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竜の衣

 本来の飛龍は言葉など話さない。純粋の野生の生き物で巣を縄張りを守って孤独に巡回しているような生き物だという。

 だから、樫鬼の一族を率いる飛龍というのは不自然な存在だった。

「魔王の力を外在させたとき、配下の者を龍形に強化することは珍しいことではござらん」

 不自然だが、珍しいものでもなかったらしい。主の魔王が滅びる等の結果いなくなった後も彼らは死ぬわけではなく、討ち果たされるか、寿命を迎えるまでは力を誇り続けることができる。

「滅びる『等』? 」

「ほかの魔王に降ったりする場合ですな。いろいろあるようですが、そのへんは神にでもお尋ねを」

 スーハオを見ると、彼はかぶりをふった。

「わしは基本内在させましたからな。ただ、外在させたのはただこの護拳のみ」

 軽くこんと叩いたのは左手につけた手袋。一見、ごつい革手袋だが革というよりゴムにようだし、中には硬いなにかが入っている。

 どう使うのかわからないが、こういう魔王の力をものに外在させることはわりとあるらしい。中には外在させた剣を人間の英雄に盗まれ、それで討たれた魔王もいるそうで、もしかしてそれって人間の世界で宝物として結構のこっているのじゃないだろうか。

 そう思うと、魔物の王との最初の戦いの時だけ女公爵の英雄、ケイラがつかったあれなんか怪しい。

 スーハオのそれは遺跡の宝物蔵の隅っこに埃をかぶっていたそうでよく残っていたものだ。

 ただし、奪えば誰でも使えるというものではなく、道具の場合はそれぞれに条件があるらしい。由来を知ることがその第一歩なので、名前も残っていない魔王の遺品がどこにどんなものがあるかはもうわからない。

 生きてる者に外在させた場合、その相手がどれだけの寿命を持つかは与えた魔王による。

 不老不死さえその中にはあるそうでスーハオは飛龍の正体をまず、塩対応の樫鬼たちと根気よく交流して探り出した。その属性によっては対応が変わる。

「不死であればそのまま人間どもにぶつければよろしかった」

 不死の実現方法にもいくつかあるし、不滅というわけではないので倒しようはある。それでも倒しきるまでにかなりの時間稼ぎができるので、彼としては最初はこれを期待したのだという。

 その場合、ダラたちを見捨てるか、説得して避難させるしかなかったわけだが。

 しかし、そうではなかった。

 竜の民を率いる飛龍は世代交代する。

 飛龍の役割は部族の樫鬼から選ばれたものが担い、寿命がつきるころまで務める。そのころになると候補の者は前任者より、眠り続ける「夜明けの霧の声」を介して「竜の衣」すなわち飛龍の体を受け取る。

 無事、引継ぎができれば前任者は初代とよく似た姿になって短い余生をすごすことになるし、新任者は時間はかかるが肉体が変容して飛龍となる。

 これが常に一回で成功するなら特に彼らも問題とは思っていなかった。

 引継ぎは結構な頻度で失敗したのだ。失敗した場合、候補者のほうが干からびて短い余生をすごすことになってしまう。経験則で成功しそうなものの素質はある程度割り出してあるが、それでも失敗は起きてこれが竜の民のストレスになっていた。

 「夜明けの霧の声」の意識がはっきりしていたころなら、適性のあるものを自ら選びだすこともできたし、その場合は失敗はなかったという。だが、いつしか彼は眠りがちになり、とうとう目覚めなくなってしまった。

 竜の民は、犠牲を受け入れて継承を続けてきたのだ。

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