表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/455

人間たち

 予定では、俺はその夜には村に戻ることになっていた。もちろん皆を心配させているからだ。

 そのためにもこの来訪で情報は密度高くとっておかなければならない。そのためには何が必要な情報かも見抜く必要がある。それを俺は「肌感覚」と抽象的に呼ぶことにした。同じ情報でもそれを知ってるのと知らないのでは人間たちの行動の予測が大きく外れるか正鵠を射るかの大きな差が発生する。

 まず、侯爵領、人間の版図はでたらめに拡大しているということだ。初期は土塁を築いて現地の樫鬼等の襲撃に備えたようだが、今はそんな余裕もなく新しい土地を求めて拡大している。

 もし、まともな軍隊があるなら今攻め込めば人間たちを滅ぼすことができるだろう。それくらい無防備なのだ。だが、攻勢に出ているのは人間たちで、このへんで一番の勢力である東の樫鬼、鱗鬼の軍勢と押し合いになっている。

 屋敷から出ないロクザン翁と違って、執事のモロシゲはいろいろ知っていた。

 さすがに防御面の不安は人間側にも問題となっていて、小さめの砦をいくつか、連絡、連携を前提に設置し、いったんその線より外には出ないよう規制されるということになっている。その線がダラたちの復興廃村とどういう関係になるかは気になるところだ。距離が十分あればいいのだけど。

 それとは別に、魔物の王のいた台地を貴族、管理区画とし非常時の市民疎開先として城塞化する計画も出ているそうだ。いまの旧市街の土塁では不安なのと、将来公爵となることを見据えて伯爵、子爵を任じてまかせる町を増やしていくなら、それにふさわしい領都が必要と考えたらしい。つまり、あのへんが門前の第二の町になっていく予定ということになる。

 やってくるのは此岸で恵まれなかった人たちなのだろう。町の雰囲気は開拓の機運に満ちたものだった。これは簡単には止まらない。気持ちをくじくためには生半可なことではだめだろう。

 あの、英雄の弟かなにかと思われる少年など、おそらく英雄候補として侯爵のところにわたってきたのだろう。やめてほしいという家族の心配をふりきって、あのように目を輝かせた人たちが集まってきているのだ。

 英雄の有無に関係なくこれは面倒くさい。

 その英雄はどうやって生まれるのか、これもモロシゲ執事から聞いたのだが、ただの人間がある日英雄に化けるというわけではなく、武勲を地道に重ねた武人が実績の積み重ねからいつしかそう呼ばれる、だいたいは雇用者である貴族がそう呼ぶことで始まるのだという。英雄と呼んだ貴族は面子もあるので可能な限り最良の装備と、必要なら最前の人事を適用するので強くなる。

 確かに魔物の王と戦った英雄部隊はいい鎧を着ていた。魔法の触媒など補給物資も潤沢だったように見えた。

 英雄部隊が生まれてしまうと、非常に面倒になるだろう。

 それでなくとも、俺は、もしかしたら侯爵領とも平穏な関係が構築できないかと淡く期待をしていたのだが、「肌感覚」で知るというのは本当に大事で、このままでは無理だろうと実感した。

 人間どもは勇敢で傲慢でそのくせ努力も怠らない。駄女神があんな依頼をしてくるのもわかる。彼らは自分たちの都合で生き物の存続を脅かすだろう。

 物語の魔王が恐怖で人間の心を折りにかかったこと、あれは間違った選択ではないのだ。でなければ彼らが魔族とさげすむ多様性のある世界は滅ぼされてしまう。さばえなす悪しき神々を布都御魂で切り従えたようなことになる。

 だが、恐怖による支配はちょっとしたことで破綻するだろう。人間は都合のいいファンタジーに飛びつく。それこそ英雄を越える勇者の神話など創作し、そしておそらく実現してしまう。多様性のある世界はまとまりが弱い、ちょっとしたこと、はどうしても起きてしまうだろう。

 答えはない。だが、俺もあきらめの悪い人類の魔王としてこれをなんとかしなければ、いつか追い詰められて討たれてしまう。妖魔たちに見抜かれ、英雄に見抜かれそうになった通り、魔王の属性は隠しきれないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ