだホルンともつながりがある。
家族はいたが、愛想をつかして此岸の実家に戻ってしまった奥さんと子供が一人だけ。子供は預けている形になるため、費用だけ送っておけば対岸まではわざわざこないだろう。来るとすれば商売が成功して大きな店でも持ってしまったあとだ。
都合がよいし、この男もホルンの仕込みのために選ばれたのだろうなと思うと気の毒でもあった。
彼の知ってること、認識はそのまま語ってもらえばいい。嘘を吹き込む必要もない。実際、彼は止めようとしていたのに、あのリーダーが焦って武器を抜いてしまったのだ。それを証言してくれるだけで十分だ。
「あれで防戦したのか」
ごま塩頭が気味悪いものを見るように小鬼数人で返り血をきれいにしているオートマトンを見た。
「あの人数だ、虎の子をだすしかなかったよ」
しれっとそう応じると、彼はため息をついた。
「あんなものがあると知ってたら止めたんだがな」
「われわれは平和的に共存できればよかったんだ。敵意を向けられてないのにあんなもの見せびらかしてはろくなことにならん」
敵意を向けたのは、死体となった襲撃者たち、というところを強調しておく。
「あれは一つだけかね」
「そのへんは答えかねるが、まあ、そうやたらあるものではないな」
借り物だし、最後には返してしまうのでそのへんはあんまりはっきり答えないでおこう。
数があると思われると脅威に思われてろくなことにならないし。
ほかに闇鬼のゴーレムもありますなんて言ったら討伐論が出てくる。
「とにかく、遺体と生存者を引き取っておくれ。頭に一発もらったが運よく生き残ったたった一人だ。ショックを受けてる」
兵士二人は水夫たちとともに死体をボートに積み込んだ。あまり重くしたくないのか武器などはその場においてしまう。
「これはもらっていいのか」
「いや、後で取りに来る。数は数えてあるからなくさないでくれ」
小鬼たちががっかりするのがわかった。とはいえ、今は侯爵領の敵意を買うことはしないほうがいい。
襲撃者たちは傲慢さゆえに身を滅ぼしたが、明日はきっと我が身なのだから。




